Fラン大学はなぜ成功例から学ばないのか? 経営難校の生き残り方
少子化や学校教育が変革を迎える中で、付随する教育ビジネスも変革の時を迎えている。だが教育機関の経営では、数々の「勘違い」が存在する。このコラムでは、その「勘違い」を指摘し、教育が抱える課題を取り上げることで、教育がより良い方向に進む方法を提案していく。
文部科学省によると、2040年には大学における定員余剰が13万人も生まれると推測されている。13万人の定員は、入学定員2000人というやや大きめな規模の大学65校分に相当する。
悠仁さまを悩ます「筑波大特有の事情」
これを素直に受け取ると、かなり多くの大学が募集困難となり、地方の小さな大学は潰れてしまうのではないかと心配になる。
しかし、実際にはどうなのだろうか。
18歳人口が2割減少することが背景にあるのだが、人口が減っても大学進学率や進学者数が上がれば大学進学者が増えて、定員余剰に抗することができるとの考えもある。また、入学定員が8割を下回って補助金をカットされないように、定員を少しずつ減らそうとする大学もすでに登場している。個々の大学の規模が小さくなれば定員余剰は少なくなる。
定員余剰に対して、進学者を増やす、定員を事前に減らすといった対応だ。
さて、新たな進学者はどこにいるだろうか。
一つは、海外からの留学生である。
欧米に比べて日本の大学の学費は安い。しかも社会基盤が安定していて、街も綺麗だ。日本のアニメに憧れて留学に来る学生もいる。国際的には競争力がないわけではない。ただし、日本の大学が決定的に拙いのは、授業が日本語であることだ。
立命館アジア太平洋大学(APU)は安定的に世界100か国・地域から留学生を集めている。留学生の95%以上はここで学位を取得する正規学生だ。もちろん、英語で講座は開講されているし、留学生全員に日本語教育も課される。会議も日英両語で行われている。「APハウス」と呼ばれる学生寮では、日本人学生と国際学生が共同して生活をする。
APUは18歳人口の減少が始まったこの30年間に新設された大学で、数少ない成功例の一つである。APUでは国際学生(海外からの留学生)と日本の学生がだいたい半数ずつ。このバランスによって、とても良い感じで交流がなされている。
国際学生の中には母国に帰って政府の要職に就く人もいれば、日本で就職した後、海外の大学院に進学してキャリアアップを図る人、日本に留まってビジネスを起こす人などがおり、様々に活躍している。海外から日本にやってきた彼らのモチベーションは卒業後も衰えることなく、とても意欲的である。
そうした国際学生との交流を求めて首都圏から進学する高校生も多い。APUのある別府市は、国際学生が至るところでアルバイトをしていて街の風景が変わった。地域おこしにも貢献している。
成功事例を学びながら成長してきた大学業界には珍しく、APUに続く大学が出てこない。これは不思議なことである。
日本の学生の内向き志向が指摘されるが、大学も内向き志向なのだろう。ということは、日本の大学の国際的な存在感はどうなのだろうか。
国内の他教育機関から進学者を取り込む試み
もう一つは、国内で他の教育機関で学ぶ人を取り込むことだ。専門学校への進学者の取り込み、短期大学等からの編入学、あるいは社会人のリカレントである。ただし、ここには大きな課題がいくつもある。
大学を運営する学校法人の中には、もともと専門学校であったところも少なくなく、その専門学校をいまも経営しているところもある。そのため、専門学校の枠から進学者を取り込むことになれば、法人としては事業縮小になりかねない。それに専門学校は教員給与は安いが、教育は生徒に寄り添う丁寧な指導だ。コストが安く良質な教育に大学は対抗できるだろうか。
短大や専門学校等からの編入学は、もともと定員が少なく、その需要もあまり大きくない。加えて、短大は募集停止に追い込まれているケースが多く、母数そのものが少ない。さらに、専門学校からの編入学についても、大学に進学する意向があるのであれば、最初から大学に直接入学していた可能性が高い。そのため、市場規模は大きくないと言える。
社会人のリカレント、学び直しなどは、そもそも「働き方改革」が課題とされているように、働きながら学ぶ時間を確保することはまだまだ難しい。そうした社会人のために講座を開講する体力はすでに大学にない。
誰が教えるのか。ここに大きな課題がある。
リスキリングが叫ばれるがその需要も依然として十分ではない。さらに生涯学習が根付いていない。働きながら修士を取得しても給料が上がらないケースがほとんどだ。
大学が国内から新規に学習者を確保することは多難である。
次回も「母校がなくなる日」を迎えないための、大学の在り方を説いていく。
(文=後藤 健夫)