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教育ジャーナリスト後藤健夫の「母校がなくなる日」教育ビジネス論

「Fランク大学が増大する?」今、教育現場で起きている崩壊と勘違い

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私の母校も廃墟に…?(写真:Getty Imagesより)

 母校がなくなる日ーー。

 少子化の中で、小学校も中学校もそして高校も統廃合が進んでいる。地方においては県立高校がどこも実質倍率が0.8倍となり、県立高校に入学しなかった生徒の受け皿となる私立高校が募集困難に陥っている。小学校も中学校も1学年1クラスとなる学校がある。中には全学年が揃わないところや学年で1人の児童しかおらず合唱ができないと嘆くところもあり、通学のためにマイクロバスを用意して統廃合を進める自治体もある。

 こうした波は大学にもやってくる。

 2022年の出生数は80万人(79万9728人)を下回った。現状の大学入学定員が維持されるとすると、彼らが大学進学をする2040年頃には13万人の定員余剰が生まれると文部科学省は推測をする。これは入学定員が2000人規模の少し大きめの大学65校分に相当する。現在はそこに向けての過程にあるのだ。

 短期大学の状況はさらに厳しく、2023年末から年明けにかけて多くが募集停止を発表した。私立大学でも、2024年度の入学者は354校(全体の59.2%)で定員割れとなり、都市部でも定員割れを起こす大学が増えている。18歳人口が再び減少となる2年後には、いくつかの大学が募集停止を発表するだろう。

 少子化は至るところに影響を及ぼしている。

 学校教員はなり手不足である。少子化を想定すれば、学校教員になっても将来的に職場がどうなっているのかわからないという不安がある。地方の保育所では保育士の新規採用を控えている。保育所の閉鎖も見られる。かつては安定を求めてなり手が多かった公務員も地方においては新規採用が不調だ。

 一方で、大学新卒者の就職は好調である。10月時点での内定率は3年連続で増加している。

 こうした中で、大学入試は当然ながら緩和する。いまの高校生の保護者世代が「就職氷河期」と言われるほど厳しかった就職も、好調であればあまり大学進学でも無理をしない。特に学力中下位層はその傾向が顕著だ。無理しなくても職にありつけるから、何かにおいても無理をしない。彼らは高校受験も緩和されており、無理しないことになれてしまっている。

 さらに、学力試験が主な選考基準となる、一般選抜による大学入学者が21年度以降は、半分を切るようになった。総合型選抜(主に旧来のAO入試)、学校推薦型選抜(旧来の推薦入試)といった選抜方式で入学する学生が増えているのだ。

 学力試験を受けない高校生も、受験産業が実施する模擬試験を高校が一括して実施するので、渋々受験する。模擬試験の結果なんか気にしなくても大学入学を果たせる、だからあまり真剣に模擬試験を受けない。

 定員割れを恐れる、入試難易度が低い中下位層の大学は少しでも早期に入学者を確保したい。だから募集時期の早い総合型選抜や学校推薦型選抜の選抜要件は緩くなる。できる限り多くの入学者を確保しておけば、一般選抜では合格者を絞り込めるので倍率を出せる。

 全入化して一般選抜で倍率が出なくなると「Fランク」に位置づけられる。とは言え、少子化の中で、入学者を定員まで確保できる大学は、前述のように少なくなっている。Fランク大学は増大する。

 こうした状況では、学力試験によって作成される大学入試ランキングは崩壊を始める。過保護な保護者は子どもに無理をさせない。この傾向は年々強くなっているようだ。

「勉強しなくても入れる大学でいいじゃないか。就職はできるのだから」

 これまで大学進学にシャカリキになっていた中堅以下の高校教育は、空洞化を招き始めている。高校で「学ばない生徒」は当然ながら大学では「学べない学生」になる。学び方を知らないし、学ぶ意欲に欠けるからだ。こうした状況が続けば、いずれ大学教育も一部で空洞化する。

 それが「母校がなくなる日」につながるのだ。

 こうした状況には、数々の「勘違い」が存在する。

 このコラムでは、そうした「勘違い」を指摘したり、教育が抱える課題を取り上げたりして、教育がより良い方向に進むことの一助となるようにしたい。若者の将来は必ずしも明るいわけではないが、その将来を明るくするのは教育だからである。

(文=後藤健夫/教育ジャーナリスト)

後藤 健夫

コラムニスト/教育ジャーナリスト/大学コンサルタント
南山大学を卒業後、学校法人河合塾、早稲田大学、東京工科大学等に勤務。現在、大学の募集戦略支援や高校の大学進学支援、「探究学習」のカリキュラム・教材開発、授業改善等に従事。日本経済新聞に「受験のリアル<大学編>」を連載するなど、コラムや記事を執筆。
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後藤 健夫
最終更新:2025/01/14 17:30