古豪・横浜が智弁和歌山を破り、19年ぶり4度目の優勝! キーワードは打力と投手の存在感!? 2025年センバツ総括

3月30日に行われた第97回選抜高校野球大会の決勝戦。横浜が11対4で智弁和歌山を破り、19年ぶり4度目の選抜優勝を飾った。今年のセンバツで見えてきた育成方法や戦い方を考えていこう。
明治神宮大会から二冠達成した横浜
昨年の健大高崎と同様に奥村頼人と織田翔希のWエースを活かした横浜が明治神宮大会に続いてセンバツを制した。
筆者は大会前から別の記事( https://shueisha.online/articles/-/253382 )で優勝候補筆頭に挙げていたが、同校は投手陣が安定しており、野手陣は阿部葉太を中心に得点を積み重ね、磐石な試合運びを見せつけた。
特に阿部は決勝という舞台で、勝ち越しタイムリーと6回表のピンチの場面でファインプレーを見せた。決勝の試合序盤含め、懸念材料だった守備の不安もあったが、それを埋める投手・野手の運用力だった。
さらに、奥村は近年のトレンドでもある「投野のユーティリティ起用」で現在時点の能力を最大化した。高校野球のレベルでは見慣れないが故に打ち崩すのが難しい左腕でありながら、プロ注目レベルの彼をリリーフに回すことにより、相手打線の勢いをなくした。
投打で圧倒的な強さを見せた横浜が優勝したことにより、神奈川県勢は2021年センバツの東海大相模、2023年の慶應、今大会の横浜の優勝と、2020年代初頭から凄まじい強さを見せている。
かつて甲子園で上位に勝ち進んでいた横浜の復活により、夏に向けて激戦区として大きな盛り上がりを見せるだろう。同校の課題としては、夏に向けて奥村の負担を軽減するために、投手陣を厚くする必要があるだろう。
例えば、昨年の健大高崎が、佐藤龍月や石垣元気のWエースに下重賢慎を夏までに育成したように、ゲームメイクできる投手の育成が急務になる。
“魔”の初戦突破から決勝まで勝ち進んだ智弁和歌山
2021年夏を制してから甲子園では3年連続で、初戦敗退を喫していた智弁和歌山が復活した。元プロ野球選手の中谷仁氏が率いるこのチームは、低反発バットで打低大会の中で自慢の打撃陣が輝いた大会になったといえる。
準決勝まで4試合中3試合が二桁安打を記録し、二桁安打を記録できなかった試合も9安打を記録。多くの高校が低反発バットで苦しむ中で豪打を生かし、勝ち進んでいった。
低反発バットが導入されたこの打低であるほど、相対的に投手力の差が小さくなり野手の打撃力の差がモノを言うが、それを理解しているような戦い方だったようにみえる。
さらに、エースの渡辺颯人は高校野球特有の外の広さを活かすピッチングで、相手打線をのらりくらりと抑えるなど、現代の高校野球の状況を理解しながら、チームビルディングからゲームメイクをしていたことがわかる。
決勝の敗因としては、地力の違いはもちろんだが、準決勝まで大差の試合しか経験していなかったため、甲子園で接戦でかつ劣勢の展開からのゲームプランが想定できていなかったことだ。
横浜の場合、沖縄尚学戦で織田、奥村が打たれた後に前田一葵や山脇悠陽、片山大輔といった投手を上手く起用し、接戦を制した。準々決勝の西日本短大付属戦では、4回までビハインドの展開から逆転勝ちした。甲子園で勝ち抜くためには、接戦や劣勢の経験を活かしながら勝ち方のバリエーションを増やしていくことが重要なポイントになっていくのだ。
この点が決勝の勝敗に結び付いた。例えば、決勝で横浜は6回表のピンチの場面で、織田からすぐに奥村に変えるのではなく、片山を挟んで抑えた。片山を沖縄尚学戦の接戦の場面で起用し、場慣れできたことが決勝の投手起用に生きた。そのため、決勝までの「勝ち方」も結果につながったと見ている。
投高打低時代に問われる“打力”と“投手の存在感”
今年のセンバツを観戦していて感じたのは、昨年と比べて安打数が明らかに増えているという点。さらに、チーム打率が3割を超えている高校が2校から7校に増加していた。しかし、本塁打数に関しては昨年の3本から今年は6本と大きな変化が見られなかった。
このことから、現在の指導法では、低い打球を意識したバッティングが重視されているのではないかと考えられる。これは、筆者の『戦略で読む高校野球』(集英社新書)や『甲子園強豪校の監督術』(小学館クリエイティブ)などにも書いてある。
また、開幕前にも述べたように、「打低」の傾向が続く今だからこそ、逆に「打力」を重視するべきだ。小技や堅実なプレーに偏りすぎたチームは、結果として大差で敗れてしまう傾向があるように感じた。
一方で、「球数制限」や球数を投げさせると、世間の風当たりが強くなる。そのことを配慮した投手の育成にも変化が見られた。以前までは「エース100点、2番手55点、それ以外は20点」といった構図だったのが、現在では「エース75点、2番手以降60点」といったように、全体の底上げが図られている印象だ。
これは、指導の方向性の変化や低反発バットの影響も相まって、各校の投手力に大きな差が生まれにくくなっている一因かもしれない。チームの勝利を優先していくなら、圧倒的な実力を持つエースは必要なく、合格点を取れる投手を揃えれば勝ち進めるのだ。
しかし、圧倒的な実力を持つ投手は生まれづらくなる傾向になっていくと見ている。その中で、横浜の奥村や健大高崎の石垣のように、チームを鼓舞するようなピッチングで試合の流れを変える存在は、ますます重要になっていると感じた。
技術だけでなく、1998年夏の甲子園で松坂大輔がテーピングを外したときに雰囲気が変わったことやチームが生き返ったような精神的支柱となる投手の存在が、チームの勝敗を左右するカギになる時代が来ている。
かつての明治神宮大会のジンクスはもうない!?
新チームになって初の全国大会である明治神宮大会は、甲子園を勝ち抜くチームを考えるうえで重要である。
この大会は甲子園ほどの知名度はないが、各地域の秋季大会の優勝校がトーナメント形式で対戦する、1年生と2年生によって構成された新チームにとっては初めての全国大会である。
実は1999年から2025年のセンバツまで春または夏の甲子園の決勝まで勝ち進んでいる高校は、前年の明治神宮大会に出場している。なぜ、そのようなことが起こるのか?
明治神宮大会の予選にあたる秋季大会は、新チームになったばかりの時期に行われる大会である。その時期はまだ戦略も戦術も仕上がっておらず、選手たちも粗削りである。
そんな中で都道府県予選の上である地区大会を勝ち抜き、明治神宮大会に出られる地力があるチームは翌年の甲子園の決勝にまで進めるポテンシャルがあることがわかる。
また、近年の明治神宮大会覇者は、センバツでも結果を残している。以下が2020年以降の明治神宮大会覇者のセンバツの結果である。
・2021年明治神宮大会優勝大阪桐蔭→2022年センバツ優勝
・2022年明治神宮大会優勝大阪桐蔭→2023年センバツベスト4
・2023年明治神宮大会優勝星稜→2024年センバツベスト4
・2024年明治神宮大会優勝横浜→ 2025年センバツ優勝
かつて「明治神宮大会覇者はセンバツで勝てない」と言われていたが、センバツでもベスト4以上を記録しているのだ。
現代の高校野球における強豪チームは、甲子園に直接関係のないような大会でも、チームを強化し、ポテンシャルを発揮できるのである。
(文=ゴジキ)