CYZO ONLINE > 社会ニュース > 腸内環境整える炭酸飲料が米国で急成長

腸内環境整える炭酸飲料が米国で急成長 「Gen Z」が変えるがぶ飲み文化

文=
新ソーダ戦争 コーラで敗北、それでも食らいつくペプシの画像1
イメージ画像(写真:Getty Imagesより)

 米国で炭酸飲料が激動の時代を迎えている。「プレバイオティック」と呼ばれる健康志向飲料が急成長し、コカ・コーラやペプシコがこの分野に参入した。コーラ部門では、コカ・コーラのライバルとされてきたペプシ・コーラが販売量の2位から陥落し、「コーラ戦争」は終結したとされる。いずれも背景にあるのは、「Gen Z」(Z世代)と呼ばれる若者世代の味や健康などへの価値観だ。「定食にはみそ汁、ハンバーガーにはソーダ」というように日本人のみそ汁のように食事の際に飲まれている炭酸飲料は、大きな転換点を迎えつつある。

1割の国民が全消費の半分を占める米国の異常性 国家経済揺るがす恐れも

長期低迷の中に現れた「彗星」 1年で2倍に成長

 米東部のニューヨークでは、炭酸飲料のことを「ソーダ」と呼ぶ。マクドナルドなどファストフードでハンバーガーを注文すると「飲み物は何にする?」との意味で「ソーダは何にする?」と店員から尋ねられる。コーラであろうが、何であろうが、炭酸飲料は「ソーダ」だ。

 これが中西部に行くと「ポップ」という言い方になり、南部ではコカ・コーラ以外の飲料を含めて「コーク」と呼ぶ。

 地域によって炭酸飲料の呼び名が異なるということは、それだけ生活に身近で、日本人の感覚以上に炭酸飲料を飲む機会が多いということでもある。

 その炭酸飲料に新しい分野が誕生した。腸の状態を整えるという触れ込みの「プレバイオティック・ソーダ」だ。繊維質や亜鉛、ビタミンCなどの成分を含んだ炭酸飲料で、2018年ごろから新興企業が手掛け始めた。現在では大型スーパーから個人商店まで、どこの店でも見かける一般的な商品となった。

 日本ではこうした商品を「プレバイオティクス」と、末尾に「S」を付けた表現が一般化しているが、米国では「Prebiotic Soda」と末尾に「S」を入れないで記している。

 米国でもこのところ、炭酸飲料に対する風当たりは強い。「ただ甘いだけ」「糖分を過剰摂取し体に良くない」というイメージが一般化し、ニューヨークではかつて市民の肥満防止のために炭酸飲料の販売サイズを規制する動きがあったほどだ。
この20年間、炭酸飲料の売り上げが下降線をたどる中で、「プレバイオティック・ソーダ」は好調な売り上げを続けている。米シティ・バンクによると、この分野の市場規模は8億2000万ドル(約1230億円)になった。2023年から2024年にかけて、約1年間で倍増した。

 米国のソフトドリンク全体の市場規模は約424億円(約6兆3600億円)。「プレバイオティック・ソーダ」は、全体からすればわずか2%程度の規模ではあるものの、その勢いは大手飲料メーカーがー目置く存在となった。

新興企業が道を開き、大手が後を追って参入

 販売増加の原動力は、健康問題に関心が高い「Gen Z」と呼ばれる若者世代だ。伝統的な炭酸飲料やノンシュガーなどのダイエットタイプのソーダではなく、健康に良いとされる成分がプラスされている炭酸飲料を好んで飲む。

 今後、長く顧客となる若い層の動きに大手飲料メーカーは敏感だ。コカ・コーラは2月から人気の「シンプリー」という飲料シリーズに「シンプリー・ポップ」という「プレバイオティック・ソーダ」を投入した。

 354ミリリットルのスリム缶の商品で、パイナップル・マンゴーやライムなど5種類の味を製造している。6グラムの「プレバイオティック」成分のほか、亜鉛、ビタミンCが含まれている。

 果汁味を前面に押し出すことで「プレバイオティック・ソーダ」に不慣れな層にも商品を手にしてもらうとしている。

 一方で、ペプシコは3月17日、2018年から製造されている「poppi(ポッピ)」というブランドを買収すると発表した。買収額は約20億ドル(約3000億円)だ。

 「ポッピ」はテキサス州の夫婦が開発した。元々はリンゴとシナモンなどで作る酸味のあるアップルサイダーを製造していたが、夫婦は新規ビジネスに投資するテレビのリアリティーショー『シャーク・タンク』に出演し新商品をアピールしたところ、投資家が名乗りを上げ、「ポッピ」として商品化された。

 「プレバイオティック・ソーダ」の草分け的な存在で、2024年の売上高は5億ドル(750億円)以上にのぼる。10以上の味があり、アップルサイダービネガーが含まれていることが特徴だ。

 2025年2月のプロフットボールナンバーワンを決める「スーパーボウル」では数々の名門企業と並びスポンサーとなり、中継中に「ポッピ」のCMが流れたことで、商品の認知度が格段にアップしたといわれる。

 ペプシコはその「ポッピ」を買収することで「プレバイオティック・ソーダ」分野を一気に牛耳る狙いだ。

コーラで2位の座奪われたペプシ 買収で新分野制覇狙う

 ペプシコの大胆な戦略の裏には、「本業中の本業」であるコーラ部門の衰退がある。

 1世紀以上にわたり、巨艦コカ・コーラとライバル関係にあったペプシ・コーラが、2位の地位をドクター・ペッパーに奪われてしまった。飲食業界で権威のある業界誌「ビバレッジ・ダイジェスト」が2024年に伝えると、「コーラ戦争が終結した」と米国の多くのメディアが伝えた。1995年の絶頂期には15%のシェアを誇っていたが、8.3%ほどまでにシェアを落とし、ドクター・ペッパーに抜かれてしまった。

 「Gen Z」世代は健康志向だけでなく、より変化のある味を好む傾向があり、ドクター・ペッパーの独特の風味が若い世代の人気となり販売量を伸ばした。ペプシコは若者向け商品での遅れを取り戻すため、今回の買収に踏み切った。

 ただ、「プレバイオティック・ソーダ」の健康面への効果については専門家の間で疑問を呈す意見もある。消費者を惑わせていると主張する消費者団体などの声は少なくなく、常に訴訟リスクを抱えている。

 不確実性の中で、炭酸飲料は大きく変わろうとしている。

(文=言問通)

テイラー・スウィフト人気に「変化」の兆し ブーイングでフォロワー減少

米コストコ従業員の時給が4650円以上に⁉

言問通

フリージャーナリスト。大手新聞社を経て独立。長年の米国駐在経験を活かして、米国や中南米を中心に国内外の政治、経済、社会ネタを幅広く執筆。

最終更新:2025/03/31 09:00