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【塀の中の正月秘話その2】ヤクザとカタギの「格差」は正月にさらに明白になる!?

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イメージ(写真:Getty Imagesより)

 前回のコラムでも触れた通り【参照「キットカットとカールにヤクザも狂喜乱舞!」】、塀の中といえども、正月はやってくる。しかも年末年始だろうが容赦なく忙殺される人が多いシャバよりも、“中”の暮らしのほうが正月ならではの特別な施しや催しがあるため、新年を実感することができるというのは、ある意味皮肉だろう。

 一般人にとっては非日常空間である刑務所だが、その中でも非日常的な体験ができるのが年末年始だというのだ。今回は、服役経験のある関西の元ヤクザ組織幹部B氏について、【塀の中の正月秘話】を聞いた。中でも興味深かったのは、現役のヤクザと一般人の犯罪者では、同じ受刑者であっても、塀の中での務め方や身分が違うという点だ。

B氏 現役(のヤクザ)は仮釈(仮釈放)の対象外なので、刑をすべて務めあげて満期にならないとシャバには帰られへん。それに初めての懲役やったとしても、初犯向けのA級刑務所では務められへん。いきなり再犯刑務所のB級刑務所。おとなしいとか、言うことを聞かへんとか関係あらへん。これは移送される刑務所を決める分類審査や仮釈の規定で始めっから決まってんねん。それが嫌なら、ヤクザやめえゆう話や。身分帳にヤクザの組員であることを現すGマーク(警察が暴力団関係者と認定した人間に付ける通称)が付いていたら、誰がなんと言おうが官側(刑務所側)はヤクザの組員として扱う。

ーーヤクザの組員に対しては、やはり刑務官も厳しく接してくる?

B氏 なんでやねん。もう更生の余地はなしと、官も最初から諦めてくれとんねんから逆や。「ヤクザやねんから、恥ずかしい務め方するなよー」みたいな粋なことゆうオヤジ(刑務官)もいてる。一応、あんねん。ヤクザの立派な務め方は事故(懲罰を受けるようなトラブル)なく満期、みたいな格言みたいなんがな。でも実際は難しいで。同じ組織の系列の懲役(受刑者)や身内のもんがど付き合いのケンカになったら、もちろん加勢でケンカせなあかん。それで、(懲罰を受けて)ワシもどれだけ工場をたらい回しにされたことか。

ーーヤクザであることは、他の受刑者との人間関係にも影響を及ぼす?

B氏 シンプルに当たり前やがな。まず工場に配役されたら雑居房に放り込まれる。1日でも先に工場へ配役された懲役が先輩や。雑居房には雑居房の数だけルールがある。だいたい末席はどこでも便所掃除の担当やねんけど、まあ現役のヤクザの場合は免除やわな。考えてみいや。たかだかカタギの犯罪者が代紋もってる現役に対して、「便所掃除やってくんなはれ」なんて言えるか。大概、我の強い現役のヤクザが入った舎房は、その日にルールが変わりよる。

極道としての「塀の中のメンツ」

ーーでは、中ではヤクザのほうが務めやすかったり、生活しやすかったりする?

B氏 う~ん。よし悪しちゃうか。1日でも早くシャバに帰りたいのは世の常やろう。その点で考えれば、いくら他の懲役が多少遠慮してくれるからゆうて、ハナからこちらは満期(仮釈放がない)やからな。とにかく残刑を務め上げなシャバに帰られへん。それに、極道として卑しいこともできへんやろう。

ーー卑しいこととはどういう意味?

