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警視庁が異例の“狙い撃ち”をした武闘派ヤクザ組織「幸平一家」に特別捜査本部が設置された真実

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2021年に業界関係者に出された住吉会と道仁会の御挨拶状。幸平一家・加藤総長の影響力が伝わる。

 警視庁は1月15日、住吉会の二次団体となる幸平一家に対して、特別対策本部を設置したことを発表した。

 十三代目・加藤英幸総長が率いる幸平一家は、住吉会の中にあっても別格的な組織で、令和3年2月、住吉会と道仁会が五分の兄弟関係を結んだ際の「御挨拶状」には、「加藤総長の強い御要望と御推挙により」と、当時総本部長の重責を担っていた加藤氏の個人名が明記された。これは、加藤総長が住吉会を超えて業界全体に影響力を持つことを物語っている。

 力のある組織に次世代を担う若手が集まるのはヤクザ社会だけでなく、どこの世界でも必然と言えるのではないか。とかく高齢化が進むと言われるヤクザ業界にあっても、幸平一家の下部団体には、数多くの若者が集っていると言われている。それが今回の警視庁による特別対策本部の設置の一因になっているとも言えるだろう。

 逆に言えば、それだけ勢いがあり、群雄割拠とされる首都・東京の中でもひときわ存在感を放つ組織だということだ。

 「加藤総長が幸平一家の当代となる前に創設した加藤連合(現・加藤連合会・小坂聡会長)自体が、都内では知らない業界関係者はいないと言われていたほど、武闘派として鳴らしてきた組織。それを継承した小坂会長は、現在、住吉会の会長代行という要職にあり、組織の中枢を担っています。
 幸平一家には、加藤連合会の他にも、義勇会や加藤連合から内部昇格を果たした堺組、それに聡仁組など武闘派として知られる組織が多く、若手組員が多く、勢いがある。勢いがあれば活動も活発になり、自然と名前が広まる。そうなれば、裏社会においてもさまざまな人脈が生まれ、影響力も大きくなっていく。  
 今回の特別捜査本部の設置は、そうした影響力を断ち切る狙いがあるのではないかと考えられます」(業界関係者)

「ヤクザ離れ」する詐欺グループ

 ではなぜ、住吉会全体ではなく、二次団体である幸平一家に対して、特別捜査本部が設置されたのか。この点について、長年ヤクザ取材を続けてきたジャーナリストは、次のように見解を示す。

 「マスメディアでは異例の対応として報じられていますが、実際にはそれほど珍しいことではありません。例えば山口組でも、組員の検挙数が他の二次団体より圧倒的に多い場合や、抗争事件を頻繁に起こしている団体があれば、その団体に対して壊滅作戦を実施するケースがありました。上層部全体よりも、対象となる団体を集中的に取り締まる方が効果的なのです。
 住吉会の組織構造にも理由があるのではないでしょうか。山口組はピラミッド型ですが、住吉会は連合体として成り立っています。そのため、幸平一家のように住吉会の代紋だけでなく、十三代続く独自の代紋も存在します。小坂会長が住吉会の会長代行を務めているほか、幸平一家の最高幹部が住吉会の要職に就いているなど、両者の関係は非常に深い。
 警視庁としては、幸平一家を弱体化させることで、住吉会全体にも打撃を与えることができる――そう判断しているのではないでしょうか」

 地元関係者に話を聞くと、こんな声も返ってきた。

 「地方では“最近はヤクザの姿を見かけなくなった”とよく聞きますが、都内は違います。繁華街が多い東京では、それぞれの場所で幸平一家系列の若い組員の名前を耳にします。この時代にそれだけ名前が上がるということは、やはり羽振りがいいということなのでしょう」

 警視庁が特別捜査本部を設置した背景には、そうした目立った動きや、若手組員の多さ、さらに最近問題となっている「匿名・流動型犯罪グループ(匿流)」との繋がりがあるとみられている。前出のジャーナリストは、こう指摘する。

