『キングダム 大将軍の帰還』初オンエアで「大沢たかお祭り」が再び開催か?

古代中国の戦国時代を舞台にした人気コミック『キングダム』(集英社)は、実写映画『キングダム』(2019年)が興収57.3億円の大ヒットを記録し、続々とシリーズ化されています。四部作完結編となる『キングダム 大将軍の帰還』(2024年)は興収80.3億円とシリーズ最大のヒット作となりました。
7月11日(金)の『金曜ロードショー』(日本テレビ系)は、『大将軍の帰還』を本編ノーカットで初オンエアします。放映時間は1時間前倒しの夜7時56分からなので、要注意です。
タイトルに謳われているとおり、大沢たかお扮する大将軍・王騎が全面的にフィーチャーされており、SNS上で「大沢たかお祭り」が盛り上がるかどうかでも注目を集めそうです。
実写化成功の立役者・大沢たかおの見納め
大将軍になることを夢見る若者・信を山﨑賢人(スターダスト)、中華統一を目指す若き日の始皇帝を吉沢亮(アミューズ)、さらに新たなる敵将・李牧を小栗旬(トライストーン)と、まさに『キングダム』は、ジャニーズ帝国滅亡後の日本芸能界の覇権を争う物語を思わせます。
誰がこれからのショービジネス界を牽引していくことになるのか? 人気俳優たちのタレントパワーがぶつかり合うところが、実写版「キングダム」シリーズの面白さではないでしょう。四字熟語にすると「虚実皮膜」の世界です。
これまでは戦局を一歩引いた立場から見守ってきた大沢たかお演じる王騎ですが、敵対する趙国の総大将との激突シーンが今回の大きな見せ場となっています。大将軍・王騎を演じるために体重を20kg増量し、「ンフフフフ」と笑う大沢たかおの怪演がなければ、おそらく実写版「キングダム」はここまでの人気シリーズにはなっていなかったはずです。
どんな状況でも動じることなく、不敵な笑みを浮かべ、八面六臂の活躍を見せる王騎/大沢たかおは、子育てや家事に追われる母親たちを魅了し、SNS上で「大沢たかお祭り」と題した大喜利的投稿が相次ぐという意外な人気を集めました。
大将軍になるには強さだけでなく、人心を掌握する人間的な器の大きさも必要なことが分かります。王騎の活躍は今回で見納めとなるため、「大沢たかお祭り」も大いに盛り上がるのではないでしょうか。
大将軍・王騎の隠された悲恋エピソード
ストーリーをざっとおさらいします。前作『キングダム 運命の炎』(2023年)で「飛信隊」を王騎(大沢たかお)から任された信(山﨑賢人)は、趙国の将軍を討ち取ることに成功しました。喜んでいたのも束の間、信たち「飛信隊」の前に「武神」を名乗る男(吉川晃司)が現れ、信たちはボロボロにされてしまいます。
辛うじて生き延びた信たちは、王騎軍と合流し、趙国との決戦に向かいます。趙国の総大将は、あの武神を名乗る男でした。王騎との過去の因縁も明かされ、戦場にて雌雄を決することになります。さらに王騎を狙って、趙国の知将・李牧(小栗旬)も動きます。
本作では王騎の恋愛エピソードが描かれ、そのヒロインを演じるのが新木優子(スターダスト)です。最近の漫画原作ものは主要キャラクターの過去を回想シーンとして長々と描くパターンが定着していますが、今回の王騎の過去エピソードは単にキャラクターの設定説明に過ぎず、物語を膨らませるほどの効果は果たしていないように感じます。
長澤まさみ、清野菜名ら女優陣の貢献
ここまで「キングダム」シリーズが人気を博したのは、サプライズ感があったからだと思うんですよ。第1作『キングダム』では、長澤まさみがリアル二刀流をド迫力で披露し、アクション女優としての評価が爆上がりしたわけです。第2弾『キングダム2 遥かなる大地へ』(2022年)は噂には聞いていたけど、見た目は華奢な清野菜名が噂以上にスピーディーな殺陣を披露してくれました。女優陣が実写版「キングダム」シリーズを盛り上げてくれたんです。
