ブランド品みたいな交際に疲れた恋人に捧ぐ『ブルックリンでZ級監督と恋に落ちた私』

インディペンデント映画シーンで、いま最も勢いのあるクリエイターに宇賀那健一監督の名前が挙げられる。ホラーコメディ『悪魔がはらわたでいけにえで私』(2024年)が海外の映画祭で話題となり、『ザ・ゲスイドウズ』『みーんな、宇宙人。』(2024年)など、シュールかつ過激な展開のオリジナル作品を怒涛のように発表している。
2026年1月には、『ザ・カース』『インコンプリート・チェアーズ』と本格的なホラー映画を連続して公開。さらに2月13日(金)からは、これまでのイメージを一新するロマンティックコメディ『ブルックリンでZ級監督と恋に落ちた私』が封切られる。
仕事で自分を見失ってしまった人気女優のシイナ(三原羽衣)が主人公。旅先のニューヨークで、恋人のレン(中川勝就)とも別れてしまうシイナ。行き場のないシイナは、主演女優に逃げられたZ級映画監督のジャック(エステヴァン・ムニョス)が撮る超低予算のゾンビ映画に出演することに。
全編オールNYロケとなった『ブルックリンZ』の撮影エピソードに加え、SNSの普及によって、見栄えのいい「ブランド品」みたいな有名人や人気者との交流がもてはやされる今どきの人間関係や恋愛観について、インフルエンサーでもある主演女優の三原羽衣と宇賀那監督が語った。

■初のNYロケで、主演女優に求められたものは?
──宇賀那監督は過激なスプラッター描写のあるホラー映画の印象が強いけれど、最新作『ブルックリンZ』はNYを舞台にしたロマンティックコメディで驚きました。
宇賀那健一監督(以下、宇賀那)恋愛コメディはずっとやりたかったんです。年明けから『ザ・カース』『インコンプリート・チェアーズ』とホラー映画が続きましたが、3作連続公開の最後がこれでよかった。ホラー映画ばかり撮る監督というイメージを払拭してもらえればと思います(笑)。
三原羽衣(以下、三原)私が宇賀那監督とご一緒したのは『みーんな、宇宙人。』という作品からです。滅亡間近な地球で繰り広げられるSF群像劇で、私はぬいぐるみの宇宙人を相手にひとりでしゃべっている役でした。『みーんな、宇宙人。』とも、今回はまったく違うテイストの作品になっていますね。
宇賀那 ホラーを撮るには、ホラー用の筋力が必要。同じようにラブコメを撮るには、ラブコメ用の筋力が必要なんです。ずっと撮りたかったラブコメですが、『みーんな、宇宙人』に出演してくれた三原さんを観ていたら、僕に不足している部分を補ってくれる人だなと感じた。ぬいぐるみを相手にした『みーんな、宇宙人。』のシュールな撮影現場でも、自分に求められているものを的確に理解する能力があり、それを表現する力も三原さんにはあった。僕にとって初めての海外ロケで大変な現場になることは分かっていたので、三原さんの人間性と芝居のうまさは重要だったんです。
三原 宇賀那監督から「NYロケの恋愛コメディで、生意気な女の子の役だよ」と聞いて、脚本を読ませてもらいました。シイナはきっと仕事に疲れていたんでしょうね。ジャックと出会い、海外で働くことで仕事の楽しさを思い出していく姿が、私自身とかなりリンクする内容でした。仕事がつらいわけではありませんが、いろいろ考えて悩んじゃうんです。NYロケはそんな悩みを振り払って、思いっきり現場を楽しむことができました。

■作品に興味のないインタビュアーはすぐに分かる
──冒頭のシイナが芸能界で迷走してしまうシーンですが、インタビュアーに対する嫌~な感じがすごくリアルでした。
三原 そんな女優さんが実際にいたんですね(笑)。
──インタビュアーに目を合わせてくれない人気女優は実在します。
宇賀那 ろくに映画を観ずに取材にきたインタビュアーに対する、シイナなりの精一杯の抵抗でしょうね。僕も取材を受けてて感じることがあります。映画を観てるかどうかまでは分からなくても、「この人、この映画に興味ないんだろうなぁ」ということは分かります(笑)。
三原 シイナは自分の仕事にプライドを持って取り組んでいたと思うんです。自分が誇りを持って演じた作品を、軽く扱われたことが悔しかったんでしょうね。