 「裏社会の頂点にいるのは、今も昔もヤクザであることに変わりありません。歌舞伎町などでも、客引きやスカウトの背景にはヤクザが存在してきました。そうした形で裏社会の秩序が保たれてきた面もあります。しかし警察の締め付けが厳しくなったことで、ヤクザのシノギ(稼ぎ方)も変化してきました。一口にシノギと言っても様々ですが、人脈を通じて仕事が生まれるのは共通しています。そうした人脈の繋がりを通じて、当局が壊滅を目指している特殊詐欺にも関与していると見られているのではないでしょうか」

「使用者責任」というヤクザ包囲網

 多くの組織が、公には覚醒剤の売買や特殊詐欺を禁じている。だが、特殊詐欺に関しては、末端の組員が逮捕されただけで、上部団体のトップにまで「使用者責任」が及ぶケースが相次いでいる。住吉会も例外ではない。
 
 故・関前会長は、顔すら知らない傘下組員が関与した特殊詐欺において、使用者責任を問われ、2023年5月、暴力団対策法に基づき、前会長らに対し賠償を命じる判決が下された。

 「このときも、まったく面識のない末端組員が関与した事件で、トップが責任を問われた。これを機に、各団体が特殊詐欺を厳禁とする通達を出したとも言われている。現在ではどの団体でも特殊詐欺を禁じているのは確かだ。ただ、ヤクザというのは“個人事業主の集合体”のような面もあり、組員がどのようなシノギをしているのかをいちいち把握していないのが実情。そのため、逮捕後に所属組員の関与が発覚することも少なくない。
 当然、発覚すればその組員は処分される。規律違反ですから当然だ。しかし、それでも“イタチごっこ”になるのは避けられない。特殊詐欺を推奨している組なんて聞いたことがないが、暴排条例の影響で従来のシノギが立ち行かなくなり、結果として特殊詐欺に関わる組員が出てきているのが実情だろう」(元業界関係者)

 そうしたなかで、幸平一家のように若い組員を多く抱える団体に対し、警視庁が本格的な取り締まりを始めた。果たしてこれで特殊詐欺は壊滅に向かうのだろうか。犯罪事情に詳しい専門家は、こうした現状を冷静に分析する。

 「特殊詐欺に限らず、違法なシノギというのは内輪揉めや取り分を巡るトラブルが起きても、警察に相談することはできません。だからこそ、“代紋”の力がものをいうのです。言い換えれば、現役の組員が1人いれば、それだけで“ケツモチ”として機能する。特殊詐欺は手を変え品を変え、現在も被害を出し続けています。ヤクザへの取り締まりを強化したとしても、特殊詐欺自体が減少するとは限らない。今ではヤクザの代紋すら必要としない特殊詐欺も増えています」

 その象徴とされるのが、「カンボジアルート」だという。

 「カンボジアという国は治安も不安定で、『匿流』があるルートを通せば、誰でも新規参入できてしまう。そこには、裏社会特有の規律など存在しません。あるルートとは“仲介者”のことです。仲介者に金を払い、現地の政治家を紹介してもらう。金次第で政治家を買収することも可能な国なので、政治家を通じて特殊詐欺グループが立ち上がってしまう。インターネットの発達もあり、特殊詐欺はますます巧妙化している。このルートを使えば、ヤクザの関与なく詐欺が可能になる。詐欺グループとしても、可能であればヤクザとは関わりたくない。なぜなら、逮捕時に現役の組員がグループに関与していると、量刑が重くなるからです」

 つまり、組員の関与を厳罰化しても、特殊詐欺そのものの抑止には必ずしもつながらないという見方だ。
 
 山口組が分裂問題に終止符を打ち、抗争事件が落ち着いた今も、特殊詐欺をめぐる新たな動きは続いている。暴力団の関与が問われるこうした犯罪に、当局がどう対処していくのか。その姿勢が今後、さらに問われることになりそうだ。

(文=山口組問題特別取材班)

山口組問題特別取材班

ヤクザ業界をフィールドとする作家、ライターおよび編集者による取材チーム。2015年結成。同年に勃発した六代目山口組分裂騒動以降、同問題を長期的に取材してきた。テレビや新聞などでは扱いにくいヤクザ組織の内部情報にも精通。共著に 『相剋 山口組分裂・激動の365日』がある。

山口組問題特別取材班
最終更新:2026/01/31 08:01