「あなた、逮捕されてください!」 Amazonや楽天を一度でも利用すれば特殊詐欺の標的に!? 通販サイトの個人情報と“警察を名乗る詐欺”の意外な関係

ニセ電話で指定口座に金を振り込ませる「特殊詐欺」が激増している。警察庁によると、今年上半期(1~6月)の認知件数は昨年同期比で約50%増、被害額は約160%増という急増ぶりだ。
なかでも警察官を名乗って電話をかける「ニセ警察詐欺」が増えている。しかも、電話口の相手は自分の現住所まで把握しているという。恐ろしい話だ。
一体どこから個人情報が漏れているのか? その出どころは「通販サイト」だった――。
銀行口座を不正利用されると共犯容疑で逮捕!?
8月のある日、スマートフォンに着信があった。見慣れない「+81」という、海外から日本に国際電話をかける際の番号だった。
「ネットショッピングで何か買い物してたかな?」
仕事柄、知らない番号から電話がかかってくることもあるので、とりあえず出てみた。
「兵庫県警捜査二課のミヤモトアイナと申します。千駄木雄大(ペンネームだが、以下この名前で進める)さんでお間違いないでしょうか?」
番号をよく見ると、末尾が「0110」の警察署代表番号だったため一瞬怯んだが、すぐに最近はやりの“警察を名乗る特殊詐欺”だと気づいた。しかし、「万が一」という可能性もあるので、切らずに「そうです」と答えた。
「事件のことで、今すぐ大阪府警に出頭してください」
筆者は東京都在住のため、それは難しい。というか、どうして兵庫県警なのに大阪府警? そう伝えると、ミヤモトは一瞬口ごもりながら、こう言った。
「大阪府警は伊藤真也を主犯格とする詐欺グループの捜査を進めており、容疑者の自宅から大量のキャッシュカードを押収しています」
調べてみると、伊藤真也とは犯罪収益を送金するなどの資金洗浄(マネーロンダリング)に関わった主要メンバーのひとりで、実在する人物のようだ。ミヤモトは続ける。
「その大量のカードの中の1枚が、千駄木さんの名義で開設されていた楽天銀行のキャッシュカードです。現在、それを押収している状況となっています。以前、紛失されたことは覚えていらっしゃいますか?」
筆者は楽天銀行の口座を持っていないので、「違いますよ」と答えた。
「千駄木さんの現住所は、三重県伊勢市〇〇ですよね?」
全然違う。というか、さっき東京在住と言ったはずだが……。ミヤモトはしばらく黙ったのち、こう切り出した。
「千駄木さんが伊藤真也の“資金洗浄”に加担しているのではないかという容疑がかかっております」
いや、さすがに無理がありすぎる。
「その口座を通して被害が発生している以上、法的責任は千駄木さん自身にあり、資金洗浄の罪が成立した場合には財産が凍結されると同時に、逮捕・起訴される可能性があることをご理解いただけますか?」
急展開に思わず笑ってしまうのを堪えながら、「知りませんよ」と伝えた。
「千駄木さんは、これから伊藤真也の共犯者として逮捕されます」
限界だった。笑いながら「そんなぁ」と返事してしまった。
「捜査手順をお伝えします。千駄木さんには、着替えと身分証をお持ちのうえ、大阪府警までお越しいただく必要があります。出頭時には20日間の勾留を請求します。本日対応は可能でしょうか?」
お金もないし遠すぎるので難しいと伝えると、ミヤモトの語気が強まる。
「もし出頭しない、あるいはこの電話を切った場合、捜査に協力しなかったとして逮捕されます」
あまりにも身に覚えがないため、そもそも自分が何の罪で逮捕されるのかを問うと、ミヤモトがブチ切れた。
「どうして、さっきから逮捕されると言ってるのに半笑いなんですか! もういいです! あなた、逮捕されてください!」
そのまま、電話を切られた。一応、共犯者の容疑がかかっているそうなので、110番に電話をかけ、「私は逮捕されるのでしょうか?」と問い合わせてみた。
「あー、それ、テレビでやっている例の詐欺ですね。もうその番号には出ないでくださいねー」
ずいぶんあっさりとした、“たまごっち”のような対応だった。
兵庫県警の名前が勝手に使われているということもあったので、「そちらの捜査二課のミヤモトという方から『逮捕される』と言われたのですが」と電話で伝えたところ、「お金は振り込んでいませんか? 個人情報が流出していて心配ですよね」と、丁寧に対応してもらえた。
一体個人情報はどこから漏れたのか?
