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歴史エッセイスト・堀江宏樹の大河ドラマ『豊臣兄弟!』放送談義【特別編】

新大河『豊臣兄弟!』ついにスタート! NHKが目指すのは“革命”ではなく“復古”であるこれだけの理由

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『豊臣兄弟!』の主演・仲野太賀(左)と池松壮亮(写真:Getty Imagesより)

 期待の新大河『豊臣兄弟!』の放送がいよいよ始まりますね!

お上の逆鱗に触れた“秀吉タブー”

 しかし、いきなりネガティブですいませんが、『豊臣兄弟!』にはある種の不安がつきまとうのです。

 筆者は歴史業界の末席にいますから、昨年の秋頃から『豊臣兄弟!』は前向きなエネルギーにあふれた「華やかで男性的な戦国モノの大河」らしい、と伝え聞いてきました。

 また昨年12月になると、公式サイト上で1分間のトレーラー動画や、2分間のPR動画が相次いで公開され、そうした印象を打ち出そうとしているのは事実だと確信しました。

 しかし……「強い絆で結ばれた兄弟が戦国の世を駆け上がり」云々というナレーションを伴い、白い歯を見せて笑う「豊臣兄弟」の二人が映った時点で、「これは本当なのか?」という思いがフツフツと筆者の中に湧き上がってきたのです。

 そもそも主人公・小一郎(のちの秀長)を演じるのが仲野太賀さんであること。そして秀長の兄・藤吉郎(のちの秀吉)を演じるのは池松壮亮さんなのもポイントです。

 彼らが若い世代を代表する演技派俳優なのは自明です。

 ただ、彼らの直近の共演作に、山本周五郎氏の原作を宮藤官九郎さんが現代を舞台に脚色したドラマ『季節のない街』(2023年にDisney+で配信、2024年にはテレビ東京でも放送)があったことを思い出してください。

『季節のない街』は、「ナニ」と匿名的に呼ばれている大災害ですべてを失った人々が暮らす仮設住宅の物語です。絶望の中の笑顔が印象的な作品でした。

 仲野さん演じるタツヤという生真面目な青年は、毒母の愛を求めているにもかかわらず、母親が愛しているのは、ほとんど帰らないタツヤの半グレの兄だけ。タツヤは母から愛されず、口先だけの感謝を捧げられながら、実は疎まれている弟にすぎず、その事実に傷つき、うらぶれつづけていました。

 また池松さん演じる半助は、仮設住宅の潜入調査のために雇われて送り込まれたスパイ的な立ち位置で、無邪気さと虚無感を感じさせる存在でした。しかもタツヤの毒母役を熱演していた坂井真紀さんが、『豊臣兄弟!』でも兄弟の母親の「なか」役なんですよね……。

 ダメ押しするように、『豊臣兄弟!』の脚本家は八津弘幸さんです。彼は大ヒットドラマ『半沢直樹』(TBS系列)の人というだけではありません。NHK朝ドラ『おちょやん』で地獄展開の数々を我々に見せつけた人でもあるのです。思えば、兄弟の長姉にあたる「とも」役の宮澤エマさんも『おちょやん』で、クセが強い継母役を演じていた記憶があります。

 ちなみに兄弟の母の「なか」、姉の「とも」の名は、両方とも江戸時代についた俗称にすぎず、彼女たちの本名はよくわかっていません。なにより奇怪なのは、やはり実名不詳の兄弟たちの父――もしくは養父とされる通称・筑阿弥(竹阿弥)の姿が放送前公開の相関図をはじめ、ドラマのどこにも見当たらないという事実です……。

 早逝説を採るにせよ、通常の「大河」なら回想映像にだけ出演する父親役の俳優さんが発表されているはず。それがない、ということは、ワケアリのシングルマザーの家庭として、兄弟の生育環境が描かれるということではないでしょうか。

 放送開始前の『おちょやん』も、NHKによると「松竹新喜劇の看板女優・浪花千栄子さんをモデルに、波乱万丈の人生を明るく描く」とされていましたが、蓋を開けると本当に笑えない展開だらけでした。本作『豊臣兄弟!』がそうならない保証はどこにあるのでしょう。というか、ここまで読んできたドラマ通の読者の大半が本作独特の「やばさ」に気づいておられるはず。

『おちょやん』のヒロイン・竹井千代(杉咲花さん)は、朝ドラ史上最悪の毒父とされるテルヲ(トータス松本さん)に幼くして奉公に出されましたし、その後も「まぁ~大変」というしかない内容つづきでしたが、たしかに八津さんの脚本のおかげで記憶に(トラウマティックな形で)残る名作にはなりました。

 だからこそ『豊臣兄弟!』のトレーラーで明るく笑う兄弟を見れば見るほど、筆者が強く感じてしまった違和感の本質は、「こんな明るく前向きな話として進むわけがない!」という一種の確信でした。本作は『季節のない街』と『おちょやん』の地獄のコラボ作になりかねないのでは……。

 ドラマでは長年行方不明だった兄・藤吉郎がとつぜん実家に戻ってくる姿が描かれるようですが、父は早逝(?)、兄も10歳くらいで家出し、行方不明になっている中、長姉に助けられながらも一家の唯一の男として家族の世話をしてきた小一郎が、兄の帰還を素直に受け入れることができるものなのでしょうか。もしくはそう描いていいものなのでしょうか。明るく描いているのはトレーラー「だけ」だと考えない限り、あまりに表面的な作品になってしまうおそれもあります。

革命的すぎた内容で失った潜在的視聴者の評価は?

