グレート義太夫の楽しい糖尿病生活、「透析しなきゃいけない」と思うか「透析すればラーメンが食べられる」と前向きに考えるか──

たけし軍団として芸能界デビューし、現在は株式会社TAPに所属するお笑い芸人・グレート義太夫。その芸歴はもちろんのこと、糖尿病歴30年、人工透析歴17年という、まさに闘病歴も“ベテラン”の域に達している。
一見すると暗くなってしまいそうな闘病生活だが、当の本人は「現実はそこまで辛くない」と語る。
病気を笑いで吹き飛ばし、糖尿病患者向けの講演会でもそれを漫談のように笑いに変えてしまう……。そんな彼に、現在の闘病生活について話を聞いた。
30代中盤で発覚した糖尿病
――長らく糖尿病と闘ってこられたそうですが、発症はかなり若いときだったそうですね。
グレート義太夫(以下、義太夫) 1995年、36歳の頃かな。ちょうど、三又又三が主催する芝居に出たときでね。だから、みんなで「アイツのせいだ!」なんて冗談言ってたよ(笑)。病院の先生には「このまま放っておくと、将来は人工透析になりますよ」と言われたんだけど……。まぁ、放っておいたんだよね。そしたら案の定、どんどん悪化しちゃってさ。
――糖尿病だと発覚したきっかけは何だったんですか?
義太夫 とあるTBSのバラエティ番組で「デブリンピック」という企画があったんだよ。体重が110キロあるってことで呼ばれて参加したんだけど、番組中に体重計に乗ったら実際は95キロしかなくて。「お前、番組出たくて体重サバ読んだだろ!」と言われちゃってさ。でも、運動もしてないし、食事療法もしてない。普通に暮らしているのに、どんどん体重が減っていったんだよね。それで「なんか、おかしいな」と思い始めたのがきっかけかな。季節は夏だったんだけど、水をいくら飲んでも喉がカラッカラで。しかも、トイレもやたら近くなってて。夏バテかと思って病院に行ったら、先生に「腎機能がかなり低下しています。すぐ入院してください」と言われたんだ。
――糖尿病になると、急激に痩せていくという話はよく聞きますよね。
義太夫 そうそう。でも、最初はただの夏バテだと思っていたわけだからさ。「なんで、入院しなきゃいけないんですか?」と聞いたら、「かなり進行した糖尿病です」と言われて。実はその入院中に、27時間テレビがあって。どうしても出たかったから、特別に外泊許可をもらって出演したんだよ。それで、収録中に隠れてインスリン打っていたら、ザ・ドリフターズの荒井注さんがスッと近づいてきてさ。「何? 糖尿病なの?」と声かけてくれてね。尊敬してた大先輩と糖尿病がきっかけで話せたのは、うれしかったな。
――そんなエピソードがあったとは驚きです。ちなみに、健康診断には行っていたんですか?
義太夫 行ってたよ。でも、そのときは何も数値が出なかったんだよね。だから、急にガクンときたという感じ。うちの親父も糖尿で亡くなっているから、きっと遺伝なんだろうね。糖尿病というのは、自分では自覚症状が出にくいんだよ。薬を飲んだり、決まった時間にインスリンを打ったりするんだけど、効いているのか、効いていないのか自分ではわからない。それで勝手に「もう大丈夫だろ」と思って、通院をやめちゃうんだよね。でも、しばらくするとまた悪化してる。その繰り返しで、ついに2007年に糖尿性腎症になって、人工透析を始めることになったんだ。
週に15時間の人工透析……慣れれば楽しい?

――あまり先生の言うことを聞かなかったんですね。
義太夫 うん、先生にいろいろ怒られても、ずっとヘラヘラして誤魔化していたんだよね。そんなある日、番組の収録でタイトルコールをした瞬間に、意識を失って倒れちゃってさ。すぐに目は覚めたんだけど、「一度病院に行ったほうがいい」と言われて検査したら、透析が必要なレベルをはるかに超えていて、血液も相当汚れていたんだ……。それで、また入院だよ。最初は週1回、1時間半くらいの透析だったのに、先生の言うことを聞かなかったら、どんどん悪化してさ。週2回になり、2時間から3時間から今では週3回、1回5時間も透析しなきゃいけない体になっちゃったよ。
――聞き馴染みはありますが、透析はどういう作業なんですか?
