瓜田純士“アウトローのカリスマ”の目に涙……『白雪姫』を絶賛するワケとは?

“アウトローのカリスマ”こと瓜田純士が森羅万象を斬る不定期連載が、約2年ぶりに復活! 満を辞して投下する今回のテーマは、炎上中のディズニー映画『白雪姫』だ。ディズニーの人気アニメを実写化した作品だが、「これはこれで面白い」という声がある一方で、「原作レイプ」「史上最悪の実写化映画」といった辛辣な感想も相次いでいる。「ディズニー映画にはこれまでたくさん楽しませてもらったから、悪くは言いたくないけども、駄作だった場合は俺がトドメを刺すしかない」と悲壮な覚悟で映画館に入っていった瓜田。鑑賞後の反応やいかに……!?
GoogleのAIやネット上の声を総合すると、映画『白雪姫』が炎上している理由は、主に以下の5つのようだ。
(1)白雪姫が白くない
コロンビア出身のラテン系女優レイチェル・ゼグラーが白雪姫を演じることに、違和感があるとの声も多い。なお、白雪姫の名前の由来は「雪のように白い肌」ではなく、「吹雪の日を生き抜いたから」に変更されている。
(2)原作と内容が違う
プリンセスが王子様に助けられるという古風なストーリーを現代風にアレンジ。原作アニメでは重要な役割を果たす王子様が登場しないほか、原作アニメには出ない山賊たちが登場するなどの変更がなされ、原作ファンから落胆の声も。
(3)7人のこびとのCG化
小さな身体に、大きくてリアルな人間の顔が乗ったCGデザインに対し、「作中で浮いている」という厳しい意見も。
(4)政治的対立
邪悪な女王を演じたガル・ガドットがイスラエル出身であることから、主演女優2人の政治的対立を書き立てる記事も。
(5)主演女優の発言
主演のレイチェル・ゼグラーが、「アニメ版白雪姫は好きじゃない」「女性が男性に救われるという考えは時代遅れ」などと発言したことから、原作へのリスペクトに欠けるとの批判が殺到。
こうしたネガティブな情報を事前に耳にしつつも、「原作はほぼ知らないので関係ない。この映画単体で評価したい」というスタンスで劇場入りした瓜田。男性だけの意見だと偏りがあるかもしれないので、瓜田の妻・麗子にも一緒に映画を鑑賞してもらうことにした。
そして、2時間後。エンドロールが終わって場内の明かりがついたので、瓜田夫婦の様子を伺うと、なんと2人は鼻をすすりながら泣いているではないか!
麗子は自分の欲のためだけに生きる化け物
――涙のワケを教えてください。
瓜田純士(以下、純士) それはおいおい話しますが、その前に言いたいことがあります。今日、映画館に来る途中に、夫婦喧嘩が勃発したんですよ。映画館のすぐそばに、トー横があるじゃないですか。俺は毎週末、トー横エリアなどで犯罪防止のボランティアをやってるんですが、そこで最近トラブルが相次いでまして……。そんな場所を白昼堂々歩いたら、下手すりゃ麗子にも危険が及ぶ可能性があるから、「トー横を通るのはやめよう」と言ったんです。
そしたら麗子は「は? 私は我が道を行くんや! 人の都合で自分の行きたい道を妨げられるのはごめんや! 何がなんでもここを通ったるでぇ!」とか言い出したから、大喧嘩になりまして……。
――夫婦喧嘩は日常茶飯事じゃないですか。
純士 はい、でもそこから先がさらに大変で。どうにか仲直りして映画鑑賞を始めたはいいけど、今度は麗子が10分に1度くらいの頻度でケータイの電源を入れたり消したりするんです。鑑賞マナーのお願いで「ケータイはOFFに」ってさんざん言われてるのにもかかわらずですよ?
こっちは映画に集中したいのに、隣でケータイをチカチカさせてくるもんだから、「消せ!」と注意したんですが、まったくもって言うことを聞かない。やむなく俺は、光が目に入らないように麗子側の肘置きに片腕を立てて視界を遮断。麗子はそれが気に入らなかったみたいで、さらにチカチカの頻度をアップさせてきた。あれは嫌がらせか?
