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チャリティー曲「We Are The World」から40年 今、アフリカを苦しめているのは米政権

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「We Are The World」(写真:Getty Imagesより)

 米国のトップミュージシャンが集って歌い上げた「We Are The World」がリリースされてから3月で40年を迎えた。飢餓に苦しむアフリカの救済を目的にしたチャリティーソングで、人類規模での団結と博愛を訴えている。当時は「億万長者の偽善だ」と批判する声もあったが、米国では教会や学校のコーラスなどでも歌い継がれている。「米国ファースト」を唱え、国内外で分断をあおるトランプ政権が暴走を始めた今、優しいメロディーと歌詞が改めて胸にしみると感じている米国人は少なくない。

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飢餓から救え、世界が動いた時代に大スターが共に奏でる

 「We Are The World」は1985年3月7日にリリースされた。当時、活躍した46人の歌手がひとつの曲を共に歌うという豪華な楽曲だっただけに世界中で話題となり、米国では初版の80万枚が発売からわずか3日で完売した。最終的には米国で800万枚、全世界で2000万枚以上が売れる大ヒット曲となった。1986年のグラミー賞では「最優秀レコード賞」など3部門を受賞した。

 飢餓救済という社会性の強い曲だけに、リリースから10年、20年、30年という節目の年で米国のメディアはこの曲を取り上げてきたが、40年たった今年も、ニュースの1項目になった。

 エチオピアなどアフリカ東部では1984~85年にかけて、干ばつと内戦で飢饉が深刻化し、約100万人が餓死した。メディアは悲惨な状況を伝え、世界でアフリカ救済の動きが強まった。日本でもタレントの黒柳徹子さんが国連児童基金(UNICEF)親善大使としてアフリカを訪れ、やせ細った子どもを抱きしめて救済を呼びかけた。

 音楽界でいち早く行動に出たのは英国とアイルランドのミュージシャンだった。「バンド・エイド」というチャリティープロジェクトを発足させ、ボノやフィル・コリンズ、ボーイ・ジョージ、ジョージ・マイケル、スティングら有名歌手が1984年12月にチャリティーソング「Do They Know It’s Christmas ?」を発表し、アフリカ支援を呼びかけた。

 「We Are The World」はこれに触発されて製作された。

めざしたのは「世界賛歌」 音楽賞の夜にほとんど初見で収録

 「バナナ・ボート」などのヒット曲で知られる歌手、ハリー・べラフォンテは社会活動家としても知られ、米国のミュージシャンも飢餓問題に取り組むべきだと考え、コモドアーズの創設メンバーであるライオネル・リッチーに働きかけた。共感したライオネル・リッチーがマイケル・ジャクソンのプロデューサーとしても知られるクインシー・ジョーンズに相談し、話が一気に具体化した。

 当初、曲作りにはスティービー・ワンダーが参画する計画だったが、自身のアルバム制作などで多忙だったことから、マイケル・ジャクソンが加わることになった。詞、曲はライオネル・リッチーとマイケル・ジャクソンの共作である。

 ライオネル・リッチーによると2人は国歌のような「壮大な」音楽を作ろうとした。米国を始め、英国やドイツなどいくつかの国歌を聞いて頭の中を整理したという。めざしたのは「世界賛歌」だった。

 収録は1985年1月28日、ロサンゼルスで行われた。この日、ロサンゼルスでは米国の3大音楽賞の1つである「アメリカン・ミュージック・アワード」の授賞式が開かれていた。多数のミュージシャンを1ヵ所に集めるならこの日しかなかった。

 収録が行われたのはハリウッドのA&Mレコーディングスタジオ。入り口のドアには「Check your egos at the door(あなたのエゴは入り口のドアのところに預けておけ)」という看板が掲げられていた。命を守るために待ったなしの状況だった。プロデューサーとしてこの曲にかかわったクインシー・ジョーンズがこの1晩にかける気持ちをミュージシャンたちに伝えた。

 授賞式を終えたミュージシャンたちは、続々とリムジンでスタジオ入りしたが、ブルース・スプリングスティーンは向かいにあったスーパーの駐車場に車を止めて、歩いてスタジオ入りしたという。

 収録当日になっても、ほとんどのミュージシャンはどんな曲か知らなかった。ライオネル・リッチーとマイケル・ジャクソンは、収録の1週間前にケニー・ロジャースのスタジオで行ったトラッキングセッションにかろうじて間に合うように曲を仕上げた。スタジオを貸したケニー・ロジャースでさえ、収録当日まで曲を聞いていなかった。

個性派ぞろい レイ・チャールズの一言で団結

 収録は午後9時にスタートし、12時間続いた。一流ミュージシャンは個性派ぞろいである。「こうしたらいい」「ああしたらいい」という声は当然、出てくる。
まとまりがつかなくなりそうなところを救ったのはレイ・チャールズだった。レイ・チャールズはこの時、すでに54歳。視力を失いながらもトップミュージシャンとして活躍し続けており、参加したミュージシャンたちは尊敬の念を抱いていた。

「マイケルたちの言うことをきいて、これをやり遂げようじゃないか」

 レイ・チャールズのこの一言で、現場は団結したという。

 「We Are the World」でソロ部分を歌い、ミュージックビデオで顔を出しているのは登場順にライオネル・リッチー、スティービー・ワンダー、ポール・サイモン、ケニー・ロジャース、ジェームス・イングラム、ティナ・ターナー、ビリージョエル、マイケル・ジャクソン、ダイアナ・ロス、ディオンヌ・ワーウィック、ウィリー・ネルソン、アル・ジャロウ、ブルース・スプリングスティーン、ケニー・ロギンス、スティーブ・ペリー、ダリル・ホール、ヒューイ・ルイス、シンディ・ローパー、キム・カーンズ、ボブ・ディラン、レイ・チャールズの21人。発起人のハリー・べラフォンテはコーラスのみの25人の中に入っている。

 制作にあたって中心的な役回りをしたハリー・べラフォンテ、ライオネル・リッチー、マイケル・ジャクソン、クインシー・ジョーンズのうち、ライオネル・リッチー以外は、すでにこの世を去った。

 そのアフリカでは、ほとんどの地域で3月からマラリアのシーズンが始まる。特に子どもにとってマラリアは、他の病気以上に致命的だ。現場の保健担当者は兜の緒を締める時だが、今年は早くも悲壮感が漂う。米トランプ政権が米国際開発局(USAID)の対外援助契約の90%を打ち切ることを決めたからだ。マラリアの治療薬が滞るのは間違いなく、大惨事が起きるだろうと予想している。「We Are The World」のリリースから40年後、米国の現政権がアフリカを絶望の淵に追いやろうとしている。

(文=言問通)

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言問通

フリージャーナリスト。大手新聞社を経て独立。長年の米国駐在経験を活かして、米国や中南米を中心に国内外の政治、経済、社会ネタを幅広く執筆。

最終更新:2025/03/18 09:00