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『あんぱん』第117回 強烈すぎる「のぶのおかげ」の大合唱 別に何にもしてないのに!

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『あんぱん』主演の今田美桜(写真:サイゾー)

 もういつものことだけど、『千夜一夜物語』のキャラクターデザインも天才・柳井嵩(北村匠海)の手にかかればお安い御用、特に苦労もなく大評判となりました。今回はスケジュールについてちょっと大変っぽい描写はあったものの、いわゆる「ゼロイチを生み出す苦悩」については相変わらず描かれません。ヒロインはのぶちゃんをモデルで一丁上がり。風来坊はヤムさんでどうだ。鬼の手嶌も一切ダメ出ししてきません。高知新報で50分でマンガを描き上げてからというもの、ずっと嵩は「やればすぐできる子」として描かれています。

『あんぱん』「アンパンマン」がなんだかわからん

嵩「ボクには無理だよ……」
のぶ・手嶌・たくちゃん・八木ちゃん・ツダケン・その他もろもろ「やれ」
嵩「できたよ……」

 この繰り返しをずっと見せられているわけですが、これどっちなんだろうな、と思うわけです。脚本の中園氏にとって、こういう作家像というのが「謙虚だけど絶大な才能を秘めている者」という憧れの対象として描いているのか、本当に「ゼロイチの苦悩」を感じたことがなくて、中園氏本人が今までスイスイ仕事ができちゃう人だったのか。どっちにしろ全然おもしろくないし、このNHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』がスイスイ仕事の結果だとしたら、このスイスイに何の意味もないけどな。

 あと、柳井嵩がいつの間にか「美術監督を担当した」ことになってたのにも引っ掛かるんです。劇中、嵩の仕事はあくまでキャラクター原案で、手嶌治虫(眞栄田郷敦)が電話でスタジオに「背景は柳井さんのキャラに合わせろ、やり直し!」とか指示してたシーンがあって、美術監督なら背景も含めて全部やるものだろうし、こういう細かいとこの雑な処理もなんだかなぁーという感じです。

 第117回、振り返りましょう。

嫌な予感しかしなかった

 劇場から帰ってくると、柳井家に手嶌から電話がかかってきます。聞けば『千夜一夜』は日本中で大入り満員、大盛況なんだそうです。監督・手嶌と美術監督(なんだよな)・柳井の2人が己の才能を証明した、その成果を確かめ合う重要なシーンです。「やっぱり君はすごい」「君こそが天才だ」そう言い合って「また何かやろう」「日本中を驚かせてやろう」と、大きく夢を膨らませる瞬間なのです。しかし嵩は受話器を耳から外して、こんなことを言うのです。

「のぶちゃん、手嶌さん」

 なんということでしょう。この「のぶちゃん、手嶌さん」は迷作『あんぱん』の中でも屈指の迷シーンだと思いますよ。激ヤバだよ。公開初日だぜ。別に手嶌が「のぶに電話替われ」って言ったわけでもないのに、自発的にのぶに受話器を渡す嵩。完全なる、のぶ依存症。なんとしても「『千夜一夜』ものぶのおかげ」としたいのに、制作中に何もさせられなかったから、こんな極端すぎる方法に頼るしかない手詰まり感。もう見てらんない。

 そしてこのあたりから「今日は『のぶのおかげ』をやるぞ」という強烈な意思を感じたんですよね。ものすごく、嫌な予感がしました。そしてまあ、嫌な予感というのは当たるものです。

「アンパンマンが日の目を見たのは」

 いつぞやの編集者が家にやってきて「次回作をうちで書け」と言ってるんですが、これも「書け」なのか「描け」なのかわかんないからモヤるわけです。さんざん「マンガ家だ」「マンガを描け」という話を作っておいて、手嶌作品の美術監督として名前も売れて、やりたいことができるというタイミングを演出しておいて「マンガを描いてください」と言わせられないストーリーの弱さ。「今こそマンガを描きたい!」と嵩に言わせられない史実とプロットの食い合わせの悪さ。

 結果、「アンパンマン」のデビューはマンガではなく、文芸誌に短編小説と挿絵という形で載ることになるわけですが、もうそれが嵩の本意なのかどうかもわからない。イラストは2色刷りみたいだけど、これ彩色は誰がやったの? 嵩がやったなら、どんな気持ちだったの? マンガにしたかったんじゃなかったの?

 なんで嵩がどう考えているかわからないかといえば、全部のぶがしゃべるからです。コンセプト説明ものぶ、原稿を持ってくるのものぶ、掲載誌を持ってくるのも走るのぶ。のぶのぶのぶ。コーヒー淹れたばっかの汚ねえ手で原画を触るなよ。

「アンパンマンが日の目を見たのは、のぶちゃんのおかげだね」

 いよいよ言いやがったってセリフですが、ここまで「のぶのぶ」を積み重ねたら逆に違和感ないですわ。ハイハイ、ありがとうありがとう。

 そうやって「作品が出来たのはのぶのおかげ」だけならまだ許せるけど(許せないけど)、後半には羽多子さん(江口のりこ)相手に創作理念やら作家自身の解釈まで語り出しましたからね。「おまえが歌うんかい」ならぬ「おまえが語るんかい」状態。いったい何を見せられているのか、といったい何度思えばいいのか。なんなのか。

 あと最後のほうで原画を画鋲で壁に貼ってる(原画を画鋲で壁に貼ってるよ!)を見て満足そうにしてるのぶさんなんですけど、もうマンガは描かなくていいってことなんですかね。「マンガ描け」つってゴリ押しで生まれたキャラだよね。ホントにまるで筋が通ってない人になっちゃってますね。

有馬温泉はなんだったの

 あら、羽多子もメイコ(原菜乃華)も普通に出てくるんだな。そら昨日は『千夜一夜』キャラデザの真っ最中で今日は公開日だから数カ月は経ってるだろうし、そんな長旅をしてるわけないんだけど、じゃあ昨日の「一緒に行く」だの「1人じゃどうこう」はなんだったのよ。もしかして何かの伏線なのかしら。明日はアンパンマンが有馬の空を飛ぶのかな。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/09/09 14:00