義太夫 腎臓が機能しなくなっているから、血液が汚れたままになっちゃうんだよね。それを機械の腎臓に通して、濾過してきれいにしてから体に戻すのが透析。それと、体に溜まった水分を抜く作業もある。もう体の構造上、おしっこも出なくなっちゃっているから、透析をしないと体に吹き出物がたくさんできるんだよ。白内障にもなって手術したし、体はもうボロボロだね(笑)。
――透析中の5時間はかなり長いと思いますが、どんなふうに過ごしているのでしょうか?
義太夫 基本的には、ネタを考えてるよ。透析患者というのは「病院に縛られて自由な時間がない」と思われがちで、気分が落ち込む人も多いけど、そんなことないと思う。だって、週に3回、5時間も暇な時間があるんだよ? 映画を見ても、本を読んでも、何をしてもいい“自由な時間”だと思えば、これって結構いい生活だと思わない? 糖尿病患者というのは悲観的になりがちだけど、実際はそんなに暗くないと俺は思ってる。
――糖尿病を患うと、さまざまな合併症を併発する恐れがあると聞きます。義太夫さんは昨年、突如入院されていましたよね。
義太夫 糖尿病になると心筋梗塞のリスクが上がるんだけど、ついに去年、発症しちゃってさ。でも、運が良かったのは、透析中に異変が見つかったことだね。血圧が最高70まで上がってしまい、「即入院してください!」と言われてしまった。思い返してみれば、家の近くのコンビニに行くだけでも息切れして、途中で休憩しないと辿り着けなかったんだよね。今思えば、あれ完全に心筋梗塞だったんだな。道端や家の中で倒れなくて本当によかった。実は、体からのSOSは何度も出ていたんだけど、全部無視していたからさ。幸いだったのは、お酒を一切飲まない生活だったこと。「もし、その状態で酒を飲んでいたら、確実に死んでいた」と、お医者さんにも言われたよ。
65歳を過ぎて電気が止められた……
――かなりギリギリの、死の淵を歩くような生活をされていたんですね……。
義太夫 うん、でもさ、先生の言うことを聞かなかったからこうなったのに、まだ言うこと聞いてないところもあるんだよ(笑)。去年入院していたときもそう。病院食というのは味が薄くて淡白でしょ? だから辛くてさ、お見舞いに来てくれた人に「ふりかけ持ってきて!」とお願いして、こっそり使っていたんだよ。その病院食をブログに載せたとき、うっかりふりかけも写っちゃってさ……。そしたら先生にめちゃくちゃ怒られた! まさか、先生が俺のブログ見ているとは思わなかったよ(笑)。
――先生の言うこと、全然聞いてないですね(笑)。でも、そういう生活だと仕事のスケジュール管理も大変そうです。今はどんな感じでお仕事されているのでしょうか?
義太夫 基本的には透析を中心にスケジュールを組んでいるよ。今ある仕事は、主にライブ出演、自分のYouTube番組、それからゲームや舞台の音楽制作、原稿執筆、あと医療関係者向けの講演会だね。講演会は「患者向け」と「医者向け」があって、患者向けのときは医者の悪口を言って、医者向けのときは患者の悪口を言う。そうするとウケるんだよね〜。ライブの仕事でいうと、浅草の東洋館に隔月で出演しているのがメイン。あとは呼ばれて、透析のスケジュールと被らなければ出演させてもらうという感じかな。内容としては、漫談か音楽のどちらかだね。
――ライブは、やっぱりコロナ禍でかなり打撃を受けたのではないでしょうか?
義太夫 うん、あの時期は本当につらかった。なにがつらいって、ライブハウスを借りて「無観客で漫談やってくれ」というオファーがあったんだけど、オーガナイザーとスタッフだけの前でしゃべるわけ。もうね、虚空に向かって話しているみたいでめちゃくちゃ寂しいの(笑)。「配信では見ている人いますよ!」と言われても、生の笑い声がないから、「え、これウケてるの?」「大丈夫かな?」「おもしろいのかな?」と思いながらやっていたよ……。
――確かに。無観客配信しかできなかった時期がありましたよね。コロナ禍で、特につらかった出来事はありますか?
