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沖田臥竜の直言一撃!

『インフォーマ−闇を生きる獣たち−』ATP賞受賞までの軌跡―“今しかない情熱”が生んだ到達点

『インフォーマ−闇を生きる獣たち−』ATP賞受賞までの軌跡―“今しかない情熱”が生んだ到達点の画像1
『インフォーマ−闇を生きる獣たち−』を支えた熱き人々(同作品の打ち上げより/写真提供:筆者)

ドラマ『インフォーマ-闇を生きる獣たち-』が、一般社団法人全日本テレビ番組製作社連盟(ATP)主催の『第41回ATP賞テレビグランプリ』において、「ドラマ部門」奨励賞を受賞した。沖田臥竜氏による小説『インフォーマ2 -ヒット・アンド・アウェイ-』を原作にした本作は、裏社会を生き抜く情報屋を描いた異色の物語。構想当初、藤井道人監督と2人きりで描き始めた物語が、多くの仲間の手を経て形となり、今こうして評価を受けるに至った。その歩みと創作への覚悟、そして支えてくれた人々への感謝を、沖田氏が綴る。

受賞の裏にあった濃密な世界

過ぎゆく時間と、若者たちのまなざし

 年々、歳月の歩みが早くなる。そんな言葉を先人たちから聞き飽きるほどに賜ってきたが、しみじみ思う。あれは本当だった。

 大阪の大正区という街には、「最強」と呼ばれる双子の兄弟、そらとダイがいる。今年24歳になるのだが、私は彼らが中学生の頃から可愛がってきた。初めて会ったときから、私の前では携帯も触らず、姿勢も崩さない。タバコも吸わなければ、酒も呑まない。するのは、ケンカだけ。特別、私が可愛がってきたのはそれだけが理由じゃない。2人揃ってケンカですくすくと名前を売っていったのだが、仕事だけは真面目であったのだ。

 暮れに正月、仕事の出張から帰ってくると、必ず私のところに挨拶に来て、食事を共にする。いつしか結婚したり、免許をとったそらとダイが運転する車に乗ったりすると、「ついこの間まで中学生だった2人が、もうそんなにも大きくなったのか」と不思議な気分にさせられ、「どおりでこちらも年を取るわけだ」と感じさせられてしまうのだ。

 つい先日のことである。ダイ夫婦とドラマ『インフォーマ』の撮影に使った私の地元、尼崎市にある焼肉「光(みつ)」で、肉を食べながら、私はダイに質問を投げかけた。

 「ダイ〜、明日起きたら突然、49歳になってたとして、それもたった1人で見知らぬ街やねん。のし上がっていく自信はあるか?」

 はっきり言って、私には1ミリもない。だが、彼は自信ありげにこう応えた。

「あります。1人でも人脈から作って、のし上がっていけます」

 ほう〜と思った。そらもダイも決して今どきの若者のような大きいことや口だけのことを言わない。本気でやれると思っていることしか口にしない。それが50を目前に迎えた私には、羨ましかった。

 若さとは、漲るエネルギーだ。だが、私にはもうそれがないなと感じてしまう。なんとも嘆かわしいことだ。

 同じ質問をRIZINファイターでもある格闘家、皇治選手にも投げかけたが、彼も「年をとってからの方が自信がありますよ」という言葉を口にしたのだ。

 つい4、5年前までは、若さが羨ましいと感じたことがなかった。

 だが気づけば「げっ!49じゃん! 撮影現場でも岡本さんくらいしかもう年上はいないよ!」と驚いてる自分がいる。

 岡本さんとは、『インフォーマ』の録音を担当してくれている岡本立洋さんのことで、『インフォーマ』をこよなく愛してくれている私の大切な仲間だ。そして、もうその次くらいに、私が年長者になってしまったのである。もう一度言うが、なんとも嘆かわしいことだ。

 だが、過去に戻りたいかと言えば、それは微塵もなかったりする。なぜか? それは、歳月の分だけ積み重ねてきた人間関係があるから。そして私は「今を生きている」「今しかない」と常に感じているからだ。

