フジテレビを見返した? 10周年を迎えた「RIZIN」の巻き返しと今後の課題

今年で10周年を迎えた格闘技イベント、RIZINのビッグマッチ『RIZIN男祭り』が5月4日に東京ドームで開催され、約4万2000人を動員した。
当初、同イベントのメインは昨年7月のビッグイベント『超RIZIN.3』で平本蓮に敗れて戦前の宣言どおりに引退した朝倉未来の復帰戦&平本へのダイレクトリマッチが予定されていたが、平本の負傷によってカードが消滅。
目玉カードの一つが失われる格好となったが、それでもオープニングから榊原信行CEOがふんどし姿でリングに立って盛り上げ、ヘビー級(120.0kg以下)トーナメントの1回戦では元極真空手世界王者の上田幹雄がローキック2発で快勝。
メインのフェザー級タイトルマッチでは、これまで柔術技で対戦相手を極めまくっていた王者、クレベル・コイケが、過去無敗のキルギス人ファイターのラジャブアリ・シェイドゥラエフに秒殺され王座が移動した。
そうした中、朝倉は同じフェザー級(66.0kg以下)の元王者の鈴木千裕に完勝して復活ののろしを上げた。
「オープニングファイトからメインまで約9時間の長丁場。当初は対戦カードが弱い気もしましたが、観客は4万人を突破するなど興行としては成功に終わったのではないでしょうか。これまでのRIZINのビッグマッチではフロイド・メイウェザーやマニー・パッキャオらファイトマネーが高額なボクシング界のレジェンドを投入しましたが、今回、それはなかった。経費が大幅に削減できた点も見逃せませんね」(スポーツ紙の格闘技担当記者)
数々の激闘が繰り広げられて興行的にも盛り上がりを見せた今回の『RIZIN男祭り』だが、大会開催前から話題作りという点で貢献度の高さが目立ったのが、現役のフジテレビ社員で試合出場を巡って同局と揉めていたキックボクサーのウザ強ヨシヤだろう。
格闘技ライターは振り返る。
「フジの社員であることを公表しているウザ強選手は、会社に無断で記者会見に出席し、榊原氏に直談判で試合に出たい意向を伝えたことでフジから戒告処分を受けていることを明かし、注目を集めました。試合ではKO負けを喫したものの、RIZIN名物の選手入場前の“煽りVTR”では、なんと世間を騒がせているフジを巡る一連の問題の“元凶”とされる中居正広がメンバーだったSMAPの名曲『ダイナマイト』をBGMに。ウザ強選手の『会社はお通夜みたい』や『人事に呼ばれて、辞めるか出るか二択。首になるかも』などとの談話が映像として挿入され、テロップやナレーションでも《めちゃめちゃイケてるフジテレビを取り戻したい》、《YOU、言っちゃいなよ!!》などやりたい放題で会場を沸かせていました」
中居氏による“性暴力騒動”がいまだ同局に暗い影を落としている中、現役社員ファイターの煽りとしては何とも攻めた演出となったが、そもそもRIZINとフジは因縁浅からぬ仲でもある。
芸能ジャーナリストの竹下光氏は語る。
「00年代前半には大晦日特番として格闘技イベントPRIDEの大会を中継放送して高視聴率を獲得していたフジは、2015年の旗揚げから21年まで同じく大晦日の目玉番組としてRIZINの大会を特別番組として放送していました。しかし、22年以降は『逃走中』の大晦日スペシャルに切り替えるなど距離を置いています」
RIZINの放送が打ち切られた要因としては、フジの経営悪化によるコスト削減や番組編成上の兼ね合い、視聴率の低下、さらには当時一部週刊誌で報じられた榊原氏と反社会的勢力との交際疑惑、新型コロナの融資制度をめぐる詐欺事件で逮捕された女性市議が同団体に数億円の出資をしていた問題などの影響が取り沙汰されたが……前出の格闘技ライターはこう話す。
「榊原さんの疑惑に関しては本人が否定していましたからね。それにフジ側は『総合的な判断』としか説明していないので、打ち切りの真相は今もって藪の中。いずれにせよ、RIZINはかつての盟友だったフジに見限られたうえ、その後すぐにコロナ禍になったことで感染拡大対策のために観客動員にも制限がかかることになり、苦境に立たされます。それでもそこから巻き返し、U-NEXTやABEMAの配信でフジの放映権料を大きく上回る収益を得ることになります。その一方、フジはRIZINの後を受けて大晦日に放送している『逃走中』がここ2年間、平均世帯視聴率で他の民放の後塵を拝してダントツの最下位に。さらに世間を騒がせていた一連の問題で未曾有の危機的状況に陥っています。元フジでフリーの鈴木芳彦アナはフジ時代は副部長の肩書きにありながら、格闘技の実況を熱望し、22年9月に退社して今はRIZINを中心に活躍を見せていますが、ある意味で先見の明があったのかもしれませんね」
今月には韓国大会、来月には札幌大会も決まり、年末に向けてさらなる盛り上がりを見せそうなRIZINだが、今後に向けた課題もあるという。
「元バンタム級(61.0kg以下)王者で未来の弟の朝倉海、元バンタム・フライ級(57.0kg以下)王者の堀口恭司はすでに世界最大の格闘技団体UFCに移籍。未来は今後も参戦継続すると思われますが、まだ次世代を担う新星は台頭していません。開催中のヘビー級、今後開催予定のフライ級トーナメントの王者を日本人が獲得すれば新たなスター候補として大きな注目を集めるでしょうし、RIZINサイドも猛プッシュするでしょう。しかし、外国人が王者になった場合、ドライなので今後の参戦もファイトマネー次第になりそう。例えばシェイドゥラエフの場合まだ無敗なので、防衛戦を行わないままUFCに引き抜かれてしまう可能性もある。そうなったらただのUFCの“草刈り場”になってしまいますからね」(格闘技業界関係者)
袂を分かったかつての盟友が経営危機に陥る中、今大会を成功させた「RIZIN」だが、来年以降のさらなる飛躍のためには世界で通用するスター性のある日本人選手の育成が急務となりそうだ。
(取材・文=CYZO sports)