CYZO ONLINE > その他の記事一覧 > 映画『港のひかり』裏方たちとの絆
沖田臥竜の直言一撃!

映画『港のひかり』に“筆を入れた”男が語る、裏方たちとの距離感と絆

映画『港のひかり』撮影現場
映画『港のひかり』撮影現場より(写真:著者提供)

 撮影期間中は頻繁に連絡を取り合うのに、撮影が終わるとそれが何かの間違いであったかのように、ピタリと連絡を取らなくなる人間が、私には2人存在する。

 プロデューサーのジョニーと助監督のフクである。撮影中こそ毎日のように連絡を取り合う2人だが、その距離感はそれぞれ全く違う。ジョニーに対しては、私のほうから「これはどうなってんねん!」と連絡する。対して、フクは自身の用件があると、こちらの事情はお構いなしに、突如、狂犬かのようにLINE電話をかけまくってくる。にもかかわらず、撮影が終われば、音信は一切途絶える。良くも悪くもそれが、ジョニーとフクと私の距離感なのである。

『インフォーマ』ATP賞受賞

 映画『ヤクザと家族 The Family』のとき、泣きながら「沖田さんに何かあれば、自分がぶっ飛ばします!」と言っていた、子犬のように純粋で可愛かったフクはもういない。先日も用事があるのでジョニーにLINEをしたが、既読スルーされて3日になろうとしている。もはやジョニーには携帯電話など必要ないと思うのだが、いかがだろうか。

 フクから久しぶりに電話があったのは一昨年の今頃のことであった。私は『インフォーマ -闇を生きる獣たち-』の撮影準備に入っていたため、この作品に合流してくるジョニーとフクの動きを知っていた。

 フクの話は唐突であった。「沖田さん!今日から『港のひかり』に合流しましたので、よろしくお願いします!」と言い出してきたのだ。

 私は素朴な疑問をフクに投げかけた。「何でオレに挨拶するの?」と。ジョニーやフクが、藤井道人監督の新作映画『港のひかり』の撮影に参加することは知っていた。ただ、その時点では、私には直接関係のないことだった。

 もちろん、藤井監督やジョニー、フクから頼まれれば、仕事としてその作品にかかわっていなくても、できることならば、なんだって協力はする。彼らは私にとって、戦友でもあり、同志でもあるからだ。でも「よろしくお願いします!」とは、えらく変わったことを言うなと思いながら、それをフクにそのまま尋ねるとフクはこう応えてきた。

「沖田さんが、監修で入るような噂をチラッと聞きました!」

 ジョニーはいけずなヤツなので、そんなことを間違っても私にお願いしてくるような性格ではない。

「オレ、『港のひかり』には、監修にも所作指導にも入ってへんで〜」と応えたが、フクは唯我独尊である。そんなことはお構いなしだった。

「そうなんですねー。でもこのシーンですけど……」と、アドバイスを求めだしたのである。私の言うことなんて、1ミリも聞いていない。

 すまない。言っちゃっていいだろか。さまざまな事情から、ジョニーにこの作品のタイトルの漢字を変えたほうがよいと進言したのは、実は私だったりする。最初は『湊の灯』だった。それを「港」にしたほうがよいと伝えたのだ。そこからフクとの打ち合わせが連日続き、最後の最後まで脚本をチェックして、筆を入れることにもなった。

 それは苦痛でもなんでもない。逆に必要とされることに、なんだかんだで嬉しさだって感じている。主演の舘ひろしさんのあるお芝居の参考になればと、自分で動画に撮り、フクに送ったこともある。別のシーンのお芝居のためのムービーを、品川のカフェ近くの路上でフクと2人で撮ったりもした。

 撮影現場に行くことはなかったが、撮影中のフクからFaceTimeで連絡があり、「段取りに入るので、沖田さんも静かにしてください!」と注意されたことだってある。 

 そんな中で、『インフォーマ -闇を生きる獣たち-』にロケハンのためにバンコクに行かなければならない日が来た。そこでフクに電話をかけて「明日から、日本を離れるので、聞きたいことがあったら今言うてくれよ」と言えば、フクは「とりあえず大丈夫です!」との返答。ところがバンコクに到着すると、毎日のようにLINEが送られてきた。

 私は苦笑いを浮かべながら、対応した。映像作りにおいて、嫌だとか、面倒臭いとか思ったことがない。やはり作品作りが好きなんだと思う。

映画『港のひかり』に“筆を入れた”男が語る、裏方たちとの距離感と絆の画像1
映画『港のひかり』(11月14日公開)公式サイトより

 脚本を製本する段階での最終チェックの担当も、実は私だったりする。だけど、豚は……失敬。ジョニーからは連絡もなく、いまだ私は本編を見ていない。ある意味、『港のひかり』は、それだけ思い出深い作品でもあるのだ。

 ギャラについても、ジョニーからは「もう予算がないですよ!」と言われ、わずかしかもらっていなかったが、私に限らず、作品作りは銭金だけではやっていない。驚くなかれ。一時は書籍の原稿の執筆を4冊抱えて、7カ月が経つが、いまだに原稿料も印税も1円ももらっていない。だから私は寝る間を惜しんでいろいろな仕事をしているのだ。しかも悲しいかな、執筆にかかるコストはすべて自腹なのだ。

 そもそも私はこれまで本を作るにあたり、出版社に1円も経費を落としてもらったことがない。ただ侮るなかれである。現時点で私が原作・監修を務める映像作品は、世界配信のドラマ、地上波のドラマ、劇場用映画と3作決まっていたりする。もうすぐリリースされるNetflixオリジナルドラマの監修・所作指導も務めている。どうだ参ったか。海外での撮影だって予定されているのだ。

 映画『港のひかり』は、脚本に筆を入れさせてもらったが、藤井監督が書いた脚本は初稿段階ですでにおもしろかった。本が強い作品は、やはり面白い。

 あとは、ジョニーが私のクレジットを忘れずに入れているかどうかだけである。

 面白い映画が劇場で公開されているだけで、幸せな気分になれる。11月公開の『港のひかり』は、ぜひ劇場で多くの人に観てもらいたい作品である。

(文=沖田臥竜/作家・小説家・クリエイター)

“職業・小説家”食えぬ時代のリアル
なぜ世田谷一家殺害は未解決なのか?

沖田臥竜

作家・小説家・クリエイター・ドラマ『インフォーマ』シリーズの原作・監修者。2014年、アウトローだった自らの経験をもとに物書きとして活動を始め、小説やノンフィクションなど多数の作品を発表。小説『ムショぼけ』(小学館)や小説『インフォーマ』シリーズ(サイゾー文芸部)がドラマ化もされ話題に。調査やコンサルティングを行う企業の経営者の顔を持つ。

X:@@pinlkiai

最終更新:2025/07/12 12:00