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白鴎大学経営学部・小笠原教授「勘違いの地方創生リターンズ」第1回

石破首相「地方創生2.0」は最後のカード !「事業は成功、しかし地域は衰退」の現実

石破首相「地方創生2.0」は最後のカード !「事業は成功、しかし地域は衰退」の現実の画像1
「楽しい日本」というキャッチフレーズをぶち上げた石破茂首相(写真:GettyImagesより)

 日本経済の停滞や人口減少、さらに天災による地域社会への打撃を受けて、「地方創生」というキーワードはすっかり一般に定着した。企業と行政が連携し様々な施策を進めているが、大きな成功例は少ない。「まちおこし」の域を超え、地域経済を根本から立て直すにはどうすればよいのか?

 この連載では、栃木県小山市にある白鴎大学経営学部で、都市戦略論やソーシャルデザイン、地域振興を中心とした研究を行う小笠原伸氏と、各地方が抱える問題の根幹には何があるのかともに考えていく。

世界一のビジネス街に「札びら」舞う

ほとんどの自治体が人口流出に歯止めをかけられていない!

ーー「勘違いの地方創生リターンズ」というか、「シン(伸)勘違いの地方創生」というか、改めまして連載が再開となりました。

小笠原 いや、大変めでたい。これは素晴らしい。タイミング的にはすごくいい時期に復活したんじゃないかなと思っていまして。石破茂首相が「地方創生2.0」を提言したタイミングですからね。

ーーそうなんですよ。スタートから約10年、それが「勘違い」だらけだと指摘してきた我々としても、「好事例が出たものの、普遍化してない」という内容で、我が意を得たりな宣言でしたね。

 念のため説明すると、「地方創生2.0」とは、従来のハコモノ投資や移住促進から脱却し、地域の持続可能な発展を目指す新たな取り組みです。 石破茂首相が掲げたこのビジョンは、これまでの「地方創生」の成果と課題を踏まえたものだが、果たして現実的に機能するのか――というところがポイントです。
(出典:厚生労働省「地方創生2.0の「基本的な考え方」について」より/ https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/001373665.pdf

小笠原 この10年間、さまざまな施策がなされてきましたが、現状でまたさらに予算をつぎ込んで地方創生関連事業を進めていくことに関しては、多くの人が不安げに見ていると思うんです。特に人口流出が続く地域にとっては、国の枠組みを最後の砦として取り組んでいかないと、地方社会はもたないのではないかというのがあります。

ーー先生、今回は連載を“希望的な方向で”って話したじゃないですか! 我々も、「地方創生2.0」でいよいよ、なにかできるんじゃないかと思っているんですから。ちなみに、今の段階での評価はどのようなものでしょうか。

小笠原  言ってしまうと、ここでしくじったらおしまいというか……うん、もう最後のカードです。率直に言うと、就任早々これを背負わざるを得なかった石破さんはちょっとかわいそうだなと感じています。

ーー東京や都市部に住んでいると、まだ地方の切迫感ってあんまりわからないんですよね。なんとかなるんじゃないか、って思ってしまう。

小笠原 私は北関東に住んでいますが、お店が閉店して空き店舗になると、もう次のお店が入らない。そんな現実を日々感じます。「地方創生を10年続けて、元気になった地方はどれほどあるのか?」と問えば、大半の国民はその成果を感じていないでしょう。もちろん一部では素晴らしい有能な担い手が出現して、地域の課題を整理して、人を呼び込んで経済的にも成功してという自治体もありますが、その一方で大多数は努力の甲斐なく落ち込んでしまっています。

ーーでも、観光で地方に行ったらどこもそれなり混んでいて、もしかしたら結構うまくいってるのかな、なんて思ったり。メディアでも成功事例がニュースになったり、書籍化もされたりしてますし。

小笠原 「地方創生」が始まってみんな「国や自治体から予算が降ってくる!!」ということで、その多くがウェブサイトを立てて動画を作ってみたり、ハコモノを作ってへんてこなイベントをしてみたり、移住者を募って田舎暮らしをSNSでアピールしてみたりして、一部では面白おかしげな感じでブームになったけれども、「地方創生」という政策には実際には”厳格なルール”があります。予算の使い方はしっかりと決められ、数値評価も必要となります。

 私としても「地方創生の事業は成果主義で、こういう結果が出てくることを求められています」と口を酸っぱくして訴えても、”問題”を直視せずに通り過ぎてきた地域が多かったんじゃないかという気がします。各地に地道に取り組む人々や自治体もおいでだったと理解していますが、一方では何をしていいかわからずに時間がすぎることも必定だったかも知れません。そして結局、地元生まれの若者は地域から流出していくーーその繰り返しで、頭痛が痛い状態ですよね。本当にこれは。

お役所は厳しいデータから目を逸らしている!?

