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日本では吉本芸人、米国では高校生 オンラインカジノの深い闇

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オンラインカジノの画像1
イメージ画像(写真:Getty Imagesより)

 違法オンラインカジノが問題になっている。4月3日にはオンラインカジノで賭博したとして吉本興業のお笑いタレント6人が書類送検され、日本でのまん延ぶりが浮き彫りとなったが、米国は一段と深刻で、高校生の間で急速に広がっている。若いうちからギャンブルに手を出すと依存症になるリスクが高まるとされており、規制強化を求める声が高まっている。

ニューヨーク市にカジノ 世界一のビジネス街にさらなる「札びら」

バーチャルポーカー 学園はまるで賭場

 ニューヨークの大衆紙、ニューヨーク・ポストは高校生を対象とした記事コンテストを開いている。将来のジャーナリスト育成などが目的だが、4月に発表された2025年の優秀作品の1つに選ばれた男子高校生の記事が、教育界を揺るがせた。高校生たちが深夜、オンラインでバーチャルポーカーゲームに熱中し、1ゲームあたり数百ドルというカネが飛び交っているというのだ。

 教育に熱心な街として知られるニューヨーク州チャパクアにあるホレス・グリーリー高校の11年生(日本の高校2年生に相当)、アイザック・カリージョさんの記事は、オンラインポーカーの画面描写から始まる。

「テーブルには3人のプレーヤーDerekC9、Fuzzypanda21、そしてErik467が座っている。コンピュータ画面の向こうには人だかりができている」

 プレーヤーの名前はオンライン上のユーザーネームだ。

「Erik467はポケットエースを持っている。統計的にポーカーでは最強の手だ。Erikはほぼ即座にプリフロップでオールインする」

 スリルあふれるポーカーの神経戦の様子が描かれ、優勢と思われていたErikが敗れる。

「こうしてErikは100ドルという借金の泥沼に沈んでいった」

 カリージョさんによると、ホレス・グリーリー高校だけでもいくつかのポーカーリーグが開催されており、数十ものバーチャルテーブルがあるという。

 ポーカーの実力のレベルはリーグで異なり、上級者から下級者まで、それぞれの実力に応じて参戦できる。

 オンラインテーブルは夜通し満席状態で、ピークの時間帯は午後11時ごろだという。高校生が「スリルに取りつかれたように」かけ金を増やし、あっという間に所持金をなくしてしまう。

「14歳の生徒が100ドルから300ドルもの借金を抱えているという話は、校舎の廊下でよく耳にする」といい、1500ドル以上を失った生徒もいると記事にはある。

 ホレス・グリーリー高校は全米でもトップクラスの公立高校として知られ、2015年には「ベスト・カレッジ・コム」で全米ナンバーワンに選ばれたこともある名門校だ。その優秀な高校生がオンラインポーカーに夢中になっている実態は、教育関係者のみならず、多くの米国人にショックを与えた。

14~22歳の58万人が経験あり ギャンブル熱の高まりが波及

 ペンシルベニア大学の調査によると、米国では14~22歳までの若者290万人が金銭をかけてカードゲームをした経験があり、そのうちの58万人がオンラインで賭博していたという。

 米国ではギャンブル熱が高まっている。2018年に最高裁判所がスポーツ賭博やオンラインギャンブルを合法とする判断をしたことから、各州でギャンブルを容認する動きが広がった。ギャンブル市場は日本円で3兆円規模となり、一大産業に成長した。

 大人の社会がギャンブルブームなら、学生のレベルまで熱は広がる。大学のキャンパスでギャンブルが急増し、次に高校生レベルに波及してきた。

 特にオンラインカジノは、身元をごまかせることから急速に高校生の間で広がった。米国内のオンラインカジノのほとんどは21歳以上でないと参加できないが、親のIDを使うなどすれば、制限は高校生にとって大きな制約ではない。

 また、米国外で運営されている海外カジノサイトは年齢確認を行わないものが多く、モバイル端末で簡単に賭博に興じることができる。

 ソーシャルメディアも高校生のギャンブル熱に火を注いでいる。ポーカーやオンラインカジノでの勝利の瞬間を投稿し、これを見た同世代の学生が「賭博は常時、勝てるもの」という幻想を抱きながら手を出し始める。

 イェール大学医学部の調査では、米国の成人の約1%がギャンブル依存症に苦しんでいるが、10代と若年成人では、この数字が2~7%に跳ね上がるという。

 思春期の若者の前頭葉皮質は成熟途中であり、意思決定と衝動抑制を担う脳の部分が完全に発達していないため、ギャンブルのような衝動的な行動を抑えることができないという専門家の分析がある。

若いうちに始めれば依存症になる可能性が4倍に

 米国の非営利団体、全国ギャンブル問題評議会の調査では、12歳までに賭博を始めた子どもは、その後、依存症などになる可能性が約4倍高まるとされている。

 米国では2024年に選挙結果を対象とする賭博行為も合法化された。ギャンブルが社会に広まる勢いは続いている。一度認めたギャンブルを禁止すると、地下に潜って手に負えなくなる可能性があるため、中止にはできない。米国社会はすでに依存症のような環境に置かれている。

 10代の若者をギャンブルから遠ざけるための規制は州ごとで取り組んでいるものの、決定打は存在しない。ギャンブル拡大の背景には税収確保という行政当局の都合もある。カジノ業界と行政が潤う陰で、将来を担う若者はむしばまれている。

(文=言問通)

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言問通

フリージャーナリスト。大手新聞社を経て独立。長年の米国駐在経験を活かして、米国や中南米を中心に国内外の政治、経済、社会ネタを幅広く執筆。

最終更新:2025/05/07 09:00