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教育ジャーナリスト・後藤健夫の「Fランクから消滅大学になる日」教育ビジネス論#3 

私立大学定員割れ問題は続く…やっと入学したのに「教員はお年寄りばかり」

少子化や学校教育が変革を迎える中で、付随する教育ビジネスも変革の時を迎えている。だが教育機関の経営では、数々の「勘違い」が存在する。このコラムでは、その「勘違い」を指摘し、教育が抱える課題を取り上げることで、教育がより良い方向に進む方法を提案していく。

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入学者の減少で、難関大に入りやすくなる!なんて記事も上がってますが…。(写真/GettyImagesより)

 前回、2040年頃には大学入学定員は13万人の余剰になり、その対応として「進学者を増やす、定員を事前に減らす」ことが考えられるとして、まず「進学者を増やす」対応について考えてみた。

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 今回は「定員を事前に減らす」対応について考えてみたい。

 2024年度の私立大学では、354校(全体の59.2%)で定員割れを起こしている。ここには人口減少が激しい地方の大学のみならず、首都圏などの都市圏の大学も含まれている。

 こうした中で、定員割れを続ける大学がまず考えることは、従来の定員を減らすことだ。なぜならば、3年連続で定員の8割に満たないと、補助金を大幅にカットされるからだ。つまり、定員を削減することで「危険水域」の8割を下回らないようにしようとするのだ。

 その一方で、大学には「設置基準」というルールがあり、学部学科によって必要とする定員あたりの教員数が定められている。定員を減らしてもこの要件を満たさなくてはならず、一定の教員数は維持しなければならない。

 人文社会科学系の学部学科の支出の多くは人件費である。この人件費の割合が学生収入(学費)の中で、高まっていくのだ。定年退職や他大学への移籍などで教員に欠員が出ても、定員を減せば教員を減らすことになるため、教員は補充はされない。

 しかし、大学の教員は担当講座以外にもなにかと「校務」を抱える。例えば、学生管理、学生募集、将来構想などだ。欠員が補充されなければ、残された教員一人ひとりの校務の負担は大きくなるばかりだ。そうした環境に嫌気がさしたり将来に不安を感じたりするれば、離職する若手〜中堅教員は増える一方だろう。こうした負のスパイラルに陥りかねないのだ。

 一方で、学生の資格免許取得をめざす学部学科ーー例えば、看護師、保育士養成などの場合は免許取得に必要な講座の設置が必要であり、専任の教員で賄えない場合は非常勤講師を探さなくてはならないが、そこも地域によっては確保が難しい状況にある。

 さらに、この免許要件の講座を担う教員が定年退職などで辞めてしまった場合、補充をする教員を雇うにあたり、その学部学科の将来性を見極めないといけない。定年が近い高齢の教員を雇うのか、将来を担う若手教員を雇うのか。大学存亡の見通しを求められる。多くは他大学を定年退職した高齢者を、安く雇うことになるだろう。

 いずれにしても、定員割れが恒常化すると、40代、50代の現役バリバリの教員が雇いにくいのは、資格免許取得を目指す学部学科に限った話ではなく、いかに人件費を抑えつつ教員定員を満たしていくのかといった課題を抱えることになる。

 こうしてみていくと「定員を事前に減らす」ことには限界がある。

 仮に全国の大学で一律に定員を2割削減するような大方針を文部科学省が出すことも考えられるが、それはかなり無謀だ。学生収入が減るわけだから、学費を上げるなどで収入を確保しなければ、定員を削減したところで、これまで見てきたようにどこかで無理が出てくる。なにしろ大学の事業規模は、医学部など学生収入以外の収入が見込まれるところを除けば、ほぼ学生定員で決まるのだから、私立大学の抵抗は大きいだろう。

 そして、国公立大学には、リージョナルセンターとしての役割がある。地域の教育研究を支えてリードする役割だ。現状の国公立大学が、こうした役割を果たしきれているかはここでは置いておくが、今後、地方創生において、地方の国公立大学の役割は大きくなっていく。

 学費が安く、国や自治体からの補助が大きくて、私立大学に比べれば経営は安定している。そうした大学がいかに地方で若者を育てて産業を興すか。仮にそれが芳しくなくても、学生をその地域の「関係人口」にしていくことは重要である。

(文=後藤健夫)

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後藤 健夫

コラムニスト/教育ジャーナリスト/大学コンサルタント
南山大学を卒業後、学校法人河合塾、早稲田大学、東京工科大学等に勤務。現在、大学の募集戦略支援や高校の大学進学支援、「探究学習」のカリキュラム・教材開発、授業改善等に従事。日本経済新聞に「受験のリアル<大学編>」を連載するなど、コラムや記事を執筆。

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後藤 健夫
最終更新:2025/02/03 13:06