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【2025上半期興収ランキング】永野芽郁×佐藤健『はたらく細胞』上半期実写1位 黄金タッグの“本物志向”で邦画界席巻

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映画『はたらく細胞』より
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 2025年の上半期興行収入ランキングで、映画『はたらく細胞』が実写邦画1位を獲得した。2024年12月13日の全国公開後、約1カ月で興収50億円を突破、最終興収63億円と、ワーナー・ブラザース配給の邦画作品史上1位の数字を記録。国外作品やアニメ映画を含め、上半期の興収は『名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック)』に次ぐ第2位という好成績だった。

『はたらく細胞』大ヒットの理由とは?

 シリーズ累計1000万部突破の大人気マンガを原作に、永野芽郁(25)と佐藤健(36)がW主演を務め、細胞たちが笑い・涙・アクションありのストーリーを展開する。また原作は基本的に「体内」の話だが、映画では「体外」の人間ドラマも描かれ、人間側として阿部サダヲ(55)と芦田愛菜(21)が、ドラマ『マルモのおきて スペシャル 2014』(フジテレビ系)以来10年ぶりとなる父と娘という関係性、かつ今度は“実の親子”として出演したことも話題となった。

 上映終了からまもなく、5月28日にはBlu-ray・DVDが発売。6月13日にNetflixで独占配信が開始すると、国内映画ランキングで3週連続1位を獲得した。劇場でもお茶の間でも広く支持された背景を、映画評論家の前田有一氏が読み解く。

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映画『はたらく細胞』より

「医療エンタメ」への素地がある日本人

 本作のキャッチコピーは「笑って泣けてタメになる」。“赤血球”(永野)と“白血球”(佐藤)を中心に、細菌やウイルスといった異物を取り込む“マクロファージ”(松本若菜)や、免疫システムの司令塔ともいえる“ヘルパーT細胞”(染谷将太)など、擬人化された細胞たちが多数登場し、各々の仕組みや役割に沿ったコメディシーンやバトルアクションを繰り広げる。

 作中には専門用語が飛び交うが、知識がなくても理解できるキャラづけがなされているのは秀逸だ。近年は幼児知育市場において、いわゆる学習マンガではなく、“普通のマンガとして楽しめ、結果的にためになる”作品の需要が高いことも追い風に、前田氏は「難しい言葉を変に省略せず、子供が自分なりに理解する知的好奇心が満たされる作りになっているのは見事」と称賛しつつ、前提となるヒットの要因には「日本人が“医学エンタメ”に慣れ親しんでいるという素地が大きい」と話す。

「日本には『ブラックジャック』をはじめとする医療マンガが多数ありますし、身体の中を冒険する作品としても、古くは手塚治虫の『38線上の怪物』が結核菌や白血球が擬人化された物語。『ドラえもん』でものび太がドラえもんの体内に潜入する話(『ドラえもんが重病に?』)があるなど、特殊な世界観を楽しめるリテラシーが育っているんです」(前田氏、以下「」内同)

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映画『はたらく細胞』より

黄金タッグが描いた、体内世界の「メタファー」

 スタッフ陣にも実力派が集った。監督・武内英樹×脚本・徳永友一は、実写映画『翔んで埼玉』シリーズで合計興収60億以上を記録した黄金タッグ。武内監督は『のだめカンタービレ』『テルマエ・ロマエ』、徳永氏は『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』『夏目アラタの結婚』などを手がけており、前田氏曰く「コミック原作の実写化において、日本でトップクラスに成功が期待できる布陣」だ。

 とはいえ、実績が必ずしも次の作品をヒットさせるわけではない。本作が上半期で最も売れた実写邦画となった理由には、全方位に向けた「完成度の高さ」がある。それでは一体「完成度の高さ」とは何か。

「まずストーリーとして、“細胞の擬人化”という一見子供向けのポップな設定にもかかわらず、本筋には大人の鑑賞に耐えうるシリアスさがある。強大な敵を前に、一人ひとりが仲間のために死んでいくという日本人が好きな王道ストーリーを絡めたことで、大人の心を引き込みました」

