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『あんぱん』第127回 戦争で殺した兵士に家族がいたことを悲しむ資格は、このドラマにはないんだよ

『あんぱん』第127回 戦争で殺した兵士に家族がいたことを悲しむ資格は、このドラマにはないんだよの画像1
今田美桜(写真:サイゾー)

 ドラマレビューですから基本的には画面の中で行われたことだけに言及するようにしているわけですが、今日はあまりに書くことがないので外の話からしましょうね。

『あんぱん』要するに脚本が下手

 21日、最終週が始まるにあたってこの週を演出しているNHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』ディレクターの松川強氏がX(旧ツイッター)でこんなことをつぶやいていたわけです。

「(略)あのカップル(蘭子八木)の行く末は?(略)全てご回答致しますのでご覧くださいませ!」

 今日のシーン、このドラマにおける戦争への総括を行うシーンかと思ったら「蘭子八木カップルの行く末」だったんですね。何しろあの不必要に薄暗い応接室を演出した演出家自身がそう言ってるんだから、それはそうなんでしょう。

 妻夫木と河合優実には言ったのかな。「このシーンは君たちカップルの行く末だよ、そのつもりで演じたまえ」とかさ。だとしたらすげえ芝居だったと思うな。まるで「カップルの行く末」を描いたシーンには見えなかったもん。別に大したこと言ってないけどな。

 ほいたら、第127回、振り返りましょうか。

ばいきんまん爆誕

 嵩(北村匠海)は「ミュージカルをやってみてわかった、悪役が必要だ」と言ってばいきんまんを生み出していましたが、こっちはミュージカルの内容を知らないし、どうやら子どもたちは大絶賛していたということみたいだし、それをもってなんで「悪役が必要だ」と思ったのかわからんのよ。そんで、もうずっとそうだけど、「やる」と決めたらすぐできちゃう嵩。もはや何の感慨もない。

 で、そのばいきんまんもまたぞろ子どもたちに大人気だそうですが、キューリオの学童(?)の年齢層が急に下がったのはどういうことなのか。何か投与しているのか。あの子ら、あの年かっこうのまましわくちゃのジジババになって「夢を見たの……人がたくさん死ぬわ……」とか言い出すんじゃないのか。

 とかまあ、そんな感じですけど、ばいきんまん以外のキャラがワラワラと湧いて出てくるあたりはさすがに天を仰ぎましたね。もはや完全に生成AIと化した柳井嵩。もう想像を絶するといいますか、おもしろいとかおもしろくないとかいう以前に、何も提示されてない。「どんどんキャラクターが動き出したんだよ~」じゃないんだよ。何か投与してんのか。

 というか、冷静にアレしますとここのセリフもすごく変で、「どんどんキャラクターが動き出す」というのは、例えばばいきんまんならばいきんまんについての物語がどんどん思い浮かんで、次に出会う事件やしゃべるセリフがまるで作家の意志を追い越すようにペンが進むときに使う表現であって、ここで出てくるしょくぱんまんやカレーパンマンは全然動き出してないじゃん。全部止め絵じゃん。

 柳井嵩という作家の人生を描くうえで、こういう言葉使いのお粗末さは致命的だよと、今さらながらに思うんですよ。せめて言葉選びくらいちゃんとやってあげてほしかったと思いました。ホントに、あらゆる方面からモデル人物を殺しに行ってるよね。食い荒らされてズタズタやで。もうやなせたかし氏、顔半分くらいなくなってるんじゃないの。

で、戦争の話

 カップルの行く末だとしても、やっぱこれはダメなんですよ。

 八木ちゃんの戦争への悔恨を「自分が殺した敵兵が家族の写真を持っていた」という事実に帰結させることは、『あんぱん』が絶対やっちゃいけないことなんです。故郷に家族を残して死ぬことがいちばんつらくて、それが戦争の悲しみだと発信する資格は『あんぱん』にはないんです。

 もう何度も言ってるけど、だって岩男に同じことが起きてるから。故郷に家族を残して戦場で死んだ岩男に、『あんぱん』は家族の顔を思い浮かべさせなかったから。しかも、リンという子どもを登場させて、そのリンに「まだ見ぬ息子の面影を見ている」とまで言わせて、そこまで家族愛のある人物だと言っておいて、岩男の死に際に妻の名前すら呼ばせなかったから。

 しかも、そうやって岩男に妻の名前を呼ばせないことで、別に『あんぱん』は何かメッセージを訴えたかったわけでもないんですよね。ただそこで「チリンの鈴」の設定を拝借したから、その「チリンの鈴」に辻褄を合わせにいっただけなんです。しかも「チリンの鈴」に一匹狼として登場したウォーを、愛する家族が待つ岩男に重ねるという愚の骨頂をやらかしてるんだから、辻褄なんて合うわけないのに。

 この岩男の件と、コンタの略奪を美談にすり替えた件、この2つだけ見ても『あんぱん』が戦争と真面目に向き合ったとは思えないし、これで「向き合った」と胸を張るなら二度とドラマなんか作らないほうがいいよ。あんたたちの無能は人を傷つける。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/09/23 14:00