簡単に地下鉄「盗む」ニューヨークの若者たち 走行中の屋根での「サーフィン」急増

ニューヨークの地下鉄が若者たちの「おもちゃ」になっている。回送車両に勝手に乗り込んで運転する「車両泥棒」が相次いでいるほか、走行中の地下鉄の屋根に上ってスリルを味わう「地下鉄サーフィン」が急増している。いずれも命にかかわる危険な行為だが、こうした行為がソーシャルメディアにアップされるケースが多い。地下鉄は若者の自己顕示欲を満たす道具になってしまった。
時速50キロで走らせる バックしたら後続電車すぐそこに 「速度落とせ」
1月25日午後10時過ぎ、ニューヨークのブルックリンからマンハッタンを経由してクイーンズまでつながるRラインの回送電車が乗っ取られた。警察は車内の防犯カメラに映っていた6人の若い男の画像を公開し、行方を追っていたが、2月3日、このうちの2人を逮捕した。
発生当初、ニューヨーク市警察本部(NYPD)はRラインのクイーンズ側の始発・終着駅であるフォレストヒルズ・71thアベニュー駅近くにある留置用線路にあった車両に何者かが乗り込み、無断で運転したと発表していたが、2人の逮捕時の発表では、車両が盗まれたのはブルックリン側の始発・終着駅に近い34thストリート・4thアベニュー駅となっていた。
これまでの調べでは、2人を含む犯行グループは車両に忍び込んでガラスなどを割った後、車両を動かしていた。スマートフォンで撮影したとみられる映像がインスタグラムに投稿されており、時速50キロ近くのスピードで車両を走らせているところが映っていた。
Rラインは各駅停車だが、投稿されたビデオには急行用の線路を走っている姿が映っており、駅を通過しているシーンのほか、通常運行している別の車両とすれ違う場面もあった。
別の投稿映像には、車両をバックさせている場面があり、その際、後続の列車のヘッドライトが見え、犯行グループのメンバーが「速度を落とせ」と叫んでいるシーンもあった。
少なくとも1つの列車の「ブラックボックス」が、1月25日午後10時20分から翌日の午前3時半まで停止されていたことが判明している。
闇市場に出回る運転席の鍵 オンラインでも購入可能
ニューヨークの地下鉄を運営、管理するニューヨーク州都市交通局(MTA)は、盗まれた車両が「動かされていた時間はわずかだ」としているが、通常運行が行われている中で、かなりの時間、長い距離を6人が乗り回していた可能性がある。
留置線路上の車両には鍵がかかっているはずだが、6人は鍵を使って侵入したとみられる。ニューヨークの鉄道運転士によると、運転室のドアは通常、施錠されているが、鍵はいずれの地下鉄車両でも使用することができるという。鍵は闇市場にも出回っており、オンラインなどで容易に入手できるとされている。NYPDは残る4人の行方を追っている。
2024年9月12日午前0時過ぎには、クイーンズのブライヤーウッド駅で、男女2人が回送電車に乗り込んで、勝手に運転した。15メートルほど走ったところで、客を乗せて駅で出発を待っていた車両にぶつかり、2人は逃走した。
車両内の防犯カメラには青いランニングシャツを着た男と、ピンクのワンピースを着て、ピンクのかばんを持ち、ピンクのシャワーキャップをかぶったピンク一色の女の姿が映っていた。NYPDはこの映像を公開して捜査を進めたところ、ともに17歳のこの2人を割り出し、逮捕した。
2023年12月30日午後4時45分ごろには、フォレストヒルズ・71thアベニュー駅のホーム端に止まっていた2両編成の電車に、少なくとも3人が侵入し、車両を動かした。150メートルほど走ったところで、電車を放置し、徒歩で逃走した。その後、16歳の少年1人が逮捕された。
この1年間に3件も「車両泥棒」が続いており、MTAのずさんな管理が問題となっている。
しかし、「車両泥棒」は、ニューヨーカーにとって比較的、聞き慣れた犯罪でもある。常習犯として有名人となったダリウス・マッカラム受刑者(58)は電車を勝手に運転したり、鉄道員になりすますなどして32回逮捕されている。
15歳の時、地下鉄の車両を勝手に5駅動かしたことが、その後の犯行のきっかけとなった。2016年にはマッカラム受刑者を題材にしたドキュメンタリー映画が公開された。
ショッキングな映像をアップするために繰り返される危険行為 死者後絶たず
地下鉄をめぐるもう1つの危険な迷惑行為は、走行中の地下鉄の屋根に上ってスリルを味わう「地下鉄サーフィン」だ。
ニューヨークの地下鉄は、地下鉄とはいうものの、地下を走っているのは総路線の約60%で、地上を走行している区間は長い。「地下鉄サーフィン」は地上を走っている区間で行われる。
この危険行為が急増している。「地下鉄サーフィン」をした人数は、2021年に比べ4倍以上となり2024年は約1000人となった。転落するなどして11~15歳の6人が死亡している。
「地下鉄サーフィン」は若者の「度胸試し」として1980年代に多発し、社会問題となった。最近ではソーシャルメディアの発達で、自らの危険行為を投稿することがブームとなり、爆発的に増えた。
ただ、「地下鉄サーフィン」は開通して120年かたつニューヨークの地下鉄の歴史の初期のころから行われていた。ニューヨーク・タイムズの2024年12月16日付の記事では、1938年にブルックリンで11歳と12歳の男の子が走行中の地下鉄に上り、高架にぶつかって転落し、1人が死亡したことを紹介している。
また、1923年にはマンハッタンで9歳と10歳、11歳の少年3人が電車の屋根に乗っていたところを警察に保護されたと当時のブルックリン・イーグル紙が報じている。
若者による迷惑・いたずら行為の大胆さにびっくりさせられるが、若者だけでなく、多くの乗客の安全に重大な影響を及ぼす危険な行為を長い間、止められないでいるニューヨークの地下鉄のシステムにも驚かされる。
(文=言問通)