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時間を決めて話し合うことが大切…「結婚しなさい」と言う親と結婚したくない30歳を超えた子どもたち

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早くこれになりたい親たち(写真:Getty Imagesより)

 30歳を過ぎると、きょうだいや友人が次々と結婚していく。そうなると、「結婚しなさい」「家庭を持ちなさい」と言い出す親も多くなる。

 子どもとしては親の気持ちもわかるが、若い世代の中には「結婚したくない」「子どもはいらない」という価値観を持つ人も少なくない。

 しかし、その気持ちを正直に伝えても、親世代にはなかなか理解されず、親子の関係がギクシャクしてしまうこともある。

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「結婚しなさい」とうるさい親たち

 佐藤美鈴さん(仮名・32歳)は独身で、現在はワーキングホリデーでオーストラリアに滞在中。結婚願望はなく、自由気ままに暮らしているが、両親は「いつ結婚するの?」とうるさく聞いてくる。

「パートナーはいますが、結婚はしたくありません。『今やりたいことをやろう』と思ってワーホリに行くことにしたのですが、親からは『帰国後に結婚するなら行ってもいい』と条件を突きつけられました」

 美鈴さんは親の反対を押し切ってオーストラリアへ。結婚したくない理由は、子どもの頃に見た家庭の雰囲気にある。母親が祖父母にいじめられていた姿を見ていて、結婚が幸せなものには思えなかったという。

「両親の仲もよくなかったので、わざわざ結婚する意味が見つからないんです。パートナーのことは好きですが、昔から親に人生を決められている感覚があって……。結婚してまた親に縛られるのは嫌なんです」

 都内に住む篠田勇人さん(仮名・30歳)も、実家に帰るたびに結婚について遠回しに言われるという。

「パートナーがいないことはすでにバレていると思うのですが、『あの狭い家から引っ越さないの?』と毎回聞かれます。『誰かと一緒に住みなさい』ということを遠回しに言ってきているんですよね」

 このような状況において、親と子どもがどのようにして溝を埋め、健全なコミュニケーションを築いていけるのか? 家族カウンセラーの柿澤一二三さんにアドバイスを求め、親子間の対話の在り方について考える。

なぜ親は子どもに結婚してほしいのか?

――心配する気持ちもわかりますが、そもそも親はなぜ子どもに「結婚しなさい」とうるさく言うのでしょうか?

柿澤一二三さん(以下、柿澤) 親自身の見栄やプライドもありますし、周囲からの影響も大きいですね。「おたくの娘さんは、いつまで結婚しないの?」「息子さんは、どうしてるの?」などと親戚や知人から聞かれて、そのまま子どもにぶつけてしまう人は多いと思います。

――子どもからすれば「そんなこと言われても……」という気持ちになりますよね。

柿澤 そうですよね。ただ、言い方のせいでうまく伝わっていないだけで、実際には本当に心配して言っている親が大半だと思います。それに「結婚しなさい」という言葉の裏にあるのは、結婚そのものではないケースもあると思うんです。

――「孫が欲しい」以外に理由があるんですか?

柿澤 例えば「この子が病気になったとき、誰か助けてくれる人がいるのだろうか?」とか「ひとりで悩みを抱えているんじゃないか?」という不安ですね。親としては、自分がいなくなったあとに、誰かがそばにいてくれたら安心だという気持ちなんですよ。

――筆者の場合、東京に住んでいて親は地方にいるのですが、心配するのはやはり生活の背景が見えないからでしょうか?

柿澤 それもあると思います。そもそも、情報が少ないということが大きな原因ですよね。例えば、親は「なぜうちの子は結婚しないんだろう?」と考えますが、実際には「結婚したくない」よりも「結婚したいけど、そもそも出会いがない」という人が多いんです。

――それは、どういうことでしょうか?

