犬視点の異色ホラー『GOODBOY』、26年は『ひつじ探偵団』『雌鶏』“動物目線”映画が続々…“かわいい”だけじゃない2つの理由

羊たちが殺人事件を追うミステリー『ひつじ探偵団』(5月8日公開)、犬が怪異に挑むホラー『GOOD BOY/グッド・ボーイ』(7月10日公開)、養鶏場から逃げ出したニワトリが人間界の理不尽さを目撃する寓話『雌鶏』(9月25日公開予定)……2026年、動物が主役の映画が続いている。もちろん動物映画自体は古くからあるが、特筆すべきは3作品とも「動物の視点」から人間社会が描かれる点である。
ひつじ、犬、ニワトリ 人間界の「問題」を問う動物たち
『ひつじ探偵団』は、遺体で発見された飼い主の無念を晴らすため、羊たちが犯人探しに乗り出す物語。無気力な警察が羊飼いの死を「事故」として片付けようとするなか、状況の不自然さを察知した羊たちは牧場から街へ。人間と会話はできないながらも容疑者候補らの言動を注意深く観察し、真相に迫っていく。日本公開後、週末動員数ランキングは4週連続トップ10入り、推定興収は6億円を突破した(Box Office Mojo調べ)。6月24日に早くもAmazon Prime Videoで配信されると、グローバル映画部門で初登場1位(6月22〜28日集計)を獲得している。
また『GOOD BOY』は制作費わずか7万ドルという低予算、ほぼ全編が犬の目線の高さで撮影された異色ホラーだ。いわくつきの古い民家を舞台に、人間には見えない“邪悪な何か”を感じた犬・インディが飼い主を守るため、果敢に怪異へ立ち向かう。そのユニークな設定は注目を集め、2025年10月3日に公開されたアメリカでは、予告動画が4日間で100万超の再生回数と反響を呼んだことを受け、当初予定されていた限定上映から急遽全米1650館規模での拡大上映。日本でも公開3日間で興収約1973万円、動員1万3000人と好調なスタートを切った。
そしてこの秋公開される『雌鶏』は、ニワトリの目を通して移民問題、貧困、格差など、「社会問題」を問う。昨年9月には、北米最大級の映画祭である「トロント国際映画祭」のプラットフォーム部門(芸術性を追求した作品の部門)で名誉賞に輝いた。
共通するのは、これらがアニメ映画ではなくリアルな世界を舞台にしているということ、かつ動物が人間や社会と“主従”ではなく、あくまでもフラットな立ち位置にいるということだ。

歴史的大ヒット『南極物語』、根強い人気を誇る動物映画
動物と人間の絆や、動物が奮闘する姿を題材にする作品ジャンルは、世界的な定番ではある。無条件に愛らしいだけでなく、人間に寄り添う関係性や、人間と同じように“仲間のために頑張る”とか、“大変な状況でもめげない”といった姿を描く動物映画は、疲れた心をほぐす娯楽としても勇気をくれる活力装置としても機能し、時にはほろりと涙を誘う。
洋画では、牧羊犬(豚)を目指す子ブタの成長を描いた『ベイブ』(1995)や、ロンドンで人々と暮らす紳士的なクマを主人公にした『パディントン』(2014)などが知られる。邦画では、80年代に動物映画の一大ブームがあった。南極に置き去りにされた樺太犬たちの運命を追った『南極物語』(1983)や、忠犬ハチ公の生涯を綴った『ハチ公物語』(1987)、茶虎柄の子猫・チャトランが広大な北海道の地を旅する『子猫物語』(1986)等々。
なかでも『南極物語』は興収110億円、『子猫物語』は興収98億円と、その売上額は長年にわたって実写邦画の歴代上位をキープ(2026年7月時点でそれぞれ3位、5位)し、海外でもヒットを記録している。実話モノをはじめ、動物との交流や受け継がれる命を描く物語はシンプルに見る者の胸を打ち、鉄板の感動コンテンツとして支持を集めた。ファミリー映画アピールが有効で、教育的な題材として評価を得やすい側面もあった(『子猫物語』は後に虐待問題騒動が勃発するが、それはさておき)。
近年では、人間がいなくなった世界で、猫や犬、カピバラなどが旅をするセリフのないアニメーション『Flow』(2024)が、2025年の「米アカデミー賞」で長編アニメーション賞を受賞。また、ディズニーの『ズートピア2』(2025)は、世界興収18億6600万ドル(約3025億円)を超える大ヒットとなった。
今、動画視点の作品が続々誕生する「必然」とは