残念ながら『キングダム3 運命の炎』の杏以降は、ヒロインたちのアクションシーンのサプライズ感は乏しいものとなっています。
でも、これは杏や新木優子がダメなわけではなく、今の日本映画にはまだアクションものが定着していないからだと思うんです。シリーズ序盤は、長澤まさみにしっかり殺陣の練習を積ませ、学生時代からアクションを学んでいた清野菜名をブッキングすることができましたが、シリーズが続くことでアクションの素養のある俳優が日本にはそれほどいないことが露呈してしまった形です。
もっと見たかった山本千尋の活躍
芸能プロダクションの力関係でメインキャストはブッキングされているから、アクションができなくても仕方ありません。千葉真一が「ジャパンアクションクラブ」を率いていた時代は、志穂美悦子や真田広之らが続々と現れたわけですが、今の日本映画ではそれはないものねだりというものです。
下村勇二アクション監督は「キングダム」シリーズに加え、同じ山﨑賢人主演の『ゴールデンカムイ』(2024年)やNetflixドラマ『今際の国のアリス』(2020年)も担当しています。『るろうに剣心』(2012年)でアクション映画ブームの火点け役となった谷垣健治アクション監督は、香港で『トライライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』(2024年)を特大級の大ヒットにしています。世界で通用するアクション監督はいても、アクションの素養のある俳優、アクション映画に理解のあるプロデューサーがひと握りしかいないというのが日本映画界の実情です。予算も時間もないため、俳優たちも本格的なアクションのトレーニングに励むことができずにいます。
山﨑賢人主演の本編シリーズとは別に、プロレスラーの真壁刀義、『キングダム2』に登場しながら自慢のアクションを披露できなかった山本千尋らを主演にしたスピンオフシリーズを制作すれば、アクションチームが常に稼働し、経験を積んだスタントマンやアクション俳優志望の若手を輩出できると思うんですけどね。
大手芸能事務所に所属する人気俳優たちだけを優遇するのではなく、撮影現場を陰で支えるスタントマンやアクションチームのスタッフたちを育てていくことが、これからの日本映画がよりエンタメ度を高めて、世界市場に出ていくには必要になっていくのではないでしょうか。
芸能人は「好感度」ではなく「芸」を売るべし
今回は出番が少ない吉沢亮ですが、歌舞伎の伝統的世界を描いた主演映画『国宝』が大変な話題を呼んでいます。共演の横浜流星、田中泯らと共に本年度の映画賞の俳優部門を独占しそうな勢いです。ギャップ萌えを狙ったコメディ映画『ババンババンバンバンパイア』の公開も始まり、泥酔トラブルでCM降板したことはすっかり帳消しとなった感があります。
やっぱり芸能人は「好感度」を売りにするんじゃなくて、「芸」を売るべきなんだと思います。芸を磨かずに、ネームバリューの上であぐらをかいていると旧ジャニーズのタレントみたいに凋落してしまうわけですから。
NHKの朝ドラ『おむすび』が酷評されまくった橋本環奈も、これから巻き返しに出ることでしょう。アクション映画で実績を残した山﨑賢人、妖艶な女形を演じた『国宝』で演技派としての箔をさらに付けた吉沢亮、実録映画『フロントライン』で往年の石原裕次郎ばりのボス的存在感を見せた小栗旬。そして王騎役を演じ終えた大沢たかおは、これからはプロデューサー業に力を入れるのか。
人気俳優たちの覇権争いは、これからいよいよ本格化しそうです。オンエアの最後には2026年夏公開予定の最新作となるシリーズ第5弾の映像も流れるそうなので、最後まで目が離せません。
(文=映画ゾンビ・バブ)