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続発する「クレカ」規制が女性向けサイトにも波及…決済拒否に法的問題はないのか、弁護士が解説

 

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イメージ画像(写真:Getty Imagesより)

 近年、主に成人向けコンテンツを扱うサービスで国際系クレジットカードの決済が「取り扱い停止」になる事態が相次いでいる。当初は男性向けコンテンツを販売するサイトを中心に続発していたが、12月10日にBL(ボーイズラブ)作品などを扱う同人通販サイト「pictSPACE」がVisaおよびMastercardでの決済が2025年1月1日から停止されると発表。「ついに女性向けサイトでもクレカ規制か」と騒がれている。

 ネット上では「カード会社による表現規制や検閲行為に当たるのでは」とも指摘され、成人向けコンテンツへの“クレカ規制”に対する危機感が高まっているが、法的に問題がある作品を販売しているわけではないのに、利用者や事業者が一方的な決済停止で不利益を被るのは理不尽にも思える。法的な問題や解釈などについて、法律のプロに話を聴いた。

相次ぐクレカ規制強化

 成人向けコンテンツへの“クレカ規制”をめぐっては、2022年7月に「DMM.com」および「FANZA」(運営はDMMから分社化したデジタルコマース)でMastercardでの決済が停止されたのを皮切りに、Fantia(ファンティア)、とらのあな、ニコニコ動画などの大手サイトで続々とVisaやMastercard、もしくはその両方での決済が一時停止に。

 さらに、絶版マンガを中心に扱う電子書籍配信サービス「マンガ図書館Z」が11月末にサイトを停止し、その原因が「決済代行会社が『アダルトコンテンツの取り扱い』を理由にカード決済を含むすべての決済手段の解約を通知してきたため」と明かされた。これに対して、ネット上では「カード会社による焚書だ」と憤る声もある。

 女性向けサイトへ波及する動きもあり、先述の「pictSPACE」の件だけでなく、アニメイトグループが運営するドラマCD配信サービス「ポケットドラマCD(ポケドラ)」でも12月11日をもって「オトナの女性向け」カテゴリー作品のクレジットカード決済が終了となった。

 決済停止の具体的な理由については「マンガ図書館Z」の例のように「アダルトコンテンツの取り扱い」が主な原因と考えられているが、どのような内容が問題視されているのかははっきりと分からず、ニコニコ動画のようにアダルト系に特化していないサイトが対象になるケースもあり、かなり不透明だ。

 また、2022年にアメリカで未成年の少女が「自分の映像が無断でポルノサイトにアップロードされた」として裁判を起こし、Visaも「児童ポルノが掲載されているのを知りながら決済手段を提供していた」として被告に指定された。これを機にVisaやMastercardといった国際系カードブランドのガイドラインが厳しくなったことが影響しているとの指摘もある。ただ日本での規制対象は二次元系のサイトが中心になっているように見受けられる。

 決済終了については、複数の事業者が「決済代行会社から一方的に通知された」と明らかにしている。また、表現規制問題に取り組む山田太郎参院議員は、VISA本社で聞き取り調査したところ、担当者から「VISA本社は、特定の用語を含むコンテンツについて、取り扱ってはならないといった指示を出したことはない」「合法であるコンテンツ等に対する価値判断は行なっていない」との回答を得たとしている。

 こうした状況から「誰が規制を主導しているのか」という大きなポイントが見えづらくなり、対応が難しくなっているが、そうしている間にも“クレカ規制”の波は拡大している状態だ。

 この問題については、識者の間から「特定のサービスへの一方的な決済拒否は独占禁止法などの法律に触れるのでは」との指摘も上がっている。そうなればクレジットカード会社や決済代行会社に大きな問題が浮上することになるが、そのような可能性はあるのか。山岸純法律事務所の山岸純弁護士はこのように解説する。

「加盟店が決済代行会社やクレジットカード会社と加盟店契約をする際、当該契約には、いわゆる”べからず集”として、『児童ポルノを営業していないこと』『違法カジノを営業していないこと』『反社会的勢力ではないこと』などの禁止約款が明記されています。もし禁止約款に当たるような表現や行為があれば、当該約款に基づいてのものである限り、資本主義における『契約自由の原則』の通り、決済を停止することは可能です。

 ただし、そのような『誰が見てもダメだろう』というものではなく、『ある種の表現物、著作物』のクレジットカード取引を規制するというのは、表現の自由(憲法21条)に深く関わることになるので、きわめて慎重に対応しなければなりません。
 なぜなら、憲法は『国と国民』の関係を規律するものとはいえ、クレジットカード関連会社と加盟店の関係においては、『私人間効力』という憲法学上の問題が発生し、簡単に言うと『表現の自由を保護する憲法21条の趣旨に鑑み、クレジットカード関連会社の取引拒絶行為について不法行為が成立し、損害賠償の対象となる可能性がある』ことになるからです」

 さらに山岸弁護士は以下のように指摘する。

「クレジットカード決済が、今や電気、水道、ガスといったライフラインに匹敵するようなインフラであることを考えると、例えば『電気事業者』は一般人の電気供給契約を拒否できない、『医師』は治療を求める人の診療を拒否できない、といったようなものと同様の政策的な修正が必要なのかもしれません」

(文=佐藤勇馬)

■協力=山岸純/弁護士・山岸純法律事務所代表

時事ネタや芸能ニュースを、法律という観点からわかりやすく解説することを目指し、日々研鑽を重ね、各種メディアで活躍している。芸能などのニュースに関して、テレビやラジオなど各種メディアに多数出演。また、企業向け労務問題、民泊ビジネス、PTA関連問題など、注目度の高いセミナーにて講師を務める。労務関連の書籍では、寄せられる質問に対する回答・解説を定期的に行っている。現在、神谷町にオフィスを構え、企業法務、交通事故問題、離婚、相続、刑事弁護など幅広い分野を扱い、特に訴訟等の紛争業務にて培った経験をさまざまな方面で活かしている。山岸純法律事務所

佐藤勇馬

1978年生まれ。新潟県出身。SNSや動画サイト、芸能、時事問題、事件など幅広いジャンルを手がけるフリーライター。雑誌へのレギュラー執筆から始まり、活動歴は15年以上にわたる。著書に『ケータイ廃人』『新潟あるある』がある。

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最終更新:2025/01/10 18:17