動物を主人公に据えた作品が興行・評価の両面で存在感を放つなか、「動物視点」の映画が立て続けに登場する理由には、2つのキーワードがあると映画評論家・前田有一氏は指摘する。1つは「技術の進歩」、もう1つが「テーマ性の描きやすさ」だ。
「CGやVFXなどといった技術が発達して、動物の毛並みや表情をよりリアルに描けるようになりました。併せて低コスト化も進み、たとえばこれまで人海戦術で取り組んでいたようなアニメ作品も安く作れるようになってきました。実際に、『Flow』は無料の3DCGソフト『Blender』を使い、50人ほどという少人数体制で作られています」(前田氏、以下同)
前出『ひつじ探偵団』はCGやVFXでリアルな羊を再現。自然な群れの姿を作り出すため、年齢や品種の異なる実在の羊約50頭をスキャンし、モデルにしたという。本編では、複数の羊だけで画面が構成されるシーンが何度も登場するが、全く違和感のない画に見えるのは、高い映像技術ならではだろう。
一方で、『GOODBOY』と『雌鶏』は動物描写にCGを使用せず、実在の犬や雌鶏を使っている。なかでも『GOOD BOY』は、モンタナ州立大学で教鞭をとるベン・レオンバーグ監督が実際に飼う愛犬・インディと暮らす中で自然な反応を引き出し、編集によって演技へと組み上げた。製作期間は約3年にわたり、うち撮影は400日ほどにのぼったという。膨大な時のあいだにキャッチされたインディの繊細な仕草は、作品の空気感や説得力を支えたとして高く評価され、2026年の「第9回アストラ映画賞」で「ホラー・スリラー部門最優秀演技小賞」を受賞。人間の俳優と同じ部門で、犬が演技賞に輝くのは異例の快挙だ。
「もともと動物映画を実写でやろうと思うと、こと海外ではアニマルトレーナーを雇ったり、動物に過度なストレスを与えていないか監視する第三者機関を立ち合わせたりしなくてはならない場合があります。出演動物の“ギャラ”を含め、コスト面を踏まえると人間の役者より高くつくこともあると聞きます。大がかりな動物映画を本気でやろうとすると、どうしてもお金と手間がかかる。
その点中小規模の体制なら、知恵と工夫で力技を成立させられる。『GOODBOY』は、教師・講師など本業を持つ人たちがアイデアと時間勝負で作った映画で、これは大手映画会社には無理な手法といえるでしょうね。また『ひつじ探偵団』は、Amazon傘下の『MGM Studios』が北米配給を担っていて、最初から配信を見据えた展開です。必ずしも歴史ある大手でなくとも独自の発想を形にし、世界発信できるようになったということだと想います」
社会問題を描く使命と“説教臭くなる”悩みを解決

そして、「テーマ性」。前田氏は昨今の映画づくりにおいて、社会問題を含むことが使命となる風潮があるなかで、動物映画は「ちょうどいい」という。動物の目を通すことにより、一歩引いた視点から問題意識を浮かび上がらせられるためだ。
「人間の言葉を話せない動物の目を通す、あるいは動物世界のできごとという設定で描くことで、生々しさが緩和され、“説教臭さ”が消えますよね。『ズートピア』を例にとると、いろんな種類の動物がひとつの国に住むという、いわば“多様性の理想郷”が舞台です。狐も兎もライオンも仲良くしましょう、というある意味単純な話だけど、それを人間界の物語としてやろうとすると、途端にややこしくなる」
とはいえ映像以外において、動物を“起用”して問題提起する手法はド定番ともいえる。
「動物系の元祖ともいうべき作品、ジョージ・オーウェルの小説『動物農場』(1945)は、ある農場から人間を追い出して、動物たちだけの理想的なコミュニティを築こうとするも、指導者の豚が独裁者と化していくというストーリー。これは時代性を反映し、スターリンの独裁を批判した作品だといわれているんですよね。人間が出てくると思想が強くなってしまう題材でも、動物なら普遍的かつ風刺的になる。作劇の上で、人間界の小難しさをすっ飛ばしてくれる動物は都合がいいんです」
時代とともに、さまざまな技術の発達を受けて動物モノを映像化する可能性が広がり、進化してきたということ。さらにSNS時代においては、動物の「画力(えぢから)」は強い武器になる。
「ひつじ、犬、雌鶏、というだけでヒキがある。人間が探偵になったり、怪異に立ち向かったりするより、断然、画的にパンチがありますよね。ニワトリが主役っていうだけで、もう面白いじゃないですか(笑)。SNSでも話題にしたくなる。その意味で、今のグローバル、SNS時代にもぴったりです。低予算での制作が可能、俳優に頼らずアイデア勝負で世界に発信できる、SNSの話題を狙える、かつ社会問題を忍ばせやすい。今後もユニークな動物視点モノが出てきそうです」
動物を擬人化するのではなく、動物は動物のまま。その目から見た社会という設定にすることで、さまざまな事象には多角的な視点があることに気付かされる。そうした作品について前田氏は、「人間には『感じ取る力』があるので、主役が動物だとしても、作り手の意図や文脈を解釈することができる」と話す。
対人間だとついつい異議を唱えたくなったり、厄介な議論に発展したりするものでも、動物を介すと素直になれる――という心理はたしかにありそう。言葉が通じない、すべてが言語化されないからこそ、相手を思いやることの大切さや、自分が「当たり前」だと信じていたことの揺らぎを改めて考えさせられる。それは、とかく情報や他者目線に追い詰められる現代人に、もっと周りを見渡して、ゆっくり歩めという優しい呼びかけにも思える。
「かわいい」だけじゃない動物映画が続く(ように見える)背景には、現代ならではの事情があるのだ。
(取材・文=町田シブヤ)

『GOOD BOY/グッド・ボーイ』
ヒューマントラストシネマ渋谷、シネマート新宿ほか全国公開中
配給:アット エンタテインメント
監督・脚本・製作:ベン・レオンバーグ
共同脚本:アレックス・キャノン
共同製作:カリ・フィッシャー
出演:インディ(オス・8歳くらい、犬種ノヴァ・スコシア・ダッグ・トーリング・レトリバー)、シェーン・ジェンセン、ラリー・フェセンデン、アリエル・フリードマンほか
(c)2025 Whats Wrong With Your Dog, LLC. All Rights Reserved.
goodboymoviejp.com