「超RIZIN.4」が与えてくれた歓声と熱狂と逆ナンの悲喜こもごも

人生で「逆ナン」というヤツを初めて目の当たりにしてしまった。
昔からかわいがっている20代の「双子のそらとだい」のだい達を連れて、7月27日にさいたまスーパーアリーナで開催された「超RIZIN.4 真夏の喧嘩祭り」へ行ってきた。ドラマ『インフォーマ−闇を生きる獣たち−』でお世話になっているAbemaのプロデューサーに招待してもらったのだ。
「RIZIN」緊急参戦の裏にあった物語
その会場に向かう電車の中のこと。若い娘さんが突然、私たちのほうにやってきて、「よかったらショートメッセージをください!」と言って、携帯番号が書かれた紙を手渡してきたのだ。私にではない。だいにだ。娘さんは一生懸命だったのだろう。慌てて化粧品で数字を書いたであろうその紙はレシートの裏で、ここで渡さないと後悔する!という思いがありありと伝わってきていた。目の前で起きた光景を理解するまで、数十秒はかかったのだが、はたと気がついてしまったのだ。
「だい!もしかしてこれは逆ナンか?」
だいは表情を変えることなく応えた。
「だと思います」
現代社会で、もうあらたな出会いみたいなものはマッチングアプリくらいしかないと思っていた私は、電車の中でも出会いがあったりすることに驚いた。ただ私もプロの書き手である。筆では誰にも負けないとすら思っている。しっかりとオチをつけてやろうではないか。
私は、RIZINの会場で有名人を見つけては、声をかけて一緒に写真を撮ってもらった。普段はそういうことをしないのだが、夏という高揚感が高まる季節である。それを見たウチのみんなが喜ぶと思って、自ら声をかけて写真を撮ってもらったのだ。その写真を、北海道に出張に行っているそらにLINEで送ると、「凄いですね!」と案の定喜んでくれた。私は嬉しい気持ちになりながら、喫煙ブースでタバコを吸っていると、あることに気がついてしまったのだ。
オレは誰にも声をかけられていないではないか――と。
別に何ら問題はない。私は芸能人でもなければ、裏方の仕事をする人間で、本来、表に出るような立場ではないのだ。そう思っていると、人々でごった返した喫煙ルームで、1人若い男の子が私に「すいません!」と、もの凄い勢いで声をかけてきたのである。隠そうとしても醸し出してしまうオーラは、やはり隠すことができないのか。仕方あるまい……と平常心を装って満面の笑みで振り返った。カモン!と内心で叫んだ。
「ライター貸してもらえませんかっ!」
「はっ?」
「ライターを貸してもらえませんかっ?」
ずっこけそうになった。ようやくか、ようやく偉大なオレのオーラが気づかれてしまったかと思えば、ライター目的だったとは。貸せるものなら貸してやりたかった。だが私が吸っていたは電子タバコである。ライターを持っていない。クスッと笑いながら、そのことを告げると、青年は颯爽とライターを探し求めて人混みの中へと消えていったのだった。
人の勝利や成功を妬む人たち
さて、「超RIZIN.4 真夏の喧嘩祭り」である。対戦カードはもちろんすべて楽しみだったのだが、何と言ってもいちばん注目していたのは、メインイベントの朝倉未来vsクレベル・コイケ戦であった。
4年前、朝倉未来選手がクレベル・コイケ選手に敗戦した時も私は観ていた。それだけに今回はリベンジを果たしてほしいと思いながら、観戦していた。朝朝倉未来選手が入場ゲートに姿を見せると、満員のさいたまスーパーアリーナが大きく揺れた。それは今でも彼が格闘界を牽引する存在であることの証明でもあった。気づけば私も「朝倉未来!」と声の限り叫んでいた。
試合は判定までもつれ込む接戦だった。一人目のジャッジが優位と判断したのは「クレベル」。その名前がアナウンスされた時、私は息が詰まった。まさか朝倉未来選手が負けるのかとドキドキしてしまったのだが、それだけ甲乙をつけられない試合展開だったのだ。
次のジャッジは「朝倉未来」。どよめく歓声が一瞬、静寂に包まれたかと思った瞬間、最後に「朝倉未来」の名前がアナウンスされると、会場に割れんばかりの歓声が再び甦った。判定がスプリットの2-1と割れたことが、この試合を余計にドラマティックなものに演出していた。そこに感動が宿っていたのだ。
それは私にとっても刺激となった。どんなスポーツでも仕事でも、その中で人々が一生懸命に汗を流す姿は美しい。頑張っている姿を見ると、自分も頑張らなくてはならないと思うことが私にはできる。人の勝利や成功を妬んだりする人間もいるが、その裏でどれだけの努力が積み上げられているかまで、そうした人間は考えることができないのだと思う。つまり妬みや嫉妬が先に立ち、自分は努力することができないのだ。
私の場合は違う。私は凄いことを純粋に凄いと思いたいし、人の喜ぶ表情を見るのが大好きだ。自分自身も、周囲の期待に常に応えたいと思っている。
10月には、少しざわざわとしてもらえる小説の出版と新連載がスタートする。そのために今、ラストスパートに入っている。夏である。週末には、こんな遊んだりするのは何十年ぶりだろうかと、いつか振り返った時に思えるようにさまざまなイベントを計画しながら、全力で仕事をしたいと思っている。
「超RIZIN.4 真夏の喧嘩祭り」の帰り道。今年の夏も熱く燃えていることを実感しながら、『口を揃えた怖い話』がテレビでやることを知り、突如、知り合いを集めて、この番組の鑑賞会を開催したのだった。
特別なことなんていらない。物語の作り手として、日常の出来事に、何歳になってもわくわくドキドキしていたいと思う。
(文=沖田臥竜/作家・小説家・クリエイター)
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