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ネトフリ『新幹線大爆破』、賛否も1位キープの圧倒的快進撃 樋口真嗣監督が“進撃の悪夢”から“最高傑作”と言われるワケ

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樋口真嗣監督(写真:Getty Imagesより)

 Netflix映画『新幹線大爆破』(2025)が国内外で好調だ。4月23日に配信を開始すると、同サービスの映画ランキングにおいて、初週は世界80カ国でTOP10入り。さらに2週連続で日本1位、世界2位(映画/非英語)を記録し、4週目を迎える今も日本では1位をキープしている。

ネトフリランキング「コナン祭」

 本作は、1975年公開の映画『新幹線大爆破』を原作に、設定を現代日本にしたリブート版。新青森発の東京行き新幹線「はやぶさ60号」に時速100kmを下回ると起爆する爆弾が仕掛けられ、草なぎ剛演じる車掌・高市らが犯人とノンストップの攻防戦を繰り広げるパニック映画だ。

「メガホンをとった樋口真嗣監督は『ガメラ 大怪獣空中決戦』(1995)で第19回日本アカデミー賞特別賞特殊技術賞を受賞したほか、特撮史を切り拓いたゴジラやウルトラマンをリブートした『シン・ゴジラ』(2016)、『シン・ウルトラマン』(2022)などを手がけた“特撮の名手”。

ただ樋口監督は、特撮はよくても人物の描写がイマイチだと有名で、映画ファンにとっては『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』(2015)の爆死が根深い。全世界で1億4000万部突破という大人気原作の実写版ですが、随一の人気キャラクターが未登場、不必要なロマンスシーンの追加など、大胆なリメイクがことごとく不評で、今回も “進撃の悪夢再来”を警戒した人も多かったようです」(映画ライター)

 実際、Xには〈やっぱり樋口真嗣監督の人間ドラマ部分は全然合わない〉〈脚本と人物設定が酷すぎて途中で挫折。新幹線の演出や迫力はよかったが、ただただそれだけ〉等、人物描写を酷評する声は少なくない。

 とはいえ、ランキングでまごうことなき「1位」を継続しているのは事実。“進撃の悪夢”を記憶する人のなかにも〈気になる所や粗はありますが、樋口真嗣単独監督作で最高傑作であることは間違いないです。進撃の巨人で失望してる人は騙されたと思って観てみるといい〉〈過去実写作品『進撃』等々のことは忘れて見てほしい〉と、いい意味で裏切られたという声も散見される。

 評価を一転させた人たちは、一体何に心を掴まれたのか。登録者数7.5万人、小気味のよいユーモラスな解説と忖度のない批評が人気の映画系YouTuber・沖田遊戯さんに、その理由を紐解いてもらった。

人物描写そっちのけ、樋口監督「らしさ」とは

 本作について「面白かった!」と言う沖田さんは、「ほんとキャラクターの描写はむちゃくちゃで、ツッコミどころしかない。全く感情移入できないですよね」と笑いつつ、「“樋口印”ならこうなる、を体現してくれた」という。

「日本では監督が誰かよりも、作品が描く一般的な共感性やメッセージ性を評価する傾向がありますが、樋口監督は、『自分らしさ』に振り切る。それはつまり特撮部分で、“フェティシズム”ともいえる見せ方のこだわりが今回も詰まっていました」(沖田さん、以下「」内同)

 樋口特撮の“フェティシズム”は、能楽師の野村萬斎を起用し、能や狂言のエッセンスを散りばめた『シン・ゴジラ』や、初代ウルトラマンの制約された質感や動きを表現した『シン・ウルトラマン』などでも見られた。ただしフェチを追求するあまり、リアリティが損なわれているという指摘もある。

「たしかに、今回も合成感があるカットは正直見受けられます。でも樋口監督は、あえてリアルよりも“カッコよく見せる”ことを重視する部分もあって、好き嫌いが分かれるところですが、僕はそこにロマンを感じますね。疾走する新幹線を横からとらえるシーン(33分頃)では、わざとカメラをブレさせて撮っていて、もうウルトラマンが飛んでるシーンに見えたりして。