■人気者と一緒にSNSに出ている自分が好き?
──シイナは恋愛面でも迷走してしまう。恋人のレン(中川勝就)はイケメンでお金持ちで性格も優しいけれど、悩み始めたシイナは「ブランド品」感覚で付き合っているように感じてしまう。他人から見て見栄えのいい相手と交際する感覚は、今どきの恋愛観だなぁと感じます。
三原 私自身にはブランド品として付き合うという感覚はありませんが、好きでもない相手と交際する人はいるでしょうね。お金があって、イケメンで、有名人だったりすると、恋愛感情がなくても付き合ってもいいかなと思ってしまう。ブランド品のひとつを持つような感覚なんでしょうね。
宇賀那 恋愛関係以外でも、そういうケースはあるんじゃないかな。俳優部がよく共演俳優と仲良さそうに一緒に写真を撮って、SNSにアップするよね。
三原 ありますね。
宇賀那 もちろん、SNS上でのプロモーションという意味もあるんだろうけど、人気俳優と一緒に写真に収まって自分を宣伝する俳優部は多いように思う。それが別に悪いとは言わないけど、ループみたいになってしまっている。
三原 人気のある女優さんと一緒の写真をSNSに投稿して、その女優さんと仲良くしている自分が好きーなんですよね。
宇賀那 そうそう。

■すべて数値化、可視化してしまうSNS社会
──人気俳優と仲良くしていることで、自分のポジションもアップしたような気になる?
三原 SNSって、そういう面もありますね。
宇賀那 監督をやっている人の場合、劇場映画が公開されるよりもテレビドラマのほうが反応が大きかったりする。そうするとテレビドラマを撮ることのほうが楽しくなってしまう。テレビドラマで知名度を上げておけば、映画のためにもなると考えているうちに、テレビドラマの仕事が中心になってしまう。映画を撮りたかったはずなのに、自分が本当にやりたかったことを見失ってしまうことってあると思うんです。
三原 私もSNSにがっつりハマっていたときは、フォロワー数が増えたり減ったりすることに一喜一憂していました。投稿する内容も「こういう投稿が“いいね”を集めやすいな」とか考えていました。SNSって、すべて数値化されるので、そこはいい面でも悪い面でもありますね。
宇賀那 現代社会は、いろんなものが可視化されてしまっている。「いいね」の数がつくこともそうだし、テレビドラマなら視聴率として現れる。気づいたら、そんな世界に巻き込まれてしまっている。芝居が好きで入った世界なのに、芝居とは関係ないところに気持ちが行ってしまっている。今回の映画は、そんなシイナがもう一度、最初のまっさらな気持ちに戻る物語なんです。

■映画の撮影は結婚生活に似ている
──日本の芸能界を離れ、NYに行ったシイナは恋人とも別れ、荷物も財布も紛失。行き場もなく、ジャックが撮るゾンビ映画のヒロインを演じることに。
宇賀那 すべてを一度失ってリセットされる、というところがポイントでしょうね。ジャックとの間に恋愛感情がやがて芽生えることになるわけですが、今回はロマコメというフォーマットでつくっただけなので、必ずしも恋愛感情でなくても、友情でもいいと思うんです。何かを一緒になってガムシャラにゴールに向かって突き進む。お互いに全力を尽くすことで、芽生えてくる感情ってあると思うんです。シイナの場合はもともと持っていた演技に対する愛情を、ジャックと出会ったことで取り戻すんです。
三原 作品に対して情熱を持って取り組んでいる監督は、やはり信頼できますね。どんなことをやる上でも、信頼関係は大事ですし、お互いに信頼できていないとうまく行かないことが多いように思います。やっぱり物づくりするなら信頼できる人と一緒のほうがいいし、気持ちよく役に没頭できます。
宇賀那 役者に限らず、それはスタッフにも言えること。どのキャスト、どのスタッフを選ぶかはとても重要。撮影期間は限られているので、その期間は一緒になって本気で向き合わないといけない。本気で向き合えるキャストとスタッフを、僕は選びたい。これって結婚に近いと思うんです。撮影は期間が短いけど、撮影終了が人生の終わりだとしたら、限られた時間の結婚生活をキャストとスタッフには求め、そのことを僕は繰り返してきたように思いますね。
──なるほど、映画制作は凝縮された結婚生活でもあると。
宇賀那 そうですね、そう思います(笑)
三原 わかるような気がします(笑)。
宇賀那 映画のいいところは、ゴールが決まっているところ。実際の結婚生活と違って、短距離レースですね。まぁ、これが『ウォーキング・デッド』みたいなロングランシリーズになると、また違うんでしょううけど(笑)。

■アドリブで心が通じ合ったブルックリン橋での撮影
──「過酷だった」というNYロケですが、コロナ禍明けのNYが美しく映像に収められています。
宇賀那 日本人キャストは三原さんと中川くんのふたりだけ。日本人スタッフは僕も合わせて5人。日本からは合計7人だけで、あとはキャストもスタッフも現地で集まってもらったんです。現地プロデューサーのロコ・ぜベンバーグはブルックリンで暮らしていて、彼の家に撮影の1年くらい前に僕は泊めさせてもらい、NYを下見しました。その後も2回くらいロケハンし、クランクインの2週間前に先乗りしたんですが、すごくいいロケ地候補が撮影NGだったりして、2週間で慌ててロケ地を決めていったんです。『悪魔の毒々モンスター』(1984年)で知られるロイド・カウフマン監督は僕の作品によく出てもらっているんですが、彼の奥さんがNYのフィルムコミッションの仕事をしていて、そのおかげもあってなんとかなりました。
三原 NYロケはみなさん、とても自由でしたね(笑)。撮影開始になっても、トイレから戻ってこない人もいるし、ゆっくり歩いて集まってくる。
宇賀那 「撮影始めるよ」と声を掛けると、日本だと駆け足で集まるけど、ずいぶん違ったね。衣装を着替えても、毎回マイクが付いていなかったし。映画に対する向き合い方はいろいろなんだなぁと感じました。
三原 私がNYロケでいちばん印象に残っているのは、夜のブルックリン橋で大声で叫ぶシーン。ジャック役のエステヴァンとアドリブで演じたんです。ほとんどアドリブだったんですが、あのシーンはシイナとジャックの心が通い合った瞬間だと思います。現地のキャストもスタッフもみんな自由気ままで、私もずいぶん影響を受けました。