瓜田麗子(以下、麗子) ちゃうねん。キャラメルバター味のポップコーンを買うたから、まずはその血糖値をケータイで調べとってん。そのあとバッグの中にあるダイエット薬をポップコーンに入れようと思ったんやけど、暗くて薬が見つからへんかったから、ケータイの光に頼ってただけや。
純士 そんなもん初めから食うなよ。
麗子 食べたいねん! たまの映画館、ポップコーンは必需品やろ。
純士 ね。一事が万事、この調子なんですよ。隣の席にいる、自分の欲のためだけに生きる化け物が、この映画のお妃(邪悪な女王)と重なったんですよ。
麗子 あ、私も似てると思ったわ(笑)。
純士 「魔法の鏡よ、この世で一番美しいのは誰?」とかアホなことを聞いて、「この世で最も美しいのはお妃様です」とか言われて悦に入ってるお妃はまさに、自分基準で歩きたい道を歩く、自分のダイエットのためなら周囲の観客などどうなってもいい、ケータイを見たいときに見る麗子とそっくりでしょう。
一方、リスたちを呼び寄せるほど優しく清らかな心を持つ白雪姫は、俺に似てると思いましたね。
麗子 ちっちゃい男やな。私はもっと大きな視点でこの映画を……。
純士 黙っててくれ。今のはただの前置きだよ。これから映画の話をするんだよ。評判が悪いと聞いて調べたら、確かに酷評だらけ。やれ主演女優が白人じゃないだの、設定がひどいだの、7人のこびとのCGが変だの、主演女優が悪態ついただのとさんざん聞いてたから、俺も毒舌全開でこきおろす覚悟で来たんですよ。ところがどっこい、鑑賞後は映画に対してではなく、この映画を酷評してる奴らに文句を言いたくなりました。お前らこそが、差別やヘイトやイジメをするマインドの持ち主だろ! と。
まあとにかく、世間の酷評なんてすべて吹っ飛ばしてしまうほど、白雪姫を演じた女優(レイチェル・ゼグラー)が素晴らしかったです。演技力はもちろんのこと、見た目もいい。最初見たとき、「なんだか貧相だな」と感じ、正直不安になりました。でも不安にさせてくれなきゃダメなんですよ。例えばエマ・ワトソンみたいなリア充・西洋代表みたいな子があの役をやっても、ハマらないんです。嘘つけ、ってなっちゃうから。
白雪姫に一番ハマるのは、日本で言えば、キヨスクの店員をやってるような子。海外で言えば、ベトナムやマレーシアの工場で一生懸命スニーカーを作ってるような子なんです。今回の子は、究極のキヨスクガールでした。彼女をキャスティングした奴は天才ですよ。
麗子 今の時代のプリンセスって感じ。唯一無二の個性派やな。ただ、「この世で一番美しいのは白雪姫様です」というのは、若干無理があるけどな。
純士 一方、悪女に対する俺なりの定義もあって、殺意が芽生えるほどムカつかせてこそ本物だと思うんです。俺はこの映画のお妃を見てて、マジで殺意が芽生えたんですよ。やってることが麗子のまんまだから。でも観客にそう思わせてこそ、力のある女優じゃないですか。今回はこの2人の女優がすごすぎて、俺は一気に魅了されちゃいましたね。
今日は麗子のワガママで「吹替版」を観たんだけど、それも結果的には良かったと思う。観る前に危惧してたのは、日本の歌手が適当に歌うとスケールダウンしちゃうんじゃないか、ということ。でも、それは杞憂に終わりましたね。吹替版で正解でした。
麗子 そやろ?
