日本のアニソンがK-POPを超えて世界人気を獲得するのに必要な”強気の戦略”

Buono!の「初恋サイダー」や『劇場版マクロスF』での「ユニバーサル・バニー」をはじめ、水樹奈々「沈黙の果実」、ももいろクローバーZ「GOUNN」などで作詞や作曲(または両方)を手がけたアーティストのしほり。あの頃の名曲の数々を覚えている人も多いだろう。そんな彼女は今、拠点をアメリカ・ロサンゼルスに移し、世界中のアニメコンベンションでライブを行うアーティストとして活動している。
“日本発ポップカルチャーの裏方”を担ってきた彼女が目撃する、アニソンの異常なまでのグローバル熱。アメリカで、ポーランドで、チリで、日本語の楽曲が大合唱される現場で感じた、日本文化の可能性と、日本の音楽業界がいま見失っているものとは?
後編では、しほりさんが体感する“アニソン世界化”のリアルを聞く。
【インタビュー前編】はこちら
――前編では、しほりさんの日本でのご活躍からアメリカへ拠点を移すまでの経緯を伺いました。後編では、しほりさんから見た海外でのジャパニメーションやアニソン人気について、お話をうかがいます。しほりさんは数多くの海外アニメコンベンションに出演されていますね。
しほり 先月はペルー、アメリカのミネアポリス、そしてポーランドと、3つのアニメコンベンションに出演していて、頻繁に呼んでいただいています。海外のアニメファンの方は、本当に熱量がすごいです。また、訪れる場所によってもお客さんのキャラクターが全然違ったりして面白いですね。渡米した当初は「アメリカのお客さんってめちゃくちゃ熱いな」という印象でしたが、最近だとアメリカではアニメコンベンションが増えすぎて、ファンの方も少し落ち着いてきている感じなのかもしれません。
逆に、最近訪れたコスタリカやメキシコ、チリ、ポーランドは盛り上がりがすごかったです。なかなか日本人が普段行かないような国に行った時の喜ばれ方が本当にすごくて、泣きそうなくらい喜んでもらえるんですよ。ほかにも、日本ではそれほど有名でなくても意外と世界で知られている曲がいくつかあって、そういう曲はみんな日本語の歌詞で歌ってくれます。日本語で歌ってくれて。その光景を見ると「本当に歌っててよかったな」って思いますね。
――ネットなどでアニメコンベンションで海外のファンが日本語で歌う、というのを見ますが、実際にその光景が繰り広げられている。中でも、「海外でこの曲がこんなに人気なんだ!?」と驚いた経験はありますか?
しほり アニメではないんですけどびっくりしたのは、東方Projectの同人音楽ですね。私は同人音楽サークル「SOUND HOLIC」や「A-One」で歌っていたのですが、東方Projectはポーランドでもチリでも、どこの国に行ってもすごく人気があって驚きます。
世界のポップスでも稀な「アニソンのドラマチックな演出力」
――なぜ日本のアニメやゲーム音楽がグローバルで愛されているのか、しほりさんはどのように考えていますか?
しほり まず日本のコンテンツのレベルが高いんだと思います。アニメの技術やストーリーテリング、キャラクターデザイン、あるいは”キャラクター萌え”みたいな文化って、他の国にはなくて、全世界で見てもすごく特殊で、夢中にさせてくれる。夢がある。日本という島国の中で長年積み上げられてきた独自の文化というのは、海外の人から見てすごく魅力的に見えるんだな、と感じます。
特にコロナ禍でNetflixなどが普及し、アニメ人気がオタク層から一般層へ一気に広がった影響は大きいですね。昔だったら、海外で放送されるアニメは英語版独自の主題歌や劇伴に作り変えられたりしていました。でも今はグローバルな配信プラットフォームが普及して、日本で作られた日本語のアニソンがそのまま世界中の人たちに届くようになりました。そうなった時に、日本のアニソンの独特さに、みんな惹かれているんじゃないかなと。
――しほりさんから見ても、アニソンというジャンルは独特の進化を遂げていると感じますか?
しほり めちゃくちゃ独特ですね。私の音楽のルーツはアニソンなので、自分の音楽にもその要素はあるんですけど、ポップスとはちょっと違います。アニソンはちょっと演歌っぽいというか、“コテコテ”なんですよ。
今の洋楽や日本のJ-POPの流行は、決まったコードをループしていたり、メロディーやコードの起伏があまりないシンプルなものが目立っているように感じます。でも、アニソンはとにかくドラマチックなんですよ。起承転結がはっきりあって、それは映像やストーリーありきで、いかに濃い世界観を演出するかが求められるカルチャーだからです。その結果、メロディーやコード展開も大胆になっていく。イントロを聞いただけで「あの時のアニメだ」ってわかるように作るというのは基本中の基本なんです。だから、アーティストありきのJ-POPとは目的意識からしてまるで違います。
メロディアスなメロディーや大胆な曲調展開、ブレイクなど、より楽曲をドラマチックに見せる演出が、他の国にはないアニソンのユニークなテクニックとして多くあるんです。やっぱり、アニメの世界観やメッセージを伝えることがアニメ主題歌の意義なので、そこに特化していますよね。
――海外で活動される中で、世界的なアニソンブームを日本のエンタメ業界がもっと活かせれば、とある種のもどかしさを感じることはありますか?
