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1割の国民が全消費の半分を占める米国の異常性 国家経済揺るがす恐れも

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アメリカでも貧富の差拡大 買い物しているのは「収入トップ10%」だけの画像1
イメージ画像(写真:Getty Imagesより)

 わずか1割の人間がその国の消費支出の半分を使っているとしたら、その国は健全と言えるだろうか。答えは紛れもなく「ノー」だ。経済力がない国の話ではない。世界一の経済大国である米国の話である。ほとんどの国民が物価高に苦しむ一方で、インフレが再燃しても、富裕層は痛くもかゆくもない。株や不動産など資産価格の値上がりを背景に高級品を買いあさり、ぜいたくな生活をしている。そんな中でトランプ政権はカナダとメキシコからの輸入品に対する25%の上乗せ関税を予定通り発効させた。産業界の反発で再び猶予期間が設定されたが、関税は最終的に末端の一般消費者にのしかかる。米国社会の歪みは大きくなるばかりだ。

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注目の経済学者のリポートが示した驚くほどの購買力

 米国の格付け会社ムーディーズの関連会社であるムーディーズ・アナリティクスのチーフエコノミスト、マーク・ザンディ氏はイラン系米国人の経済学者で、「経済調査のプロフェッショナル」として知られている。金融界や産業界、メディアからの信頼が厚いばかりでなく連邦議会にも証人として呼ばれて経済の現状を分析する。株式投資に熱心な米国人が今、最も話を聞きたい経済専門家のひとりである。
そのザンディ氏が衝撃的なリポートをまとめた。全所得者のトップ10%に当たる年収25万ドル(約3670万円)以上の世帯が、米国の全支出の49.7%を占める存在になっているという。消費のほぼ半分が、わずか10%の富裕層によるものだという、米国経済の異常性が浮かび上がった。

 ザンディ氏の分析では、上位10%の1989年当時の支出割合は約36%だったということで、36年間で大幅に増加。米国の経済格差が一段と拡大したことになる。

 新型コロナウイルスの感染拡大後のインフレで、米国人の支出はそもそも増加した。ザンディ氏によると、この4年の米国の物価上昇率は21%だが、米国民の約8割は給与の増加などで約25%支出が増え、かろうじて物価上昇分を上回った。

 一方で上位10%の層の支出は約58%も増加しており、驚くほどの購買意欲を示す数字となった。2023年9月から2024年9月までを見ても、この期間、ほとんどの国民が支出を減らしているにもかかわらず、上位10%は支出額を12%も増加させた。

資産価格の高騰が富裕層の懐支える 庶民は支払い危機目前

 富裕層の支出増を支えるのは、高騰する株価や住宅価格だ。富裕層はコロナのころに資金力に輪をかけるように投資に走った。連邦準備制度理事会(FRB)のデータによると所得上位20%の純資産は2019年以来、45%も増加している。コロナ後の異様なまでの株高や資産価格の高騰が、富裕層の懐を支え、「インフレどこ吹く風」とばかりに消費に回している。

 ザンディ氏はウォール・ストリート・ジャーナルとのインタビューに対し「富裕層の世帯の財政はかつてないほどよくなっており、支出もかつてないほど好調で、米国経済はかつてないほど富裕層に依存している」と指摘している。

 米国でも消費は国内総生産(GDP)の約70%を占め、国の経済活動の要となっている。49.7%の消費を上位10%だけで支出しているとなると、GDPの少なくとも3分の1をこの上位10%の層が担っているということになる。

 一方で、物価の高止まりで生活が苦しくなる一般市民の間では、支払いが追いつかない家庭が増えてきた。

 フィラデルフィア連銀が2月に発表した消費者の「クレジットカードの延滞率予測」によると、クレジットカードの支払いを、日本のリボ払いにあたるミニマムペイメント(最低支払額)だけにしているカード保有者の割合は、2024年9月末の時点で10.75%に上昇した。2012年以降、最も高い水準となっている。

 ミニマムペイメントだけの支払いを続ければ、負債額は膨れ上がるばかりで、債務不履行になる確率が高まる。現時点では最低額を支払うことで、生活をなんとか維持しているが、インフレの再燃で生活が一段と厳しさを増す中、そろそろ限界が近づき、カード破産者が社会にあふれる時代がすぐそこまできていることが、容易に予想されるようになってきた。

 米3大テレビネットワークのCBSなどが2月末に実施した世論調査では、給与がインフレに追いついていないと考えている市民が77%に上った。多くの家庭では、このままでは、手持ちの預金などを食いつぶしていかないと生活が成り立たないことになる。

トランプ関税がカード破綻の背中を押すか 国家経済脅かす一極集中

 トランプ政権がいったん発効したカナダ、メキシコへの25%の関税が、猶予期間後に再び発効されれば、1世帯あたり年間最大で2000ドル(約30万円)の負担増となると試算されている。関税導入は家計の破綻の背中を押しかねない。

 そして、もっとも恐れられているのは、上位10位による消費が止まった時の米国経済へのダメージだ。経済を支える要素が上位10%の消費に集中している米国経済は脆弱で、崩壊のシナリオを真剣に考える必要がないほど危うい状況にある。

 株価や資産価値が一気に落ち込むことは、この数十年で世界経済は何度も経験してきた。国際的な常識を乱すトランプ大統領の政策が米国の信用を棄損させ、株価や資産価値に大きな影響を与える事態は容易に想像できる。

 世界は「米国経済崩壊」の時のために、身構えなければならない。

(文=言問通)

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言問通

フリージャーナリスト。大手新聞社を経て独立。長年の米国駐在経験を活かして、米国や中南米を中心に国内外の政治、経済、社会ネタを幅広く執筆。

最終更新:2025/03/16 09:00