 現実社会ではあらゆる場所で対立と分断が発生し、世界に目を向ければ移民問題や紛争の激化など、不穏な空気が色濃く漂っている。ともすれば人間不信になりやすく、明日が危うい世相において、体内で起こっている出来事が現実社会の映し鏡として浮かびあがる構造になっていることを、前田氏は指摘する。

「ミクロの世界で細胞が互いに助け合い、全体の均衡をとっていくさまは、人間社会と同じというメタファーになっているんですよね。それぞれが生きがいを感じて生きていくことで、調和が生まれる社会が理想であるというメッセージを訴えかけてきます」

 たとえば、赤血球(永野)は細菌やウイルスを排除する力を持たないため、周囲の細胞たちが立ち向かうような戦いには参加できないが、体じゅうの細胞に酸素を運ぶ役割を全うする。そうした姿を描くことで、物語は「自分には自分の存在意義がある」というテーマへと帰着するのだ。

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映画『はたらく細胞』より

巧妙に仕掛けられた「笑い」と「本物志向」

 漫画原作の実写化には賛否がつきまとう。それが人気作ならなおさらだ。しかし本作にはファミリーはもとより、幅広い層に刺さる突破口たり得る『入口』が仕掛けられていた。「笑い」である。

「本来、突飛な世界観に大人は入り込みづらいものです。じゃあどうしたら大人を没入させられるかというと、“笑い”がそのスイッチとして機能します。

いい脚本は笑いが上手い。本作は武内監督のギャグセンスが冴えていて、たとえば漆崎茂(阿部サダヲ)がウンコを我慢するシーンでは、俳優の演技や表情だけでも面白いのに、体内では相撲取りたち扮する“内肛筋”が排便を促すのを、ラグビー選手たち扮する“外肛筋”が塞ぎ止める大バトルを繰り広げることで、幾重にも笑わせられる。

笑いって、いちばん人の心を開くんですよね。子供の笑いだけでなく、大人もきちんと笑わせる。前半の大爆笑が、後半のシリアスな展開を支える大きな土台になっているんです」

 さらに、前述『マルモのおきて』もそうだが、キャスティングとして『るろうに剣心』でのアクションを彷彿とさせる佐藤の起用も見事にハマった。ほかにもド派手な特殊メイクを施した敵役を演じる片岡愛之助や小沢真珠は『翔んで埼玉』出演者だし、赤血球や白血球たちの聖母的存在である造血幹細胞には、元宝塚トップスターの鳳蘭が抜擢された。俳優の“出身”にもリスペクトを払った映像づくりは、それぞれの作品ファンをも喜ばせた。

 すべての“仕掛け”に共通するのは、「本物志向」の姿勢だ。

「CGで何でも表現できてしまう時代において、実写映画の優位点は“本物を見せること”です。本作では、専門用語や情報部分にウソがないようにしつつ、たとえば体内にある37兆個の細胞たちを表現するため、莫大な数のエキストラを用意。画面の端から端まですし詰めの赤血球たちが映し出されるオープニングの瞬間から、観客は本物の体内をイメージでき、作品の世界観に誘い込まれます。

最近は映画『国宝』が公開1カ月で興収32億円とヒットしていますが、あれも“本物”の世界を丁寧に理解したうえで、エンタメとして描いた。本物志向は今の映画界のトレンドです」

 子供が好みそうな題材だからといって、安易な“子供だまし”をしない。漫画原作の実写映画は年々数を増して量産され、毎度その“出来”が話題になるが、大人が本気でつくったものは「ちゃんと面白い」ことを証明した本作。実写作品史に一つ大きな爪痕を残したといえそうだ。

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映画『はたらく細胞』より

「原作改変」でも称賛されるワケ

(構成・取材=吉河未布 文=町田シブヤ)

映画『はたらく細胞』Blu-ray&DVDは2025年5月28日発売

(C)清水茜/講談社 (C)原田重光・初嘉屋一生・清水茜/講談社 (C)2024 映画「はたらく細胞」製作委員会

町田シブヤ

1994年9月26日生まれ。お笑い芸人のYouTubeチャンネルを回遊するのが日課。現在部屋に本棚がないため、本に埋もれて生活している。家系ラーメンの好みは味ふつう・カタメ・アブラ多め。東京都町田市に住んでいた。

X:@machida_US

最終更新:2025/07/12 22:00