大阪万博「2億円トイレ」完成写真が炎上 批判する人たちの群集心理を考える

大阪・関西万博開催を目前に控え、ネットで批判が巻き起こったのが「2億円トイレ」である。万博全体の建設費用については、建築資材の高騰等で当初1250億円だったはずのものが2350億円に膨らんでいると2024年4月に報じられた。なかでも若手デザイナーを起用するなどした“デザイナーズトイレ”の価格が約2億円ということが判明し、そもそも「高すぎるのでは」と批判が多かったところ、その完成写真が明るみになると、今度は「2億円にしては安っぽい」などと炎上が再燃しているのだ。
これを受け、設計した米澤隆氏がXで「事実」を説明した。カネが絡むと燃え上がるネット世論に対して鎮火を図った形だが、ここでは、なぜ「とにかく何でも叩きたい群集心理」が発生するのかを考えてみる。
とにかく「公的なカネ」がかかるものを叩きたいニッポン
米澤氏は昨年の段階から解体費込みであること、若手デザイナーを対象としたコンペに「ぜひ」と参加したこと、46基の便所で2億円というのは通常よりも安い金額であること、万博終了後は移動させて公園等に必要基数を組み合わせて設置することは可能、などと長文で丁寧に説明した。
大阪府の吉村洋文知事も、平米単価は77万円と64万円であり、2021~2022年の公共施設の平米便所の単価である98万円より安い、とXにつづった。さらに、可能な限り減額検討を行うなどし、解体費込で1.5億円まで下げたことを米澤氏は説明。これには「誠実」「納得した」といった声も寄せられたが、全文を読まなかった人も多かったようで、カラフルで、積み木のようなシンプルデザインのトイレに「ダサい」「ゴミステーションか」などとバッシングは止まらない。

もともと大阪万博自体に批判的な声は多かった。初期は公式キャラ「ミャクミャク」が大腸のようで不気味である、と言われた。1970年の第1回大阪万博の時のように、一大イベントで景気浮揚を狙う時代でもない今、そもそも日本での万博開催に対して懐疑的な人が多かった。「タダでも行かない」などと宣言する人も多い中、「2億円のトイレ」という言葉のインパクトはあまりに強く、批判が殺到することとなったのだ。
東京五輪もそうだった
いったん嫌われると、やることなすことに叩きが始まるのは東京五輪でも同様だった。もともと新国立競技場の建築予算は1300億円だったが、故ザハ・ハディド氏デザインの競技場が2520億円と倍増するということから批判が殺到。再コンペを行い、隈研吾氏によるデザインが採用された。それでも1569億円だ。だが、ザハ氏案よりは安いからか、はたまた本番が迫っていたからか、批判はそれほどなかった。
しかし東京五輪への“ケチ”が続く。森喜朗氏が舌禍で組織委会長を辞任したり、開会式の音楽を担当する小山田圭吾氏が過去にいじめをしていたことが問題視され、降板。演出担当の小林賢太郎氏も過去のコントが差別的だと解任された。パラリンピックも総合演出の佐々木宏氏が渡辺直美を豚にする「オリンピッグ」とLINEグループで書いていたことから降板した。
結局1年遅れで大会は開催されたが、開会式がピクトグラム以外は退屈だったとの評もあったし、IOCのバッハ会長は「ぼったくり男爵」と呼ばれ忌み嫌われた。銀座を歩いたら「コロナ禍の時期に何をやっている!」とネットでは叩かれた。実際その場にいた人々は同氏に好意的だったとの話もあるが、結局東京五輪は「呪われた五輪」と国内外から称されてしまったのである。
「日本のトイレはすばらしいという声」に溜飲を下げる人続出、を予言しておく
とにかく今、ネット民は税金が関わるわかりやすいものを叩きたがる傾向がある。それこそ税金が給料となる政治家――故安倍晋三氏が3500円のカツカレーを総裁選の前に食べたこと、麻生太郎氏が高級バー通いをしていること、菅義偉氏が食べたパンケーキが2800円といった行動でも「庶民感覚がない」と叩かれるのである。
2020年、新型コロナ対策分科会会長だった尾身茂氏が理事長を務める医療法人は2019年比311億円の補助金を得ていた。しかも、使われない「幽霊病床」を作っての結果である。これまでのコロナ対策費は300兆円とされていて、結局コロナでは補助金で潤った小規模飲食店と医療機関、不正に補助金を獲得した事業者らは儲かったが、多くの国民に「儲け」はない。これにはもっと怒っていいはずなのだが、そこには怒らず、2億円のトイレや3500円のカツカレーに怒る。つまり、トイレやカツカレーなど、自身の生活で身近なものであれば怒ってもよいと勘違いするのか、テキトーに「高い!」と憤慨するのである。
そういえば、人々が怒りまくったのが2022年、山口県阿武町で発生したコロナ対策の臨時特別給付金の誤給付騒動だった。町役場が町民全員分の4630万円を当時24歳の無職の移住者男性に振り込んでしまったのだ。男性はオンラインカジノで使おうとし、給付された口座とは別の口座に移すなどした。
結果的にこの男性は町から訴訟を起こされ、電子計算機使用詐欺罪で懲役3年、執行猶予5年の判決が出た。この騒動発覚後のテレビとネットの糾弾っぷりはすさまじいものがあった。そしていかにこの男性が「クズ」であるかを解説するのである。移住者に付与される定住支援金を獲得したうえで引っ越してきたのに仕事をせず、地元の人とも交流しないことに加え、イケメンだったことすら叩きまくった。
もはや「叩きたいだけの群衆心理」とでもいえ、毎日何かに怒り、文句や批判を述べなくては落ち着かなくなっているのだ。2億円トイレにしてもどうせ万博が始まったら「アメリカ人が『このトイレはクールだね。ワーオ、シャワートイレ、私も家に欲しいよ』と万博のトイレを絶賛」なんてコタツ記事が出るんだろうね。その頃には怒ったことも忘れて別の何かを叩いているのだろう。
(文=中川淳一郎)