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沖田臥竜の直言一撃!

『鬼滅の刃』がくれた時間「映画と人との関係」を考えたひととき

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『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』より

 去年暮れ、その後、日本アカデミー賞を受賞することになる映画『正体』の舞台挨拶に招待され、藤井道人監督と横浜流星さんの2人の輝いている姿を最前列で目の当たりにした、あの映画館。尼崎の「キューズモール」で『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』を観てきた。だいたい地元で上映されると決まった映画は、この映画館で観るようにしている。映画館のスクリーンで観たい作品が上映されているだけでわくわくできるのは、子どもの頃から今も変わらない。

 中学生の時から、初めてのデートはいつも映画だった。好きだった。ずっと映画が好きだったのだ。

不朽の名作の条件

 小説家になろうと決めた時、自分の書いた物語が映画になることだけを想像して、ずっと書き続けてきたことは、もうあちこちで200回くらい書いてきたが、まさか映画『ヤクザと家族 The Family』でお芝居をすることになり、そんな自分の姿をスクリーンで観る日が来るなんて、想像したこともなかった。

 この作品では、監修と所作指導だけでなく、編集作業もずっと手伝っていたし、角川で行われた関係者試写会にも行っていたので、映像自体は何十回も観てきたのだが、それでも公開後は映画館でも鑑賞した。

 その時に思ったことは、「本当に頑張って良かった」ということだった。そして作品を作る苦労と喜びを知り、映像の世界にのめり込んでいったのだ。

 まだまだリリースは先だが、再来年には私の小説が映画化され、スクリーンで皆さんに届けることができる予定だ。来年は他に2つの映像作品を世に放ちたいと思っている。

 その前に、11月14日から上映される『港のひかり』(藤井道人監督)でも監修・所作指導で参加しているので、ぜひ、大勢の人々に劇場へと足を運んでいただけたら嬉しい限りでございます。

 さて、『鬼滅の刃』である。私には「1人で観たい映画」と「みんなで観たい映画」という区別があって、『鬼滅の刃』は後者だった。それゆえ、私が中学生の頃から特別に可愛がってきて、私の会社で部長兼プロデューサーとしても籍を置いている双子、宇宙(そら)と大地(だいち)のお父さんで、私の会社では顧問をしてくれている坂口さん、そしてその友人を誘って行ってきたのだ。

 多分、彼らはそれほど『鬼滅の刃』を観たいとは思っていなかったと思う。それでも私が誘うと、嫌な顔ひとつせず、ネットでチケットを取って連れていってくれた。その気遣いだけで、テンションは爆上がりである。だって、ちょっとでも嫌そうな顔をする人間と行っても、ちっとも面白くないではないか。

 その点、坂口顧問もその友人たちも、喜んで連れて行ってくれるので、始まる前からもう楽しい気分になることができた。映画の醍醐味は、もちろん本編を観ることにあるのだが、観終わった後に、「あそこが良かったよな!」とか語り合うのも私は大好きだ。

 鑑賞メンバーの年齢層は20代〜60代。それぞれの感想が聞けるのは、物語の作り手として参考になるから、私は基本、幅広い層の感想を聞くようにしている。ただ、その中に私を凌駕する猛者がいたのだ。

 映画鑑賞前に、みんなで談笑していたときのことである。

 「な〜、ちょっと静かにしたほうがええんとちゃうん?」

 私はところ構わずうるさいほうである。これまで私がそう言われることがあっても、私がそんな言葉を口にすることはなかった。恐る恐るその友人を嗜めると、彼は不思議そうに口を開いた。

「はあ? なんで?」

 恐縮ではあるが、私は最近、そんなことを言われることはまずない。だが友人は悪びれることなく、そう私に言い放ったのだ。逆にそれが新鮮だった。そして、それを聞いたみんなが笑顔だった。そういう空間が私は好きなのだと思う。映画には普段の生活にはない、そうした雰囲気を自然に作ることのできるワクワクやドキドキがあるのだ。


 私はクスッと笑いながら、劇場の中へ入っていった。多分、月日が流れて、振り返ったとき、その光景を懐かしく思い出して、私は再びクスッと笑うことができるだろう。

 肝心な内容は、予想通り期待を裏切らない3時間であった。ただ私も曲がりなりにも物語の作り手である。面白かったの大前提として、怒らないで聞いてほしい。私だって『鬼滅の刃』が好きだ。だからこそあえて苦言を呈するとすれば、アニメの3時間は長すぎたのではないだろうか。特に物語の内容を知っている立場にしてはだ。
 
 「第一章 猗窩座再来」がどこまで描かれるかも知っていた。これがストーリーを知らない人にとっては、貴重な3時間であったことは間違いない。だが知っている身としたら、少し間延びさせ過ぎたのではないだろうか、と少し一丁前のことを思ってしまった。

 待て待て待て待て待て待て!『鬼滅の刃』ファンたちよ。怒るな怒るな。話は最後まで聞くものである。

映画が生み出すサイドストーリー

 総合的に言えば、間違いなく「観に行くべき映画」だったし、しっかりと、うるうるさせられるシーンは3回はあった。隣りに座っていたくだんの友人ですら、目頭を押さえていたのだ。誰が観ても面白かったし、その友人がチケットを前日に買ってくれていなければ、観られないほどの満席だった。論じるまでもない。それが商業的には何よりの答えなのである。ビジネスである以上、集客できなければ意味がないのだ。興行としては大成功だろう。

 私はすまぬが、情報を題材にした『インフォーマ』を生み出した人間である。情報収集、分析、それに纏わる人脈においては、日本最高峰に位置すると思っている。自画自賛ではない。すまぬが事実である。

 だから『鬼滅の刃』のちょっとした裏豆知識だって知っている。映画が終わり、もんじゃ焼きを食べながら、チケット代を奢ってくれた友人にそれに見合った裏話を伝えることにした。

「あのなー、実はな〜」

 ふっふふふふ……「うそっ! マジで!?」と驚くものだと思っていたのだが、『鬼滅の刃』同様に、くだんの友人はある意味、最後まで私の期待を裏切らなかったのである。

 「へっ〜」

 まあまあびっくりするだけのことを言った自信はあった。だけど、「へっ〜」だけであったのだ。その反応の薄さが、また私をクスリとさせたのであった。

 映画館に観に行くということは、物語の面白さだけでなく、そうしたサイドストーリーも生まれるのである。

 『鬼滅の刃』に外れはない。是非、劇場に足を運び、それぞれのサイドストーリーを生み出してほしい。

 それが夏の思い出として振り返った時に、かけがえのない大切なものになっているはずだから。

(文=沖田臥竜/作家・小説家・クリエイター)

商業的報道の権力化が作る未来
小説家としての確かな手応え

沖田臥竜

作家・小説家・クリエイター・ドラマ『インフォーマ』シリーズの原作・監修者。2014年、アウトローだった自らの経験をもとに物書きとして活動を始め、小説やノンフィクションなど多数の作品を発表。小説『ムショぼけ』(小学館)や小説『インフォーマ』シリーズ(サイゾー文芸部)がドラマ化もされ話題に。調査やコンサルティングを行う企業の経営者の顔を持つ。

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最終更新:2025/08/23 12:00