このように、警察官を名乗った電話による特殊詐欺事件が増えている。インターネットで「警察 伊藤真也」と検索すると、同じような内容の電話がかかってきたという例が、全国の地元メディアのニュースサイトで紹介されている。
筆者の場合は途中で電話を切られてしまったが、そのまま続いていれば、個人情報を聞き出したうえでお金を振り込ませようとした可能性が高い。
急に逮捕されるという設定はさすがに無理がある。しかし問題は、詐欺グループがかなりの個人情報を把握している点だ。筆者の場合、伝えられた現住所はまったく違っていたが、ほかの被害事例では実際の住所を告げられることもあるという。
多くの人は詐欺に引っかからない自信はあるはずだが、それでも個人情報が漏れているのは気味が悪い。いったい、どこから漏れているのだろうか? 山岸純法律事務所の山岸弁護士に話を聞いた。
――どうして私の個人情報は漏れてしまったのでしょうか。
山岸純(以下、山岸) 一度でもインターネット通販を利用したことがあれば、漏れていると思ってよいでしょう。
――えっ?
山岸 正確には「漏れている」というよりも、本人が同意しているので「共有されている」と言い換えるべきですね。
――どういうことですか?
山岸 例えば、ある通販サイトを利用するとします。買い物をするためには会員登録が必要で、その際に電話番号やメールアドレス、住所などの個人情報を入力しますよね。そのとき「同意書」が表示されますが、きちんと読まれますか?
――いえ、スクロールして「同意する」をクリックして、すぐ買い物を続けます。
山岸 その時点で、個人情報は共有されることになります。
――同意してはいけなかったのでしょうか?
山岸 個人情報は個人情報保護法によって、原則として第三者に提供できません。しかし本人の同意があれば別です。その同意の内容が約款に記載されているのです。
――そんな。でも、それは許されないのでは?
山岸 単に「第三者に開示します」と書いてあれば反発を招きます。そこで、「グループ会社間で共有します」や「提携サービス提供のために第三者と共有します」といった書き方をするのです。
――まぁ、グループ会社間ならまだ納得できますが……。
山岸 ただし、そのグループ内の一社がさらに外部企業と情報を共有すれば、利用範囲はどんどん広がります。結果的に個人情報の共有範囲は、まるでマルウェアのように拡大していくのです。
――確かに「SHEIN」のプライバシーポリシーにも「個人情報の共有」として、「第三者セラーに対応してもらうため、ユーザーID・氏名・メールアドレス・その他の連絡先情報を共有することがあります」と書かれていますね……。いやいや、そこまで許可した覚えはありませんよ。
山岸 ですが、そのサイトに会員登録した時点で規約に同意していることになります。つまり、第三者提供を了承しているため、そこから情報が広がっていく。その過程で、いわゆる悪質な業者が入り込むこともあるのです。
――やはり、中華系サイトに登録すべきではなかったのか……。
山岸 ただ、SHEINに限らず、Amazonや楽天といった大手ECサイトの間でも顧客情報を共有することがあります。
――いや、もうメチャクチャじゃないですか! そうなったら顧客リストが詐欺集団に流れるのも時間の問題ですよね。
山岸 例えばヨーロッパには「GDPR(EU一般データ保護規則)」という、個人データ保護を厳しく定めた包括的な法律があります。EU域内では個人情報が厳格に守られていますが、日本の制度はそこまで厳しくありません。つまり、通販サイトを利用する際には「利便性」と「個人情報」を天秤にかけて考える必要があるのです。
――そういうことだと、誰にでも詐欺電話がかかってくる可能性がりますね……。みなさんも、くれぐれも振り込め詐欺には十分ご注意ください。
(取材・文=千駄木雄大)