ーー以前も「地元から追い出されている」という地方の若者の感覚をテーマにした回がありました。これは、連載を通して共通認識となっていましたね。(https://www.cyzo.com/2020/03/post_235062_entry.html))

小笠原  2025年現在、団塊ジュニア世代や氷河期世代が年齢を重ねてきている中で、婚活の場を作ったり、出産や子育て関連政策を充実させて出生率を高めてみたいな話をしたところで、そもそもすでに分母となる数が減っているわけですから、そう容易に出生数が増えるはずがないんですよ。掛け算なので。

 それだけでも、この10年間で大きなチャンスを逃した日本が「これからどうするんだろう?」という状態の中で、「地方創生2.0」の号令の元、右向け右状態でどうにかしようとしてるのだとしたら、滑稽にすらみえてきます。

ーー確かに、人口減社会の中で◯◯市だけがなぜ増えたのか、みたいな記事が「地方創生」の成功例としてとりあげられガチです。

小笠原 まだみんな「人口を増やしたい」って騒いでいますよね、あちこちで。石破さんが「楽しい国 日本」と言って、マスコミから叩かれていましたけど、ウェルビーイングでなんとかしようという形で動いてるのは、担当のお役人の置かれた厳しさといいますか、リアリティを感じるなって気がします。

 もう、目覚ましく人口が増えていくとか、地方が繁栄するってことは、ないはずなんですよ。だから諦めてもそこに絶望しないでね、とは言いたいんです。人口が減って既存のコミュニティが統合されていくような近未来はあって、その中でもいかに自分が楽しく過ごしていけるかが、若者には求められているんだろうという気がしますよね。
(参考:国土交通省観光庁「「楽しい国 日本」の実現に向けた 提言について」https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kanko_vision/kankotf_dai19/siryou6.pdf

ーー要は”人口が増えた!”っていう”実績”を見極めないといけない、と。人口が増えたというのは実は、同じ県の同じ地域で、隣の市から隣の市に移っただけで、それは果たして成功例といえるのか、という。それこそちょっとした田舎が嫌で、少し都会に移っただけとか、そんなことだったりするってことですね。

小笠原  はい。対東京、対首都圏という視点もありますが当然、地域の中での小さな移動はあって、それを明らかにできるのが「RESAS 地域経済分析システム(リンク:https://resas.go.jp)」です。これまでであれば、地域の人口構成やその流動という市民からするとお役所のブラックボックスに入っていたデータを、一市民でも見られるようになりました。そうなると、「なんであの自治体に人口が流出してるんだろう」ということについて、問題点を検討して対策が打てるようになったんです。

ーーそういうのが得意な人には、大興奮なツールですね!

小笠原 ただ残念ながら、私はいまだに、RESASの存在と活用を地域で指摘し続けているのが現実です、RESASは導入されてもう随分経つんですけれどね。多くの人たちは、みんな厳しいデータから目を逸らしてるんだと思います。「地方創生」で環境は整ったのに、それを使いこなす文化が十分に浸透しきれてないとするならば、やっぱり残念ですね。

 一方で、一般の市民の方でデータ分析に覚えがある人たちは、役所に依存せずとも「地方創生」への戦略が立てられるわけです。社会課題についてデータ分析で解決に動いていたならば、今の状況はある程度把握できるかもしれない。その点では「地方創生」がやったひとつの成果として、データ重視主義とRESASの導入には意味があったと思います。

ーー 行政のデータ化やそのオープン化が「地方創生1.0」の大きな成果ですね。

小笠原  RESASのワークショップなんかも政府は継続して結構やっています。さらに、例えば横浜市では、例えば横浜市では、市民やNPOがオープンデータ活用の勉強会を開催していたこともあります。私のゼミナールでは、行政が公開しているデータを学生に預けて、RESASとともに自分たちで分析をして、自治体としての戦略を検討したりする取り組みを行っています。