純士 うん。言葉がダイレクトに伝わってくるから映像に集中できたし、男女ともに日本語の歌声が素晴らしかったです。ちなみに俺はディズニー作品の言葉から教訓を得るタイプなんですが、今回最も印象に残ったのは、キヨスク(白雪姫/以下略)が言った「罰は罪の大きさを越えてはならない」というセリフです。何かやらかした人を過剰に叩きがちな昨今だからこそ、その優しいセリフが刺さりましたね。
とはいえ、この作品を手放しで褒めるつもりもない。惜しいな、って思う部分もいくつかありました。まず、残念だったのは7人のこびと。あれ、どういう意図でCGにしたんだろう? 人間っぽい表情をCGでリアルに作ろうということにこだわりすぎて、目障りになってた。そのせいで、喧嘩や友情、泣かせる場面などの盛り上がりがイマイチになっちゃった印象です。あれ、人間がやってれば表情がもっと自然になると同時に、間とかテンポも絶妙になって、感動したのにって思いました。
麗子 芸達者な役者を7人も集められんかったんちゃう?
純士 それもあるのかな。山賊メンバーのクイッグ役として小人症の俳優(ジョージ・アップルビー)が出てて、素晴らしい演技を見せてくれたけど、あのクオリティーの小さな役者を7人も集めるのは確かに難しかったのかもね。
次に残念だったのは、白雪姫と恋仲になる山賊のボスのジョナサン(アンドリュー・バーナップ)。あいつがあまりにも綺麗すぎるというか、フィギュアスケートの男子選手みたいな優男だったから、全然山賊に見えないし、頼りなく感じました。おかげでクイッグの勇者ぶりが一層引き立ったとも言えるけど、ジョナサンは主役の1人なんだから、もっとワイルドな存在感を見せて欲しかったです。
そして、ラストにも腹が立ちました。あれ、ピークに入るのが早すぎますよ。ボリウッド映画みたく、歌えや踊れやのグランドフィナーレがいきなり始まっちゃった印象だけど、ああなる前にちょっとした溜めや工夫があれば、ピークがもっと盛り上がったと思うんです。
例えばジョナサンとキヨスクがキスをしそうになるけど、周囲の視線を感じて寸前でストップ。場を取り繕うためにジョナサンが「♪ラララララ〜、今のはなんでもないのさ〜」と照れ臭そうに歌い出すけど、それに対してクイッグが「♪俺は見てたぞ〜、ラララララ〜」と囃し立てつつ祝福する、みたいな流れがあったあとに、祝福の輪が、山賊、7人のこびと、そして小動物たちへと波及してって、歌えや踊れやのギアがぐんぐん上がっていく……みたいなプロセスを踏めば、クライマックスがもっと盛り上がったのに。ボクシングの世界戦だって、1ラウンドKOばかりじゃつまらないでしょう。
麗子 私は1ラウンドKOで終わりたいタイプやねん。何事もちまちまと回りくどいのはアカン。
純士 そんなこと言ってるけど、前にこの連載で、「セックスは長くて濃厚な前戯が重要」とか言ってたじゃないか。あれは嘘?
麗子 あれはホンマや(笑)。
ディズニーを上から見るお前は何モン?
――奥様はこの作品に満足できましたか?
麗子 物語の起伏と男女のキュンキュン要素がちょい足りへんかったな、ということを除けば、作品にはおおむね満足してます。ただ、今までの純士の感想を聞いて、「見方が浅いな。まだそのレベルなん?」と悲しくなりました。
純士 は?
――では、麗子さんの深い見方を教えてください。
麗子 天下のディズニーですよ? 炎上はすべて計算済みに決まってるじゃないですか。みんなに叩かれるような女優を使ったのも、原作ファンがヤキモキするような設定を導入したのも、全部計算です。じゃあ、今流行りの炎上商法を使ってまでやる意味は何か? それは、世界情勢を表すためです。日本で言うなら財務省が女王で、それが私利私欲のために民たちを苦しめて痛めつけてる。そうした世界情勢を1人でも多くの人に伝えるため、さらには、そんな中でも夢や希望はあるんだよということを伝えるためにこの映画は作られたんですよ。
純士 聞きましたか? そんな当たり前のことしか言えないんですよ、彼女は。
麗子 純士は、わかってなかったんやん!