柿澤 内閣府の「平成30年度 少子化対策に関する意識調査」では、30代の男女ともに「そもそも身近に同世代の未婚者が少ない(いない)ため、出会いの機会がない」という回答がもっとも多いんです。つまり、結婚したくても、まず対象となる相手がいないという現実があります。

――確かに。それは大きな問題ですね。親の中には「年齢がくれば自然に結婚できる」と思っている人も多そうです。

柿澤 そうなんですよね。親世代は新しい情報に触れる機会が少ないので、自分の周囲の価値観で物事を捉えがちです。それに、田舎のほうが都会に比べて結婚年齢も早いし、結婚している人も多い。だから「今の時代は違う」ということを受け入れる前に、そもそも知らないことが多いんです。

――つまり、「知らないからこそ不安になる」ということですね。

柿澤 だからこそ、子どもが親に情報を伝えてあげることが大切です。やはり、関係性の構築が何より重要だと思います。

――関係性をよくするためには、どんなコミュニケーションを取ればいいのでしょうか?

柿澤 相手の話を聞くことが大切ですね。子ども世代が関係をよくしたいなら、まずは親の愚痴を聞いてあげるのが一番だと思います。例えば「どうして結婚してほしいと思ってるの?」「お母さんは、結婚したら安心できる?」などと聞いてみると、「実はね……」と、親の本音が聞けることもあります。

良好な話し合いのための「時間制限」

――子どものほうから素直に質問してみると。

柿澤 そうです。どんな些細なことでもいいので、話を聞くことで案外いろいろ話してくれますよ。親が素直に気持ちを話してくれたら、子どもも少しは歩み寄れるじゃないですか。普段あまり話さない親でも、子どもが寄り添う姿勢を見せれば変わってきます。

――親も不安があるからこそ、頭ごなしに言ってしまうんですね。

柿澤 「うちの子は絶対大丈夫」と思えないと、親の不安は消えないんですよ。親世代は社会との関わりも減ってきて、精神的にも身体的にも、親自身も老いを感じていますから、不安がさらに大きくなることがある。それを受け止めて、「私は大丈夫だよ」と言ってあげることが、安心につながると思います。母親の場合「母子一体感」が強いと特に感じるのではないかと。

――やっぱり、普段からこまめにコミュニケーションをとって、情報を共有することが大事なんですね。ただ、話しすぎるとこちらが疲れてしまうこともあります(笑)。

柿澤 それは仕方ないです(笑)。疲れるときは、話す時間を決めてもいいと思いますよ。「今ちょっと時間あるから、10分だけ話さない?」という感じで。人というのは、心を開いた瞬間に、溜まっていたことを一気に話してしまうものなんです。

――「話しているうちに止まらなくなって」ということですね。

柿澤 だからこそ、時間を区切って、子どもも少しずつ心の扉を開けながら、親の扉も少しずつ開けていく。限界を感じたら「ごめん、ちょっと仕事があるから」と切り上げても大丈夫です。少しずつ距離を縮めていけばいいんです。

――やっぱり、自分で距離感を調整することが大切ですね。

柿澤 その「調整力」は、親子関係だけでなく、社会に出てもとても大事なスキルです。職場でも、友人関係でも、恋愛でも、すべての人間関係に通じるコミュニケーションの基本だと思います。

――本当にそうですね。

柿澤 家族と良好な関係を築くためには、まずは「話を聞く」ことが基本です。カウンセリングでも同じですよ。それに、実際に自分が困ったときに助けてくれるのは、やっぱり親だったりするものです。「私も助けるけど、困ったときはお母さん(お父さん)も助けてね」と言える関係性を目指せるといいですよね。

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柿澤一二三(かきざわ・ひふみ)
心理学のスキルと二男二女、4人の子育ての経験を融合して平成22年に家族カウンセリング研究所を設立し、家族カウンセラーとして独立。講演活動のスキルアップのため、劇団文学座プラチナクラスを卒業。カウンセリング、講演活動を行う一方で、令和6年には、駒澤大学仏教学部を卒業し、宗教者として子育てや人生の悩みに寄り添っている。一般社団法人家族心理士・家族相談士資格認定機構の家族相談士、日本メンタルヘルス協会の公認カウンセラーの資格を取得、浄土真宗本願寺派僧侶、日本家族心理学会に所属。

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(構成・文=桃沢もちこ)

桃沢もちこ

1993年生まれ、愛知県出身。東京都在住のフリーライター。社会問題からトレンド、著名人のインタビュー、体験レポなど幅広いジャンルで執筆。

桃沢もちこ
最終更新:2025/06/03 12:00