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教育ジャーナリスト・後藤健夫の「Fランクから消滅大学になる日」教育ビジネス論#8

東大ランキングに意味はあるか?生徒を飛躍的に成長させる“教育格差を超える”指導

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「東大は“頭のいい奴”が行く場所じゃねえ」(写真/GettyImagesより)

 例年、東京大学合格者の高校別ランキングが話題となる。躍進する高校もあれば、初めて合格者を出す高校もある。そして、10年前までは合格者を出していたが、最近は出なくなり、衰退を感じさせる高校もある。こうした結果に一喜一憂する関係者も少なくない。特に、衰退している高校の卒業生は「昔はウチも……」と嘆きたくなるだろう。

体育会系にとらわれないマネジメント

 かつてはこうした場面では予備校が幅を利かせていたが、これも「今は昔」の話になりつつある。18歳人口のピークに向けて増加する受験生や浪人生を、河合塾で見守っていた私にとっても同様だ。大学に入学しやすくなった現在、浪人は「結果」ではなく「意志」による選択である。自分が学びたい大学へのチャレンジを決めて、進学を1年間先送りするのだ。

 さらに、近年はオンライン学習の環境が充実しており、必ずしも高額な学費を払って予備校に通う必要はなくなっている。N予備校であれば月額1100円(税込み)( https://www.nnn.ed.nico/pages/price )である。ただし、昔の宅浪(在宅浪人のこと。もう死語か)同様、自分で規律正しい生活を送り、計画的な学習をすることが重要かもしれないが、これも本人の「意志」が強ければうまくやりきれるはずだ。つまり、浪人の成否も、志望大学で学びたいという本人の「意志」にかかっているのだ。

 先日、ある有名進学校の校長に、東大合格者数について聞いてみた。

「東大の合格者数は多いほうが良い。生徒が東大に進学したいのであれば当然のことではないか。でも、ランキングに意味があるかといえば、あまりないだろう。もちろんランキングが高ければ気分は良い。合格者数を増やしてランキングを上げることは、生徒の意志を無視して良ければ、いろいろと工夫できる」

 校長には具体的な工夫の方法を聞きそびれたが、少し考えてみると、いろいろと思い当たる点がある。

 以下は、東大に合格者を恒常的に10人以上出す高校に限ったことになるかもしれないが、少し考えてみる。

 東大の一般選抜の科類別の入学定員は、次のとおり。


文科一類:401人  文科二類:353人  文科三類:469人


理科一類:1,108人 理科二類:532人  理科三類:95人(予算が通れば97人)


 これに学校推薦型選抜が約100名。合格者は入学後に、文科一類から理科三類のいずれかの科類に正式に所属が決まる。

 理科一類の定員は文科一類の約2.8倍である。文科、理科を比べても理科の方が500人ほど多い。


 つまり、東大の間口は理類、とりわけ理科一類が広い。だから高校では文系志望者よりも理系志望者を増やしたほうが良いのだ。

 今回、日比谷高校が合格者数を増やした背景には、学習指導要領が変わった際に「理数探究・基礎」を高1から必須にした影響があるのではないだろうか。

「探究」とは「探り究める」こと。自分が興味を持った分野を探って深く学ぶことだ。

 ここで重要なのは、「自分が」という主体性である。

 浪人は「意志」であると前述したが、言い換えれば「エージェンシー(主体的に行動する力)」とも言える。「自分が」という言葉にも、そのエージェンシーが表れている。つまり、学ぶ姿勢として自ら主体的に関わることが重要なのだ。

 今年度、私立中高である上野学園(台東区)からは、東京大学文科三類および東京芸術大学への合格者が出た。ここ数年、同校は合格実績を着実に伸ばしている。
ここでは、藤井亮太朗さん(2025年3月に上野学園を退職。4月から文京学院大学女子中高の教頭に就任予定)をリーダーとして「探究学習」に力を入れてきた。

 藤井さんは日常的に生徒と対話を重ねることで、「探究」を加速させ、学ぶ意欲を引き出し、自ら考え、調べ、仮説を立てて検証し、それを自分の言葉で表現できるように導いていた。

 私もこの3年間、数人の生徒と「対話」を通じて、探究的に学ぶお手伝いをしたが、生徒たちは対話によって価値観を揺さぶられ、自分の見方や知識が一面的なものであることに気づいていった。対話を繰り返すことで、彼らは視野を広げ、多面的に物事を考えるようになり、自分の考えを自らの言葉で表現する力も身についていった。

 私は、こうした成長の過程を間近で見てきたが、その成果が、結果として合格実績の向上にもつながったのだ。

 学校において、藤井さんはこうした対話を日常的に生徒と重ねることで、「探究」を加速させ、学ぶ意欲を引き出して、自分で考えて調べて、仮説検証をしたことを自分の言葉で表現することができるようにした。その成果が、結果として合格実績の向上にもつながったのだ。

 合格者を増やす工夫とは、生徒の学ぶ意欲を引き出すことであり、極めて本質的な教育の在り方である。その上で、理系志向を少し意識づけることで、東大合格という成果にもつながりやすくなる。高校は「普通教育」の場である。つまり、「普く通じる」知識や思考を学ぶ場所である。

 一般選抜の仕組みを踏まえ、理系クラスの選択者を増やす。これは、生徒が数学に苦手意識を持たず、広く学べる環境を整えることが基盤となっているはずだ。大学入試、とりわけ国立大では、理系志望者が途中で文系志望に変えても大きな負担はない。一方で、文系志望の生徒が途中から理系志望に変えることのハードルは高い。理系クラスを増やすことが合格実績に影響するのだ。

 高校や私立中学においては、大学合格実績が生徒募集の大きな要素になる。保護者の関心も、自然と合格実績に向かいやすいためだ。

 そのため、数学嫌いを避け、早期から探究的・主体的な学びを促すことが、結果として東大や難関大学への合格実績を高める有効な方策となるだろう。

(文=後藤健夫/教育ジャーナリスト)

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後藤 健夫

コラムニスト/教育ジャーナリスト/大学コンサルタント
南山大学を卒業後、学校法人河合塾、早稲田大学、東京工科大学等に勤務。現在、大学の募集戦略支援や高校の大学進学支援、「探究学習」のカリキュラム・教材開発、授業改善等に従事。日本経済新聞に「受験のリアル<大学編>」を連載するなど、コラムや記事を執筆。

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後藤 健夫
最終更新:2025/03/24 02:29