 筆者の不安をさらに後押ししたのが12月になってから、ある種のメディアが一斉に書き始めた大絶賛記事のオンパレードでした。たしかに『豊臣兄弟!』の前作『べらぼう』は歴史関係者やドラマ好きの評価は高かったものの、総合視聴率では歴代ワースト2位を記録しており、NHK側としては高視聴率が期待できるはずの「戦国モノ」の本作でのさらなる失敗は絶対に避けたいのでしょうね。NHKはだいぶがんばって、PRしている模様です。

 これまでの「大河」では珍しい文化人属性の主人公が『光る君へ』と『べらぼう』の2年連続で続くなど、ここ最近の革命的すぎた内容で失った潜在的視聴者――昭和~平成初期の黄金期の「大河」に親しんできたシニア層のハートを、『豊臣兄弟!』でもう一度つかみにいく作戦なのだと思います。放送直前にほとんどドラマの情報は出さず、ポジティブな印象だけを与える短い映像のみ出すのも作戦の一環でしょう。

 おそらくNHK側で「反面教師」になっているのは、『どうする家康(以下、どう家)』だと思われます。『どう家』では、「大河」が繰り返し描いてきた戦国武将の像、とくに徳川家康像を塗り替えたいがため歴史の読み替えが目立ちました。

 たとえば松本潤さん演じる主人公・家康も「気弱なプリンス」として描かれました。つまり「革命(revolution)」を狙った作品だったのですが、「悪くはないけど良くもない」あたりに落ち着く評価に終わっています。

 それにくらべ、『豊臣兄弟!』の人物像や物語の背景の設定には、主人公が豊臣秀吉ではなく、その弟の秀長という「やや」マイナーな人物である以外、目新しい部分はまだなにも見えてきません。実にオーソドックスなのですね。

 幕末モノの「大河」では坂本龍馬を演じる俳優に注目が集まるように、戦国モノでは織田信長役の俳優さんにスポットライトが当てられます。『どう家』では過度に暴力的で、しかも家康に異常な執心を見せる信長像(岡田准一さんが熱演)が提示されましたが、本作『豊臣秀長!』では小栗旬さんが、伝統回帰的にフツーに「かっこいい」信長を演じてくれるようです。小栗さんといえば『信長協奏曲』などの民放のドラマで信長役を演じたことがあるため、安定感は抜群。しかし既視感も強く、そのキャスティングの革命性は感じられません。

 革命的といえば、『どう家』ではリアルさとマンパワーが売りであったはずの、戦国大河名物の合戦シーンの多くが最新技術を投入したCG映像に置き換えられていましたよね。主人公・家康が乗る白馬まで「作り物」なのが『どう家』の特色でした。これについては「おウマさん問題」として今でもその衝撃を記憶しているほどです。

 一方、『豊臣兄弟!』では予告編を見る限り、昭和~平成初期の「黄金期大河」同様、野外撮影でCG極力不使用の泥臭い合戦シーンがガッツリと描かれるようです。

――以上から推測すると『豊臣兄弟!』でNHKが目指しているのは「革命」ではなく、「維新(restoration)」、つまり「復古」なのでしょう。しかし繰り返しになりますが、脚本家や出演俳優の顔ぶれからは「本当にそうなるのか?」という不安と疑問が除外できないのがポイントです。むしろ、王道から外れていくだろうし、それが期待されるし、そこからが一番面白くなってくる作品では……とさえ思う筆者ですが……。普通に考えれば、何らかの要素が投入され、「味変(あじへん)」ならぬ「地獄変」するはずです。

 大手メディアが初回放送前から激賞している『豊臣兄弟!』の面白さの本質とはなんなのか。とりあえずはそれを探りながら、第1回を楽しみに拝見させていただくとしましょう。歴史的な背景についても来週のコラムから触れていきたいと思います!

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(文=堀江宏樹)

堀江宏樹

1977年、大阪府生まれ。作家・歴史エッセイスト。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。原案監修をつとめるマンガ『エリザベート~神の手を持つ王女~』が無料公開中(KADOKAWA)。ほかの著書に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『本当は怖い江戸徳川史』(三笠書房)など。最新刊は『日本史 不適切にもほどがある話』(三笠書房)。

X:@horiehiroki

堀江宏樹
最終更新:2026/01/04 12:00