しほり めっちゃあります! 例えば、今はK-POPが世界的に人気だからと、K-POP風の音楽に寄せる日本のアーティストはすごく多いですよね。でも、私からしたら本当にもったいないと思うんです。世界の大多数の人々は今、アニソンとかJ-POPの個性に「何これ、面白い!」と注目しているので、日本の独自性を貫いたほうが売れるんですよ。日本の音楽マーケットはここ15年くらい縮小傾向にあって、限界を感じてK-POPを取り入れたりしてると思うんですが、むしろみんな海外恐怖症を乗り越えて、より日本の独自性や日本らしさで勝負してほしいなと。
ーー2010年代後半から世界ではVaporwaveが盛り上がり、80〜90年代のJ-POPが注目を集めました。日本のレコードを買い求める海外の人が急増するなど、アニソンだけでなく、日本独自の音楽は世界的に人気になっていますしね。
しほり レーベルの中には、YouTubeなどで海外から視聴できないように地域制限をかけているところもありますが、本当に問題だと感じています。海外ファンの流入を自ら阻止していて、ものすごく損をしているんじゃないかなって。今は”日本”がブランドになっていて、アメリカ・テキサス州の子供ですらアニメが好きで日本語を学びたがっているくらい、世界が日本に歩み寄ってきているんです。だから、日本側が変に海外風にローカライズしすぎる必要は全くなくて、堂々と「これが私たち日本です」と、もっと世界に開いてほしいですね。
海外ゲームメーカーも”日本のJ-ROCK”を求めている!
――しほりさんの、今後の活動のビジョンについてお聞かせください。
しほり 最近だと、世界のゲーム会社から主題歌の依頼をいただくことも増えてきましたね。22年に発売されたアメリカのゲーム『Omega Strikers』では、主題歌「Go Strike!」の作詞、作曲(共作)、歌唱までを担当しました。アメリカに住むJ-POPシンガーソングライターとして、作詞作曲もできるという部分を活かし、存在感を増していければと思っています。
以前は「もっとアメリカナイズしないと」と頑張っていましたが、今は決めつけず、私をきっかけに日本の文化に興味を持ってもらえたら嬉しいです。
――最近ではゲームプラットフォーム「Steam」が台頭する中で、日本の影響を受けた海外のゲームも数多く見受けられます。ゲーム分野からのオファーも多いですか?
しほり やっぱり日本のゲームやアニメのスタイルは、どの会社もバリバリ影響を受けています。面白い動きとして、ここ数年、海外のゲームメーカーから「日本語の、J-ROCKスタイルの主題歌を作りたい」といった依頼が急に増えたんです。
人気ゲーム『リーグ・オブ・レジェンド』で初めて作られた日本語楽曲「Battle Queens」(20年)も私が担当しました。そんな風に、今までは考えられなかったことが次々と起こっていて、日本人気はこれからさらに高まっていくはず。
少し悲しいのは、日本は経済的な理由や保守的な姿勢で大きなプロジェクトが生まれにくくなっている一方、海外では潤沢な予算で日本スタイルを取り入れたハイクオリティなものがどんどん出てきていることです。
「お金の力には勝てない」と感じることもありますが、まず何よりも日本のクリエイターが正当に評価される環境が必要だと思います。日本のアニメやゲームに携わる人の賃金を上げて、経済を上向きにしていかないといけないな、と。
――世界のクリエイターが日本の作品をリスペクトしている今だからこそ、日本もそれに本気で応えていくべきだと。
しほり 先日はコスタリカと日本の国交90周年記念イベントにも呼んでいただいて、文化の架け橋のような役割を担わせていただくことにもすごく意義を感じました。日本ではなかなか受け入れられなかった自分らしさが、今は世界のどこかで必要とされている。J-POPやアニメが国と国を繋ぎ、世界平和に役立っている、と強く実感しているんです。日本に生まれながら一度外に出た私だからこそ、日本の良さ、文化の素晴らしさを海外と繋ぐことができる。そんな世界平和の一端を担うようなアーティストになれたらいいなと思っています。
(構成=須賀原みち)
『呪術廻戦』『推しの子』主題歌で世界が注目
「なぜミュージシャンはイギリスを目指すのか?」
■しほり
愛知県出身、アメリカLA在住のシンガーソングライター。2007年、「瀬名」名義でランティスよりデビュー。3rdシングルがオリコンデイリーチャートで5位を記録。アニメ主題歌のほか、水樹奈々、ももいろクローバーZ、中川翔子などへの楽曲提供でも活躍。その後、2018年に単身渡米し、アーティストとしての活動を本格的に開始。『リーグ・オブ・レジェンド』や『オメガストライカーズ』『モバイル・レジェンド』など人気ゲームの主題歌も手がける。
イタリア人作曲家・ギタリストのニコ・ベリサリオとの共作による、「ジョジョの奇妙な冒険」第7部『STEEL BALL RUN』の架空オープニング主題歌「Holy Steel」は、YouTubeで再生回数1,900万回を超える大ヒットを記録。2025年2月には、日・コスタリカ国交樹立90周年を記念し、日本人として初めてコスタリカ国立劇場にてJ-POPソロ弾き語りライブを開催。満員御礼の成功を収める。現在は全米および世界各地を舞台に、J-POPの魅力を発信し続けている。
【ニューシングルリリース!】
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