 いずれにせよ「地方創生」の一丁目一番地としては、政府側が訴えてきたように、これまでの勘や経験に頼るのではなくて、データに基づいた政策立案をしましょうね、というのが共通認識になってきています。

ーーそれはなんかちょっと、希望的な話もありそうですね。

小笠原  市役所とか県庁の中にあったデータを市民が見られるようになることへの緊張感はすごいことだと思うんですよ。今までは「こんなデータ、誰も知らないや」と見過ごされても何の問題もなかったものが、突然ポンと社会に公開されていて、誰が見ているかもわからない。市議さんや県議さんらが、議会でデータを引用して質問したら、それに役所の皆さんは答えられなきゃいけないわけです。そういうデータ活用が広がってきたのが、この10年の成果ならば、それが「2.0」にバージョンアップして何が始まるんだろうという、期待と不安が入り混じった状況です。

ーーそんなこんなでの連載再開。しかし、希望よりも問題が山積しています。例えば、以前の連載では能登町を取材しましたが、その後能登半島を大きな災害が襲いました。

小笠原 能登町については私も、かなり心配しています。最近もいくつかニュースで報じられましたけれど能登の地震からの避難を経て「もう地元には戻らない」という方が出てきているんですよね。調査によると4割余りの人がそう思っているとの回答があったそうです(出典引用:「石川県外の公営住宅避難者 今後の居住地 4割余が「戻らない」」 NHK NEWS 2025年2月2日 11時09分配信 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250202/k10014710151000.html)。そうすると、被災して避難した人たちが復興後に地元に戻って来ることを期待していた方々が、外に出ていったまま戻らない現実を、どう受け止めるといいのか。

 もちろん「地元に戻りたい」という方々の気持ちはちゃんと汲まなきゃいけません。ですが、東日本大震災でも起こったように、元々人口が減っていて地域が衰退している中での大災害は、地域社会にとどめを刺しかねないという重い現実も、我々は理解しておかねばなりません。

ーー 冒頭で「地方創生2.0」は最後のカードだというお話がありましたが、こうした天災が地域を直撃したときに、以前なら「復興で稼ぐ! 地元をさらに勢いづける」みたいな人たちがいましたが、今は「もう戻れない」という思いが強くなっているんですね。

小笠原  生産年齢人口がこれだけ落ち込んで、地方ではお金を稼ぐことも難しくなる。一方、社会のインフラはどんどん老朽化していく中で、災害からの復興さえ様々な理由でなかなか進まない。私の研究テーマにも近いので、できるだけ未来に希望を持ちたいんですけれど、崖っぷちまで追い詰められてしまっていると感じるわけです。

ーー東北とか山陰地方のような、数少ない若者がさらに都市部に出ていってしまう地域で、これをやったら若者が地元に残るよ、かえってくるよというキラーコンテンツって、もはや見当たらないですよね。

小笠原 「地方創生」の事業については、その評価の問題もあるでしょう。成功と評価される事例を並べていくことはできると思うんです。歯を食いしばって頑張る人が各地にいて、地道に課題に取り組んでいるわけで、並べたい気持ちは痛いほどわかる。でもここまでを振り返ると予算を投入し、人材を活用しても結果的に「事業は成功した、しかし地域は衰退した」ということになりかねないわけですよ。

 頑張った、成果を出した、でも地域は衰退した、という恐ろしい現実に直面して、そろそろ皆さん、疲れてしまってこの領域から去ってしまうのでは、という不安すら感じてしまいます。

  なので「我々はどう生きるのか」そうした哲学が今、この分野でもっと議論されるべき時期に来ているんだと思います。

ーーおお、宮崎駿みたいな〆!

(文=大沢野八千代)

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小笠原伸

1971年生まれ。白鴎大学経営学部教授、白鴎大学ビジネス開発研究所所長。都市戦略研究、地域産業振興、ソーシャルデザインなどを専門とし、国土形成計画や地域活性化・地方創生の現場に携わる。

小笠原伸
最終更新:2025/03/03 10:20