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『あんぱん』第126回 要するに脚本がヘタなのである ただそれだけなのである

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今田美桜(写真:サイゾー)

 今日もいい加減に始まったなと思いましたよ。

『あんぱん』視聴者の思考停止を促している

 ミュージカルを見る子どもたちの写真をめくりながら、「子どもたちが笑ってる顔は、ホントにいいなぁ」とつぶやく嵩(北村匠海)。NHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』は先週まで125回も放送されているわけですけど、このドラマにおいて「子どもらぁ」は、のぶさん(今田美桜)の専売特許。嵩は終戦直後に闇市で働いていたから、そこで飢えた子どもを何人も見ているはずですが、まるで見えていないかのように何も言及してきませんでした。

 戦場でも、幼なじみの岩男が子どもに撃ち殺されるということがありました。岩男の死については終盤になって、ようやくつじつまの合わない形で触れられましたが(ずっと墓参りに行っていたという後付けは本当にひどい)、その岩男を殺したのが子どもだったことには特に何もご意見はないようですし、今さら「子どもたちの笑顔」がどうこう言われたって知ったこっちゃないんですよ。子どもたちが笑ってる顔は、ホントにいいよ。それを否定するわけじゃなく、このドラマの最終週になっておまえがそれを言ったところで何の意味もないんだよ。

 で、「子どもたちが笑ってる顔がいい」と言った嵩に、のぶは「アンパンマンは本当におって、お腹が空いたら飛んできてくれると信じちゅうがよ」と返します。

 確かこのミュージカルは「アンパンマン」を描いたヤルセ・ナカスというマンガ家と編集者の話だったよね。この時点で子ども向けじゃないんだけど、それを見て「アンパンマンは本当にいる」と子どもたちが信じたとするなら、何も伝わってないってことなんじゃないの。ただハマケンのビジュがおもしろかっただけなんじゃないの。

 ミュージカルの内容をちゃんと見せないで、それがどういう話であるかが視聴者に提示されないで、本来なら子どもたちが大喜びするようなモノじゃないのに、「そうであった」とまた捏造している。極端に簡素化された「史実らしきドラマ」を作るために、肝心の史実が、脚本家が書きたいセリフのために空っぽにされている。もう今さら言うことじゃないけど、ホントにいい加減にやってんなって話です。

 話戻るけど、「実は登美子(松嶋菜々子)が見に来てた」というのもひどい。

「母さん……、母さん見に来てたの?」

 ミュージカルシーンでの嵩の主なムーブは「客席を見る」だったよね。とにかく客入りにしか興味がなくて、空席か満席かしか考えていなかった。その数十人の客席に母さんを見つけられないわけないし、羽多子(江口のりこ)がいればそこに目が行くだろうし、終劇後に登美子が嵩に声をかけないわけないし、のぶや羽多子が「登美子さん来てたよ」と嵩に言わなかった意味もわからない。後付けにしてもダイナミックすぎるだろ。

 その登美子がアンパンマンに批判的な編集者を「作家が魂を込めて描いた作品を批判するなら、正々堂々自分の意見としておっしゃい、卑怯者」などと詰めていますが、その魂を嵩本人に語らせないで、ずっとのぶに代弁させてきたのがこのドラマだったよね。正々堂々、作家の意見として嵩に一切おっしゃらせなかったよね。それは卑怯者じゃないのかね。

 そんで高知に旅行に行くんだってさ。嫌な予感がするね。第126回、振り返りましょう。

嫌な予感、外れた!

 アバンまでで感じた嫌な予感というのは、今までさんざん放置されてきた「やさしいライオン」の原点である千代子さん(戸田菜穂)についてです。久しぶりに登場する御免与の町で千代子さんと再会したのぶさんが、また盛大に後付けをしてくるのではないか。嵩がどれだけ千代子さんのことを思ってきたか、一切描いてこなかったくせに、そういうことをまたぞろ臆面もなくツラツラと語り出して、千代子号泣。「わかっていたわ」とか言いながら、後付けエピソードが乱打されるのではないかと、そういう予感でした。

 逆に言えば、それくらい落とし前を付けなきゃいけないことが、嵩と千代子との関係には残ってるはずだったんです。

 高知旅行、行かなかった。

 いや、行ったことになってはいるんだけど、何もなかった。御免与の町も久しぶりに登場しなかったし、千代子の顔も見られなかった。何も清算されなかった。

 そういうことをしておいて、いくら嵩と実の母親との和解を描いても意味がないし、どれだけ苦労をかけて育ててもらっても、「結局、成功を収めた嵩は血筋を優先して育ての親を捨てました」という話にしかならないんだよ。まさかそうはしないだろうって、そこだけはちゃんとやるだろうって思ってたけど、やんないのかな。これ、モデルである故人に見せられるのかね。

 あと、どうでもいいけど嵩のマンションは神社の階段の上にあるの下にあるの。なんか雑誌持って帰宅を急ぐのぶがあの階段を駆け上がってくシーンあったよな。

 エモを作ろうとすると必ず矛盾が発生するんです。高知旅行だって、おそらくは嵩と登美子が枕を並べるシーンを撮りたかっただけなんだろうけど、高知旅行にしちゃったから千代子の存在が蒸し返されている。神社のシーンも、嵩に手を合わせる登美子を撮りたくて羽多子とのぶとの距離を置くために「神社」と言ってしまうから、過去のシーンとの辻褄が合わなくなってしまう。

 要するにヘタなんすよ。いろいろ倫理的な問題とかあったと思うけど、要するに脚本がヘタだからつまんないんだと思う。もうそんだけだわ。あと4回だわ。ほいたらね。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/09/22 14:00