B氏 口(食べ物)やがな。中では、退屈やからみんな博打すんねん。テレビの番組で最初に登場すんのは、男か女かとかな。パンに塗りもん(ジャムやマーガリンなど)賭けたり、祝日に配られるホヤキ(お菓子)賭けたりな。シャバで銭賭けるよりも盛り上がるがな。特に正月や。正月は、賭けるもんがようさん出るがな。ホヤキもそうやし、三が日は飯もええしな。それをヤクザがや、他のポン中や盗っ人と同じようにヨダレ垂らして、他人のもんを食えるか。ましてや、シャバで立派な仕事(組の抗争事件など)してきてるもんが、「アイツは中で口が卑しかった」なんて言われてみいや。洒落ならんやろう。

 どの房でも12月に入ったら担当にバレんように博打が盛んになる。負けが込んで正月はホヤキどころかメシもないゆうもんが出るくらいや。それにたまりかねて自爆(作業拒否)する懲役も出る。場をしらけさせたらあかんから、博打にはもちろんワシら現役も付き合う。でもな、博打で勝ってももらわへんのや。「かまへんからいけ、いけ」と。何やったら、ほんまはヨダレ垂らすほど食いたいのに、自分のホヤキまで「これもいかんかい~」って、若い懲役やまだ刑期が長い懲役にやったんのも仁義みたいなとこがあるわな。

ーー正月休みは楽しみが多いのに、意外なことに事故落ち(懲罰を受ける)する受刑者が多いという話を聞いたことがある。そうしたことが一因になっているのか?

B氏 その通りやろな。食べ物がええ分、揉めやすい。ちなみに正月休みの間に舎房から出れんのは、12月30日と1月2日の2回の入浴だけや。このときはバスクリンが浴槽に入ってて、えらいあったまるんや。バスクリンで喜べるなんて懲役ぐらいやど。正月の風呂上がりはどの懲役もバスクリンのええ匂いさせてな。舎房に帰ったらパジャマで布団に入ってテレビだって観れるんや。1日2回の点検もパジャマのまま受けてええのは、正月休みくらいやった。

 そんな時になんで事故落ちが多いかゆうたらな、物のやりとりや。刑務所の中でメシを残すのは別にかまへん。カラアゲゆうて、回収のときに残飯で出したらええだけや。でもいくら嫌いなもんでも、他の懲役にやったらあかんねん。担当に見つかったら不正授受の科で1発で上げらて取り調べや。担当(刑務官)らも、正月に特別に配られるホヤキで不正授受やるのを分かっとるから、隠れて見とんねん。で、見つかったら、「動くな!」て怒鳴られてな、もう犯罪でも犯したくらいな勢いで刑務官が大勢やってきよんねん。それで罰を何日座る(懲罰を受ける期間)か決める審査会では、刑務官からボロカスや。特にもらったほうや。「オドレはコジキか!」ってクソカスに言われんねん。そうなったら楽しかった正月休みが一転して、テレビも見れん独居に変わり、年明けから懲罰で、懲罰が明ければ、工場も変わって一からやと思うと、新年早々うんざりするわな。

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 どの受刑者も正月を楽しみにしている中、男稼業に生きるヤクザも同じだ。特に食べ物がありがみを感じられる時なのだろう。シャバでは甘いものが苦手な者でも、中では必ず甘党になるというのは日常の粗食が関係しているのだろうか。最後に元組幹部は、刑務所の中の注意点として、こう付け加えた。

B氏 初めは食べれんでも、『自分ぜんざい好きじゃないですから、いってください!』なんて、同囚の懲役に絶対にゆうたらあかん。もしゆうたら最後、途中から食べたくなっても「〇〇さんはぜんざい嫌いですもんね!」て、シャバよりも吐いたツバを飲ませへんところやからな。嫌いな食べもんでも、腹が減り過ぎたら食べれるようになるんや。ワシも偏食やったけど、中で好き嫌いがなくなったな」

 ヤクザをカタギに更生させることは決してない刑務所だが、食べ物の好き嫌いを克服させることには成功しているようだ。

(文=佐々木拓朗)

佐々木拓朗

1970年生まれ。埼玉県生まれ。10数年のわたってアウトロー取材をしてきた元編集者。現在はフリーライターとして、自身の経験や独自の人脈を生かした情報発信を行っている。著書に『令和ヤクザ解体新書〜極道記者が忘れえぬ28人の証言〜 』がある。

佐々木拓朗
最終更新:2024/12/31 22:00