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山口組分裂問題の現在地―衰退する対立組織と消えぬ緊張感

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本部事務所が入るビルを売却した絆會の織田絆誠会長(写真:サイゾー)

 年が明け、この夏には山口組が分裂するという前代未聞の出来事から、まる10年の月日を迎えることになる。分裂当初と違い六代目山口組を割って出た組織は例外なく衰退の一途をたどっているのだが、神戸山口組をはじめ絆會、池田組、二代目宅見組とそれぞれの組織は、六代目山口組と対峙しつつも解散までには至っていない。

山口組の事始め式から見えるの実情

 これらの組織が解散しない限り、本当の意味での分裂問題の終息とはならないだろう。その証拠に当局は、六代目山口組のほか、神戸山口組や絆會、池田組が特定抗争指定暴力団の指定を今なお継続させている。いつ衝突が起こってもおかしくないと見ているのだ。

「ただし、六代目山口組が現在、抗争状態にあるかと言えば、そんな緊迫したような状況にはないでしょう。離脱した各組織が六代目山口組と抗争できるほどの組織力があるとは思えませんし、六代目山口組は平常時と変わらないように公式的な儀式を執り行っています。対する神戸山口組はそうした行事も現在では行っていません」(ヤクザ事情に詳しいジャーナリスト)

 それでも神戸山口組は解散することなく、先日、令和七年度の組指針を発表した。それは「風雪磨人(ふうせつまじん)」。聞き慣れない言葉かもしれないが、その意味は「風雪にさらされるような過酷な環境によって、人は磨かれ、強くなる」というもの。神戸山口組の現在を取り巻く状況を踏まえた言葉といえるだろう。

 一方、六代目山口組は9年連続で「和親合一」を今年度の組指針にしており、絆會は3年連続で「常在戦場」であることを発表している。

「神戸山口組も絆會も令和7年の組指針を発表するということは、まだ解散する気はないということなのだろうが、取り巻く環境は日が経つごとに厳しくなってきているといえるだろう。二代目宅見組においては、存続はしているものの当局から指定暴力団に指定すら受けていない。つまり、構成員数や社会的影響力などにおいて指定要件を満たさないほどの組織を見られている。当然、六代目山口組と事を構える力などなく、このまましばらくはこの状態が続く可能性もあるのではないか」(業界関係者)

 また、絆會では本拠地として官報に公示されている大阪市中央区にある本部事務所ビルが売却された。同ビルは、特定抗争指定を受けたことで立ち入りを禁じる措置が講じられており、それに伴い民間へと売却されたと見られる。ヤクザ組織にとって本部事務所はヤクザ組織の象徴であったが、社会情勢の変化とともにその位置づけも変わりつつあるようだ。

「二代目宅見組本部も売却され、現時点において神戸市灘区にある六代目山口組総本部も使用を禁じられています。そんな中でも、六代目山口組サイドはその組織力を活かして傘下の本部事務所を活動拠点として使用していますが、対する離脱した他組織は活動拠点がわからない状態になっています。特定抗争指定により活動を制限したことで、逆に組織活動が把握しにくくなった側面が出てきているのではないでしょうか」(ヤクザ事情に詳しいジャーナリスト)
 
 10年目に突入した分裂問題にどのように幕を下ろすのか。六代目山口組サイドの対応に、分裂問題の行方がかかっているといえる。

 そんなことを考えている矢先だった。このまま沈黙が続くのかという観測を嘲笑うかのように事件が起きたのだ。1月19日午後6時40分ごろ、神戸市北区鈴蘭台東町にある、神戸山口組組長の井上邦雄組長の自宅付近で火の手が上がったのだ。焼かれたのは、軽自動車など車2台と自宅フェンス。その後、現場周辺で拳銃のようなものを所持していたとして75歳の浜松市中央区萩丘の男が逮捕された。これは六代目山口組サイドによる武力行使なのだろうか。当局の捜査を待つ段階だが、業界関係者はこのように話す。

「どれだけ取り締まりを強化しても、井上組長が引退し神戸山口組を解散させない限り、六代目サイドによる、今回のような実力行使は続くと見られる。一方で、井上組長が引退すれば、分裂問題も解消するということだ」

 すでに神戸山口組からは数多くの幹部らが引退した。それでも、抗争の火の粉を抱えたまま、神戸山口組を存続させる意味はどこにあるのか。10年目に突入し、そうした声はより一層、大きくなってきているようだ。

(文=山口組問題特別取材班)

終わりなき時間を生きる受刑者たち

山口組問題特別取材班

ヤクザ業界をフィールドとする作家、ライターおよび編集者による取材チーム。2015年結成。同年に勃発した六代目山口組分裂騒動以降、同問題を長期的に取材してきた。テレビや新聞などでは扱いにくいヤクザ組織の内部情報にも精通。共著に 『相剋 山口組分裂・激動の365日』がある。

山口組問題特別取材班
最終更新:2025/01/23 16:00