 メイキングで草なぎさんは、『リアルな新幹線の鼓動が聞こえてくる』と話していましたが、まさに、無機物に魂が込められている。ほかにも新幹線同士がすれ違いざまにぶつかるシーンは『シン・ゴジラ』の“蒲田くん”が突進しているかのようなアングルで、もはや新幹線が生きているかのように描かれます。その躍動感あふれるさまは怪獣っぽくもあり、ああ樋口さんはこれを撮りたかったんだなと。衝突して新幹線の先頭部に傷がつくのも『顔に傷がついても頑張るんだ!』っていう、厨二感溢れるカッコ良さの演出に思えます。

 ドッキングするために頭のない新幹線が走るカットも、めっちゃ好きですね。断面が走ってくるなんて、ほんとメカっぽくて。しかもその新幹線を“撮り鉄”の人たちが追うシーンには、オタクを感じざるを得ません。『新幹線大爆破』は、これでもかという樋口監督の圧倒的なフェティシズムが溢れていて、人物描写に関しては、もはや“樋口監督だもんな……”と諦めさせてくれるんです(笑)」

これは「パニック映画」ではなく、「お仕事映画」なのだ

 一方で、樋口監督が「人物」像をまったく無視しているわけではない。

 徹底した職人ともいえる樋口監督は、沖田さん曰く「プライドをもって仕事に向き合う職人感や、一つの組織として難題に立ち向かう姿を描きたい人」。それは『シン・ゴジラ』でゴジラ対策を指揮する矢口(長谷川博己)や『新幹線大爆破』の総括指令長・笠置(斎藤工)が奮闘する姿などに象徴される。

 また、1975年版ではパニックとなった乗客たちが激しい暴動を繰り広げる様子もあったが、リブート版ではプチパニック程度で、“それほど”でもない。

「樋口監督はパニックの中、いかに冷静でいられるかというプロ根性、職人魂を提示したいのでしょう。『シン・ゴジラ』でも一般人が逃げ惑うカットはそこまで多くない。有事の際、平静を保って判断を下す姿こそがカッコいいんだ、というメッセージのようにも思えます。困難の解決という目標に向かって、各自が自分のできることを精一杯やるという日本人ならではのチーム感の表現も“樋口印”。リブート版『新幹線大爆破』は、パニック映画ではなく“お仕事映画”なんです」

なんだかんだいって、「3週連続1位」が意味すること

 樋口監督のオタ魂が詰め込まれた本作。そのオタ魂を受け止められるかどうかは人それぞれだろうが、「3週連続1位」は何を意味するのか。

「オタクって、語らせたら止まらない生き物じゃないですか。樋口監督も『ここ、カッコいいでしょ!?』っていうのを、画面を通じて全力で伝えてくる。それがだんだん見る側に『これが撮りたかったんだな』と伝わるようになってきたということではないでしょうか。樋口監督の“オタクパワー”が世間に浸透してきたともいえます。

 もちろん、人間臭さを掘り下げたらもっと面白く、受け入れられる人はもっと多くなるだろうなと思いつつ、それをしないのもまた樋口監督なんですよね。フェティシズム溢れる特撮や、何が起こっても『仕事』をやり遂げようとする日本人の職人気質を映すのは、樋口監督ならでは。その意味で樋口監督は、人間ドラマを紡ぐ脚本家ではなく、どこまでも『監督』なんだと思います」

 草なぎもメイキングで、「樋口監督はこれを撮るために、今までの作品を撮っていたんだなと思える」と口にしていた。作品には批評がつきまとうものだが、これまで突き進んできた樋口監督の“オタ道”が、まんまとファンを育てていることは間違いなさそうだ。

人はなぜ『SPEC』が好きすぎるのか?

(取材・文=町田シブヤ)

●沖田遊戯の映画アジト
https://www.youtube.com/@EIGAYUUGI

町田シブヤ

1994年9月26日生まれ。お笑い芸人のYouTubeチャンネルを回遊するのが日課。現在部屋に本棚がないため、本に埋もれて生活している。家系ラーメンの好みは味ふつう・カタメ・アブラ多め。東京都町田市に住んでいた。

X:@machida_US

最終更新:2025/05/16 22:00