 気づけば49歳。歳を取るとは、傷ついていくことなのだと、ある種の悟りまで開いてしまったが、だからといって悲観的かと言えば、そうでもない。

 全てを受け入れ、過去の自分を超えながら歩み続ける。その先にどんな未来が待っているのか――この目で確かめてみたいと思っている。

 そんな日々の中、「ABEMA」のプロデューサー橋尾さんから朗報が届いた。49年の人生で、初めて賞をいただくことになったのだ。

2人から始まった物語が到着した高み

『インフォーマ−闇を生きる獣たち−』ATP賞受賞までの軌跡―“今しかない情熱”が生んだ到達点の画像2 すまんが、歴史あるATP賞史上の中で、過去の誰よりも私が一番喜んでいるのではないか。なんだったらプロフィールとか職業欄に「ATP賞受賞」と書けるほどの勢いだ。

 ずっと賞に背を向けるような生き方をしてきた。だから、仮に芥川賞を受賞しても辞退してやろうと本気で思っていた。。

 だが、他人から評価されるというのが、こんなにもありがたいことなのだと、心の底から実感した。

 奨励賞を取るまでに、どれだけ多くの人が汗をかいてくれたかを、私は知っている。みんなの汗が情熱となり、受賞という形で報われたのだ。

 私は1人1人の顔を思い出しながら、猛烈に感動してしまった。認められるということは、やはり気持ちの良いものである。

 だから私は物語を描き続けているのかもしれない。毎日、毎日、もう書けないと思いながらそれでも私は書いているのは、やっぱり認めてもらいたいのだ。共感も感動もその中にしかないと、私は無意識の内に理解しているのだ。

 5年前。まだ『ムショぼけ』の立ち上げ段階で、大切な友人である藤井道人映画監督から、屈託のない笑顔でこう言われた。

 「次は情報屋を題材にした物語を作りませんか!」

 その言葉を聞いた瞬間、私は一気に脳裏に物語を描いてしまった。どれだけ謙遜しても、私は私でやっぱり天才なのだ。一瞬で物語を思い描ける才能を、どうか許してほしい。

 その日の帰り道の新幹線、その脳裏に思い描いた物語に名前をつけた。それが『インフォーマ』である。

 最初は、この世にたった2人だけ。藤井監督と私だけが「インフォーマ」と呼び合っていた。そこに映画『ヤクザと家族』や、ドラマ『ムショぼけ』のスタッフが参加してくれ、何ものでもなかった「インフォーマ」が、みんなの熱量で形になっていった。

 その時には、すでに去年の暮れに巻き起こす『インフォーマ−闇を生きる獣たち−』のムーブメントを、私ははっきりと想像できていた。

 嘘でもなんでもない。はっきり言ってヨソさまの作品の現場に監修の仕事でいくと「沖田さんて、今、藤井組と一緒に何か作品を仕掛けられていますよね!」と業界関係者から言われるほどだった。『インフォーマ』という作品は私自身もそうやって成長させてくれていたのだ。

 それが私たちプロの仕事だと思う。続々と俳優たちも参加してくれ、日本を飛び出した。ムーブメントを起こせる自信がなければ、やっていない。

 『インフォーマ』の強さは、「今しかない17歳の夏」だと思っている。そこに戸惑いもときめきも浪漫も汗も詰まっているのだ。オールアップしたときに、みんなが「寂しいな」と感じる作品を作らないと、私は無数にある作品の中で意味がないと思っている。

 振り返ったとき、夏の眩しさのような思い出として残らなければ、意味がないと思っている。

 木村某が「現場は厳しくなければならない!」と言っていたが、すまん。厳しくなければならないのは、ヤクザ渡世だけで十分である。

 物作りは、素晴らしくなければならない。その素晴らしさこそが唯一無二となるのだ。

 私は『インフォーマ』に携わってくれた全ての人々を、誇りに思っている。

 「沖田さん!他の作品の途中で『インフォーマ』が入ったから、現場を他の若いのに任せてこっちにやってきましたよ!」

 そう、また岡本さんに言ってもらえるように、私がやれることはすべてやっていきたいと思っている。

 夏が来た。今年の夏は、来年の夏をより熱くするための夏になりそうだ。

(文=沖田臥竜/作家・小説家・クリエイター)

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■原作小説『インフォーマ2  ヒット・アンド・アウェイ』 

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沖田臥竜

作家・小説家・クリエイター・ドラマ『インフォーマ』シリーズの原作・監修者。2014年、アウトローだった自らの経験をもとに物書きとして活動を始め、小説やノンフィクションなど多数の作品を発表。小説『ムショぼけ』(小学館)や小説『インフォーマ』シリーズ(サイゾー文芸部)がドラマ化もされ話題に。調査やコンサルティングを行う企業の経営者の顔を持つ。

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最終更新:2025/06/07 12:00