義太夫 うーん……電気が止まったことかな(笑)。クレジットカード払いにしていたんだけど、そのカードが止まっていたみたいで、支払いが滞っていたんだよね。ある日家に帰ったら、電気が全部点かない。唖然としてポストを開けたら、そこに未払いの請求書が入っていて、「あぁ〜、やっちまったな」と思ったんだ。すぐ支払いに行ったんだけど、発覚したのが金曜の夜でさ。翌日から土日だから、電気が開通できなかったんだよ。2日間、家が真っ暗でシーンとした状態。だから、もう「電気泥棒の旅」に出るしかなかった(笑)。コンビニのイートインスペースで時間つぶしたり、マクドナルドでコンセントを借りてスマートフォンを充電したりしてさ。「この歳になってまで、こんな生活しているのか……」と、さすがにガックリきたね。
糖尿病だけど好物は家系ラーメン

――コロナ禍が明けてしばらく経ちますが、ライブの動員は戻ってきましたか?
義太夫 だいぶ戻ってきたよ。でも、コロナ禍のひどい時期は本当につらくてね。東洋館の広い会場にお客さん3人だけということがあって、さすがにガックリきた。「お客さん、どこ行っちゃったんだよ……」と思ったよ。今は浅草にも人が戻ってきて、かなり賑わっているけど、ちょっと残念なのが、ほとんど外国人観光客なんだよね。やっぱり言葉の壁があるから、外国人がお笑いを見に来ることはあまりないんだよ。
――今の生活で「これは大変だな」と思うことはありますか?
義太夫 食事制限だね。1日の摂取カロリーを1800キロカロリー以内に抑えないといけないんだ。俺、家系ラーメンが好きで週に2〜3回食べるんだけど、食べちゃうと、その日はもうほかのものが食べられない(笑)。それでも、透析の前日と透析直後の翌日は、血液がきれいな状態だから、そういうときに好きなものを食べるようにしているよ。あと、大変なのが水分制限。1日1リットルしか飲めないんだよ。今朝コーヒーを2杯飲んじゃったから、今日はもうほとんど水分が取れない。なんせ、腎臓が機能してないから、おしっこが出ないんだよね……。
――かなり大変ですよね。医療費とかも高そうですし、生活は大丈夫ですか?
義太夫 幸いなことに、東京に住んでいると透析の医療費は無料なんだよ。それに障害者手帳の1級を持っているから、バスや電車の運賃も安くなるし、映画館も割引される。まぁ、電車は窓口で手続きするのが面倒だから、普段はSuicaで移動しているけどね。あと、便利なのが、路上駐車してもキップを切られないところかな。警察署で「駐車禁止等除外標章(身体障害者等用)」を申請して、車のフロントガラスのところにプレートを置いておくだけで、駐禁を取られないんだ。
――そんな利点もあるんですね。
義太夫 でもね、一度だけ駐禁取られたことがあるんだよ(笑)。横断歩道の前後5メートル以内に停めてはいけないというのを知らなくて、そこに停めてしまって、罰金1万8000円払うことになった。とはいえ、高速道路代も半額だったりするし、車を使う人にはかなり優遇されているよね。それから、「透析が週3回もあると地方に泊まりで仕事や旅行なんて無理じゃないか?」と思われがちだけど、事前に予約すれば、地方の病院でも透析を受けられるんだよ。一旦は2万円くらい自腹で払う必要があるけど、東京に戻って申請すればお金は戻ってくる。だからさ、「人工透析だから大変だ」と思い込まないことが大事なんだよ。「透析しなきゃいけない」と思うか、「透析すればラーメン食べられる!」と思うかの違い。なるべくポジティブに考えていけば、けっこう楽しく暮らせるよ。
(構成・写真=山崎尚哉)
グレート義太夫(ぐれーと・ぎだゆう)
1958年12月26日生まれ。東京都出身。ビートたけし率いる「たけし軍団」の一員として、黄金時代を支える。1995年に糖尿病と診断され、2007年からは糖尿病性腎症による末期腎不全のため、透析治療を開始。現在もお笑い芸人・ミュージシャンとして活躍中。
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