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「純情商店街」も消滅の危機に? 高円寺再開発にライブハウス・無力無善寺の店主が断固拒否

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無力無善寺の店主・無善菩薩氏。(写真:山崎尚哉)

■この記事のポイント
・高円寺高架下再開発で補償未定の立ち退きが続出
・無力無善寺は引越代のみ提示などJR対応を厳しく批判
・弱い店舗が切られる再開発の歪みと過去事例を告発

 東京都杉並区にある高円寺駅の高架下は、JRによる再開発が進んでいる。2023年3月には駅側に近い「高円寺ストリート」が再開発され、「高円寺マシタ」としてリニューアルされた。

 2026年春からは「高円寺西商店会」が、阿佐ヶ谷寄りから高円寺駅に向かって少しずつ工事を進めていくことが決まっている。理由は建物や設備の老朽化とのことだが、突然の立ち退き命令に困り果てている店舗が多い。

 2026年の3月末までに退去を命じられている店舗も複数あるが、まだ立ち退き料も定まっておらず、混乱している店主たちの声が聞こえる。1月末で閉店を決めた店や、移転を決めた店もあるなか、「納得するまで立ち退かない」と、覚悟を決めてJRと戦う意思を見せている店舗もある。

 そのひとつが、無力無善寺だ。同店は2000年にオープンしたライブハウスで、高円寺のアンダーグラウンドカルチャーを支えてきたお店だ。

 今、高円寺の人々を困らせている再開発問題について、店主の無善菩薩に話を聞いた。

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立退料は引越し代のみ!? 一貫性のないJRの対応

――立ち退きについては、いつ頃からJRから告知されていたのでしょうか?

無善菩薩(以下、無善) 「高架下を再開発するので出て行ってほしい」という話は1年ほど前からありました。当初は仕方がないと思っていたんです。ところが、何の話し合いもないまま、昨年の夏ごろに突然「来年の3月で退去してください」と言われました。

――その代わりに、JRから新しい物件を紹介されたのですね。

無善 ただ、見に行ってみたら完全なスケルトン物件(建物の骨組みだけが残った状態)で……。ガスも電気も通っておらず、「あとは全部、好きにやってくれ」ということでした。

――それで、いくら支払われる予定だったのでしょうか?

無善 引っ越し代しか出さないと言われました。内訳を聞くと、大した額ではありません。内装を一から整えるとなると、そんな金額では何もできないですよ。

――安く見積もっても、最低1000万円はかかりますよね。

無善 引っ越し代も含めれば、もっとかかります。それなりに広い坪数でしたし、最終的にいくら必要になるのかもわからなかった。家賃も高くなるでしょうから、「これは無理だ」と思って、すぐ断りました。

――でも、立ち退きの期限は迫っています。

無善 すると今度は、「もっと初期費用が安い物件がありますよ」と言われて、阿佐ヶ谷駅方面の物件を紹介されたんです。でも、そこは壊れかかったビルで、地震が来たら危ないレベルでした。それどころか、「1階が全部崩れています」と……。もう、「そんな物件を紹介してくるな!」と思いましたね。

――かなり厳しい対応ですね。

無善 ほかの店には新しい移転先を用意しているんですよ。ただ、僕に対しては、どうにもならないような物件ばかり紹介してきて、「とにかく出て行ってほしい」という感じが伝わってきました。

――冷遇されているということですね。

無善 ただ、僕も高円寺で26年やってきたわけです。今のお店の場所で営業を続けられれば、今後の人生もある程度は見通せた。それをすべて壊さなければならないのなら、それに見合う補償をしてもらわないと困ります。

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高円寺にあるライブハウス・無力無善寺。(写真:山崎尚哉)

――立ち退き料の相場というのはあるのでしょうか?

無善 実は明確な相場はなく、双方の合意で決まるんです。だから、僕は「それ相応の額払ってくれるなら出ていきます」と言いました。もちろんJRには「なぜ提示してきた金額なのか?」と聞かれたので、「観音様のお告げです」と答えておきました(笑)。

――はぁ……。

無善 それはともかく、僕が要求している額があれば、どこに移っても理想的な店を作れますよね。すると相手も折れたのか、「それならこのくらいの値段を出す」と言ってきたんです。最初に提示された額の何倍です。当初の「引っ越し代しか出さない」とはなんだったのか……。結局、出せる余地はあったわけです。

――この世界は、ある意味“言ったもの勝ち”なのですね。

無善 それで、提示してもらった金額をもらえるなら、以前に紹介されたスケルトン物件でやり直せるかもしれないと思ったのですが、「あの物件はもう他の人に貸しました」と言われました。

――そうだったんですね。

無善 その代わりに、「阿佐ヶ谷の老朽化した物件で一から店を作ってあげますよ」ということで、1階が崩れているビルを紹介されたんです。もう毎回、言うことが違う。そのようなJRの対応にも苛立ちました。

――ほかのお店は、特に揉めていないのでしょうか?