■メインストリームに立てない人たちへの共感
──宇賀那監督の作品は、シュールな設定の物語が多い一方、若者たちが抱える「生きづらさ」が感じられるのも印象的です。
宇賀那 僕が関心を持つのは、社会のメインストリームに立つことができない人たちなんです。人気俳優よりも、悩みを抱えている俳優に、売れっ子監督よりも、なかなか売れずにいる監督の物語に僕は興味がある。そんな彼らが抱えているのが「生きづらさ」なのかもしれません。
──ワークショップなどで俳優志望の若者たちと接する機会が多いんですよね。
宇賀那 コロナ前は、ワークショップをよく開いていました。ワークショップに集まる若者たちの悩みや葛藤をもとにしたのが『転がるビー玉』(2020年)でした。再開発で変わっていく渋谷の街の風景と若者たちの揺れ動く心情を重ねて描いたんです。
三原 私も生きづらさを感じることはあります。コンプライアンスとかも厳しい時代ですし、SNSでは発言の一部を切り取られて、すぐに炎上してしまう。SNSに投稿した画像へのコメントも辛らつで、容姿を気にする子が増えている。整形手術したら、またそのことを非難されて……。自分も発言には気を付けるようにしています。
宇賀那 エンドレスだよね。SNSは個人の発言の場なのに、なんで関係のない人たちが好き勝手に言ってくるのか不思議に思うよ。
三原 シイナと同じように、私も考え過ぎて、仕事が楽しめなくなってしまうことがあったのですが、NYロケを通して、仕事は楽しんでやっていいんだ、悩んだら初心に戻ろうと思うようになりました。それまで、みんなで作品をつくるという感覚が今ひとつ分かっていなかったんですが、今回はみんなでつくる楽しさを実感することができた作品になりました。
宇賀那 カナダのファンタジア国際映画祭では、三原さんが最優秀俳優賞に、作品が観客賞という形として実を結べたこともよかった。僕自身も初めての海外ロケを体験し、自信がついた。現在公開中のホラー映画『ザ・カース』は台湾ロケをしたんですが、NYロケを先に経験していたことが大きかった。撮影済みの新作があと2本控えていますが、海外ロケはまたやってみたいですね。
映画『ブルックリンでZ級監督と恋に落ちた私』
監督・脚本/宇賀那健一
出演/三原羽衣、エステバン・ムニョス、中川勝就(OWV)、ロイド・カウフマン、ラリー・フェセンデンほか
配給/エクストリーム 2月13日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、シネマート新宿ほか全国ロードショー
(c)『ブルックリンでZ級監督と恋に落ちた私』製作委員会
https://brooklyn-zgrade.com/
●三原羽衣(みはら・うい)
2002年兵庫県生まれ。女優、モデル、インフルエンサー。2021年に『ショートショート劇場「こころのウフフ」』(WOWOWオンデマンド)で女優デビュー。『犬と屑』※ヒロイン(毎日放送)、『私がヒモを飼うなんて』(TBS)などに出演。映画は『みーんな、宇宙人。』(2024年)に続いて出演した『ブルックリンでZ級監督と恋に落ちた私』(2026年)で2025年ファンタジア国際映画祭最優秀俳優賞&観客賞を受賞。
●宇賀那健一(うがな・けんいち)
1984年東京都生まれ。『黒い暴動』(2016年)で長編映画の監督デビュー。『異物 完全版』(2021年)はトリノ国際映画祭などに出品。『悪魔がはらわたでいけにえで私』(2024年)はトリノ国際映画祭でスペシャルメンションを受賞。主な劇場公開作に『魔法少年ワイルドバージン』(2019年)、『転がるビー玉』(2020年)、『Love Will Tear Us Apart』『愚鈍の微笑み』(2023年)、『ザ・ゲスイドウズ』『みーんな、宇宙人。』(2024年)など。ナイトメアズ映画祭で最優秀脚本賞を受賞した『ザ・カース』、R18映画『インコンプリート・チェアーズ』が2026年はすでに公開されている。
(取材・文=長野辰次/写真=新越谷ノリヲ)
