妥協ゼロ!『ブラザーズ』は10万文字から生まれたヤクザマンガの真骨頂

神々の降臨である。私の小説『ブラザーズ』(角川春樹事務所)がマンガになってしまい、なんだったら文庫本にまでなってしまった。しまった……というのは、語弊があるか。
なぜならば、マンガ化というメディアミックスは私自身が、小説『ブラザーズ』の担当編集者でもある、角川春樹事務所の編集長の永島さんと一緒に仕掛けたものである。そして、飛ぶ鳥を常に落とし続ける講談社の帝王こと『ザ・ファブル』南勝久さんがプロデュースで入ってくれているのだ。面白いに決まっているではないか。
スカッとした物語が書きたかった。極端に現実離れしているわけではなく、細部までこだわった物語を生み出したかった。そしてセリフ一つひとつに生きた言葉を使いたかった。現在の冷え切った、窮屈な世の中を笑い飛ばすような、熱い俠(おとこ)たちの物語にしたいと思い、書き上げたのがブラザーズである。気持ちよいくらい、ヤクザど真ん中を描いた作品のマンガ化である。
ヤクザマンガで言えば、私は『ドンケツ』(たーし作)がすごい好きで、この作品と『ザ・ファブル』は、ずっと読んでいる。
昔は毎週、楽しみなマンガがあった。小学生の頃は『コロコロコミック』と『少年ジャンプ』を貪るように読み、中学生になると月曜日に『少年ジャンプ』と『ヤングマガジン』、水曜日には『少年マガジン』を毎週、わくわくしながら買っていた。
さらに『クローズ』を知り『月刊チャンピオン』を買い、『BADBOYS』で『ヤングキング』を買うようになり、『今日からオレは』で『少年サンデー』、『浦安鉄筋家族』で「少年チャンピオン」と、ひとつのマンガがきっかけでさまざまなマンガ誌を買うようになり、気がつけば、友達の間でも群を抜いてマンガを読んでいた。
面白いマンガは何度でも繰り返し読むことができた。それは今も変わらない。面白い動画や映像も、何度も何度も見返している。
当時読んでいたマンガから、私は多大な影響を受けていると感じる。それほどまでに、読みたいと思えるマンガが溢れていたのだ。幼き頃、私がそう感じたように、今度は私が作り手として、同じように思ってもらえるようなマンガを作りたいと考え、連載をスタートさせたのが『ブラザーズ』のマンガ化である。
マンガ『ブラザーズ』では一切、妥協をしていない。「まあ良いか〜」という気持ちで、ひとコマたりとも終わらすようなことをしていない。限界までせめぎ合うのである。たったひとコマでも、たったひとつの吹き出しでも、自分が読者だったとしたら、「これをされると興醒めするな」と思うようなことをやり過ごすようなことはしない。
なぜかわかるだろうか。楽しみにしてくれている読者に対して、失礼になるからだ。同時に、「あのとき、こうしておけばよかった……」と後悔したくないからである。
マンガに限らず、売れれば官軍である。
南さんをプロデュースに迎え、作画の信長アキラさんは最高の画力で望んでいる。編集長の永島さんも、マンガの担当編集である河合さんも情熱を持って、『ブラザーズ』に向き合ってくれているのだ。
私には私にしかできないことがある。それを妥協することなく、最高にいかしたピッカピカのマンガを世の中に放ちたいと思っている。
はっきり言っていいだろうか。これで売れなければ、いったい何が売れるというのだ!と思うくらい、『ブラザーズ』には魂がこもっている。
私自身、地味ではあるが、マンガの原作は4作目である。その中でも『ブラザーズ』の手ごたえは、過去作を超えていると実感している。
「書けないかもしれない」から始まった、10万字との闘い
小説『ブラザーズ』の話があったとき、『インフォーマ2』を絶賛執筆中であった。そのため、一度は引き受けたものの、「もしかすると書けないのではないか」とさえ思った。今でこそ、同時に複数の小説を執筆するのも珍しくはないが、当時はまだ1冊ずつしか小説を書いたことがなかった。
10万文字との戦いである。1冊書くだけでも必ず熱が出る。それくらい小説を書くという作業は頭を使う。そして、「もう書けないのではないか」という不安と常に隣り合わせの状態で書き続けることになるのである。それを2冊同時に進めなければならないということに、相当なプレッシャーを感じていた。
何度も何度も、「もう辞めようか」と思った。とてもじゃないけど、締切なんて間に合わないと思った。それでも、私が不安に苛まれ、挫けそうになったとき、日々の忙しさに押し潰されそうになったとき、ある約束を思い出していた。
それは、永島さんと交わした約束だった。
永島さんに口説かれ、私は「10万文字の小説を書く」と約束したのだ。プロとして締切を守らないのは、私自身がもっとも許せないことであった。
デビューして10年が過ぎたが、一度たりとも締切に遅れたことはない。それに、男同士で交わした約束である。いったんそれを破れば、この先、苦しくなったときに、また同じようなことを繰り返してしまうのではないかと考えた。
作品として書いたものが編集者に認められるかどうか、世の中に通用するかどうかは次の問題で、とにかくまずは書かなければ始まらない。不安で苦しい夜を何度も乗り越えて、私は書き切った。そして読み返したとき、自分でも驚いた。我ながらで申し訳ないが、面白かったのだ。読了後には、すっきりとした爽快感を味わうことができたのである。
永島さんからも、「私は一発で通すことがないのですが、これは面白いです。初めて一発で通しました!」と、神戸のホテルのコーヒーラウンジで言われたのだった。この時の経験が、書き手としての私にさらなる自信を与えてくれた。そして今年、私は3作同時に小説を執筆し、年内に3冊を上梓することになった。
もし、あのとき途中で書くのをやめていれば、今はなかったであろうし、間違いなく『ブラザーズ』のマンガは誕生していない。
当たり前ではないか。書いていなければ、それをマンガ化しようとはなり得ないのだ。本当に書いてよかった。書ききって、面白いと思ってもらえたからこそ、「仲間」と呼べる人たちと一緒に仕事ができるのだ。そして私は、いつだって、みんなと一緒に仕事ができる仕事場を作ることから始めている。それは今後も変わらないだろう。
令和の何かと窮屈な時代に、我々「チームブラザーズ」が届ける、最高にいかしたマンガの爆誕である。大勢の人に読んでもらい、バカ売れして、印税生活を送らせてほしい……。
角川春樹事務所の新マンガレーベル「ハルキコミックス」のLINEマンガ独占先行配信にて、『ブラザーズ』は絶賛公開中である。
(文=沖田臥竜/作家・小説家・クリエイター)