「幽霊銃」が急増 製造番号なく実態は闇の中 乱射事件の温床に

3Dプリンターで作られ、だれにも簡単に組み立てられる「ゴーストガン(幽霊銃)」が米国の犯罪シーンの中心に踊り出てきた。手製の「密造銃」で、製造番号がないため、どこに、どれぐらいあるのかどうかもわからない。米政府の銃規制当局の最新データでは犯罪現場で発見、押収された「ゴーストガン」は2017年比で16倍以上の増加となっており、対策は待ったなしだ。米最高裁は3月26日、バイデン政権時に定めた政府の「ゴーストガン」規制は妥当だとの判断を下したが、銃規制に慎重なトランプ政権は、これまでの銃規制を見直す姿勢で、「ゴーストガン」が政治の主役になりそうな様相を呈している。
CEO射殺に震え上がった米企業 役員守るための支出トップはメタで年間37億円超
押収数、ニューヨーク市では4年で2.5倍 全国ではさらに跳ね上がる
銃規制が厳しいニューヨークでも銃撃事件は連日のように発生し、ニュースで報じられる。被害者が少年や少女だと大きなニュースになるが、それが成人ならば扱いは小さい。ましてや発砲音がしただけではニュースにもならない。銃がまん延し、銃犯罪に慣れてしまった社会の悪弊である。
そんな銃社会の恐怖をさらに増幅させているのが、「ゴーストガン」である。2024年12月にニューヨーク・マンハッタンの中心地で起きた医療保険会社の最高経営責任者(CEO)射殺事件では「ゴーストガン」が使用された。
事件そのものがショッキングだったばかりでなく、「ゴーストガン」のまん延ぶりを全米に知らしめた。
犯罪現場などでの「ゴーストガン」の押収件数は急増している。ニューヨーク市警察本部のまとめでは、ニューヨーク市内での2020年の押収数は150丁だったが、2024年には380丁を超え、4年で2.5倍以上になった。
全米レベルでは、さらに大幅な増加となっている。アルコール・たばこ・銃器取締局(ATF)の最新の調査結果によると、2023年の押収件数は約2万8000丁近くで、2017年の16倍以上になっている。
ネットで簡単購入 映像見ながら「楽々」組み立て
ATFによると、「ゴーストガン」は通常の銃の購入を禁じられている犯罪経験者の間で急速に広がっているという。
通常の銃は、当局から認可を受けた会社によって製造され、認可を受けた銃器販売業者によって販売されている。米国内での製造、海外からの輸入を問わず、すべての銃の背面に製造番号を表示することが法律で義務付けられている。
しかし、「ゴーストガン」は部品として販売され、製造番号はない。購入者のバックグラウンドチェックはなく、インターネット販売で簡単に購入することができる。
一般的な商品は、すでに80%ほど完成した状態になっており、購入者が残り約20%を自分で組み立てるだけだ。
小さな工具が付属品として含まれているほか、組み立て方法を説明するユーチューブのリンクもあり、ユーチューブの映像通りに組み立てれば、機械に弱い購入者でも簡単に仕上げることができる。短いものでは約20分で完成する。
販売業者は手間がかからないことを前面に打ち出しており、購入から1、2時間後には射撃場で試し撃ちができることを売り文句にしている商品もある。
通常の銃市場で人気のAR-15の組み立てキットは約345ドル(約5万円)と、買いやすい価格で販売されている。
保守派多い最高裁も「規制は妥当」 トランプ政権の次の標的に
「ゴーストガン」のキットは1990年代から販売されていたが、2013年6月にカルフォルニア州のサンタモニカ・カレッジでの銃乱射事件が起きるまで、ほとんど関心が向けられなかった。
この事件は大学の構内と周辺で男が無差別に銃を乱射し、4人が死亡、男も警察官に撃たれて死亡した。当時のオバマ大統領がサンタモニカを訪れていた日の発生で、事件は全米に衝撃を与えた。男が所持していたのが「ゴーストガン」だった。
「ゴーストガン」がどのくらい米国社会にまん延しているのか、正確な数字は把握されていない。
専門家は、カリフォルニア州やニューヨーク州など銃規制が厳しい州で広がっている傾向が強いと分析している。
カリフォルニア州では2020~2021年の間に犯罪現場で押収された月ごとの銃の数のうち25~50%が「ゴーストガン」だったという。「ゴーストガン」での犯行の大半は、経歴から銃の購入ができない容疑者によるものだった。
こうしたことからバイデン政権は2022年、「ゴーストガン」の製造に必要な部品キットを銃器とみなして銃規制法の対象に加えた。キットの販売業者などに対して製造番号の表示や購入者の身元確認などを義務付けた。
これに対し業者や保守派のロビー団体が、「ゴーストガン」規制は銃の所持を認めた憲法修正第2条に反するとして訴えていた。
最高裁は保守派6人、リベラル派3人と、銃所有を認める保守派に傾いていたが、最高裁は3月26日、7対2でバイデン政権時の「ゴーストガン」規制を妥当なものとの判断を下した。
ただ、トランプ大統領は銃規制そのものの見直しを訴えており、このまま静観するとは考えられない。関税で世界を振り回した後は、「銃規制撤廃」に着手するのではないか、との声があがっている。
(文=言問通)