純士 わかってたよ。それに、俺はまだまだ言いたいことがあるんだよ。
麗子 私が言うたから被せてきてんやん。負けたくないからって。じゃあ言いたいことの続きを言うてみぃや。
純士 映画界に限らずモデル界とかも、結構前から黒人やミックスやアジア人を使うのが当たり前になってる。それは「多様性を重んじてます」という世間向けのポーズとも取れるけど、ディズニーの場合はそうじゃなく、「皆を平等にしたい」という心の底からの愛なんですよ。それは全然いい。
麗子 全然いい、って何モンや? ディズニーを上から見るってお前は何モンや?
純士 麗子が言うように……。
麗子 ほら、真似した。
純士 違う、違う。本当にそうなんだよ。世界情勢を取り入れるのなんて当たり前。原作に沿うんじゃなく、現代の人類が抱えてる問題をさりげなく作中に取り入れつつ、ディズニー色に仕上げるのは当たり前中の当たり前。そんなことは重々承知の上で見たとしても、彼女が素晴らしすぎたってことを俺は言いたいの!
麗子 彼女って、私?
純士 違う! レイチェル・ゼグラーだよ。彼女が映画をすべて食ってしまった。この映画がなんで酷評されてるのかわからないね。逆張りしてるんじゃなくて、本当にそう思う。よくぞキヨスクを持ってきたな、と。俺、彼女が掃除してるシーンを見ただけで泣いちゃったもん。
麗子 おかしいやろ……。
純士 でもそうした感動に水を差す場面は他にもありました。例えば、リンゴのシーン。命を狙われる立場のキヨスクが、突然やって来た不審な老婆から手渡されたリンゴをまるで怪しむことなく口にするのは、いくらなんでも不自然でしょう。ああいうチープな展開は冷めるのでやめてほしかった。あと、ラスト近くの財務省解体デモみたいな場面で、お妃が「刺せるもんなら刺してごらんなさい」って感じでキヨスクにガラスの剣を差し出すけど、あのシーンも要らない。もしキヨスクが腹を括ってたら、ブスッと刺せたわけじゃないですか。
麗子 刺すわけないやん。ディズニーやで? 主人公が刺したらディズニーじゃなくなってまうがな。何を言うとんねん。
純士 麗子はお妃と同じで、本当に性格がひん曲がってるんだね。
麗子 は?
純士 お妃を演じたあの女優、美人なのかもしれないけど、内面の醜さゆえ、とんでもないブスに見えてきたから不思議だよ。
麗子 は? そんなん言われたら、私やったら迷わず刺すで。
純士 俺は鏡になって「この世で一番美しいのは、少なくともお前じゃねえよ」と言いたくなったわ。
麗子 でも純士は毎日、私に対して「可愛いねえ、世界で一番綺麗だなぁ」って言うてくれるやん。
純士 そう、俺は家でいつも鏡役をやらされてるから、鏡の気持ちがわかったんですよ。あの鏡が最後のほうで真実を言うじゃないですか。あの瞬間、「よくぞ言ってくれた!」と溜飲が下がりましたね。俺は普段言えないから……。
――と、舌戦の絶えない夫婦ですが、最後は2人揃って泣いていましたね。
純士 ネタバレになるから細かくは言えないけど、主人公の「記憶力」に号泣しました。あそこがハイライトかな。
麗子 純士ほど大泣きはせえへんかったけど、あそこは確かウルッときたわ〜。
純士 あとは繰り返しになるけど、掃除のシーンも泣けた。
麗子 う〜ん、そこは同意できへん。人が掃除してるだけやで? そんなんで泣くってどうかしてる。ひょっとして純士、男の更年期なんちゃう?
純士 お妃には、俺の気持ちはわからないんですよ……。
麗子 ほな、聞くで。この世で一番美しいのは誰?
純士 …………。
麗子 なぁ? なぁ? なぁ? 言うてみぃ。この世で一番美しいのは誰や?
純士 少なくとも、麗子ではない!
(取材・文=岡林敬太/撮影=ひよっけ)
『白雪姫』瓜田夫婦の採点(100点満点)
純士 75点
麗子 65点