無善 ほかの店には「一度退去しても戻ってこられる」と言っていたらしいです。しかし、どうせ家賃は上がるし、以前と同じ条件で戻れるはずがない。結局、資金力のあるチェーン店に貸し出すのでしょう。

阿佐ヶ谷にはJRに“騙された”店舗も

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階段に貼られた店長手作りのビラの数々。(写真:山崎尚哉)

――JRの対応がここまで厳しかったとは……。新しい物件を探すのも、なかなか大変そうですね。

無善 提示された金額では話にならないと伝えたところ、裁判になる流れになりました。僕はいまのところは4月になっても営業を続けるつもりなので、この周辺で最後まで残る店は、ここだけになるかもしれません。

――でも、工事は始まるんですよね?

無善 工事の納期もすでに決まっていると思うので、反対側から工事を進めていくようです。ただ、僕も絶対に立ち退かないと言っているわけではないんです。再開発をしたいのであれば、それに見合った金額を出してほしいというだけです。

――JRが提示してきた金額は、相場的に見て安いのでしょうか?

無善 安いですよ。JR社員の退職金だって、もっと多いはずです。僕は「このくらいの金額をもらえたら出ていく」と言っているだけです。JRにとってははした金でしょう。こちらも「1億円くれ」といった無茶な要求をしているわけではありません。

――でも、さっき“観音様のお告げ”って……。

無善 いや、ほかの店舗では立ち退き料として、かなりの額が支払われたところもあると聞いていますし、うちが提示された額よりも高い金額で合意した店もあるようです。だから、うちは舐められているんですよ。結局は交渉次第で、「この人なら安く済む」と思われた相手にだけ、低い金額を提示するやり方なんです。だから最初は、「撤去のための引っ越し代だけ出します」としか言ってこないんです。

――なるほど。一貫性のない発言は、本当に困りますね。

無善 以前、阿佐ヶ谷の高架下を再開発した際にも、JRに“騙された”店舗がありました。「家賃が安くなるからこちらにサインしてください」と言って契約書を持ってきたそうです。確かに家賃は安くなったそうですが、普通借家契約から定期借家契約への変更だったそうです。その後すぐに「再開発が決まった」と言われ、立ち退かされていました。

――本当ですか?

無善 そういう非道なことをするんですよ。定期借家は、期限が来たら強制的に退去させられる。非常に厳しい契約です。

――これから大企業を相手に裁判を起こすとなると、相当な体力が必要ですね。

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店主以外の声明も張り出されている。(写真:山崎尚哉)

無善 弁護士と相談しながら、徹底的に戦います。ただ、正式な裁判になれば、個人の力では到底かないませんし、負けてしまう可能性も高い。

――それでも、ここで戦わなければならないということですね。

無善 以前、阿佐ヶ谷の再開発で強制執行されそうになりながら、最後まで抵抗した店主が心労で亡くなったことがありました。その後、急に手のひらを返したように、賠償金のような形で支払いが行われたと聞いています。でも、人がひとり亡くなっている……。あり得ない話です。

――強引な再開発が、人々の生活を脅かしている一例と言えそうです。

無善 繰り返しになりますが、僕もこちらも絶対に立ち退かないと言っているわけではありません。きちんとした補償があれば、立ち退く意思はあります。

――意地でもどかないと言っているわけではないのですね。

無善 20年以上ここで営業を続けてきたわけですから、それくらいは必要です。しかも、ここは普通借家契約で、「借地借家法」にも守られている。法的には、JRよりこちらのほうが立場は強い。だから、泣き寝入りという形にならないようにしたいです。

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キャプ:無力無善寺で行われているライブの模様。(写真:山崎尚哉)

冷蔵庫マンの数奇な人生

(取材・文=山崎尚哉)

山崎尚哉

1992年3月生まれ、神奈川県鎌倉市出身。レビュー、取材、インタビュー記事などを執筆するほか、南阿佐ヶ谷でTALKING BOXという配信スタジオを運営中。テクノユニット・人生逆噴射の作曲担当で別名DJ.YMZK。

X:@yamazaki_naoya

山崎尚哉
最終更新:2026/01/28 12:00