映画『ケロロ軍曹』止まらない阿鼻叫喚と大爆死 「なぜ誰も止めなかったのか」と福田監督の「向き・不向き」を考える

福田雄一氏が初アニメ監督を務めた映画『新劇場版☆ケロロ軍曹 復活して速攻地球滅亡の危機であります!』(6月26日公開)が、映画史に残りそうな阿鼻叫喚の様相を呈している。「パロディ」という名の世界観殺し、ナレーションの違和感などツッコミどころ満載で、週末観客動員数は初週こそ4位だったが、2週めにして早くも10位に急降下(興行通信社調べ)。こと福田作品には賛否がつきまとってきたが、素朴過ぎる疑問として「なぜ誰も止めなかったのか」を考えたい。
「監督:福田雄一」が醸成してきた“イヤな予感”
本作は、吉崎観音氏が1999年から連載する同名漫画を原作に、2004年~約7年間放送されたテレビアニメ『ケロロ軍曹』(テレビ東京系)の16年ぶりとなる新作劇場版。2024年から始動したアニメ20周年プロジェクトの一環として昨年7月、制作決定が発表された。
待望の「復活」に合わせ、オリジナルキャストの渡辺久美子、中田譲治、子安武人らベテラン声優陣が再集結。今年秋からはキャストを一新した新アニメシリーズが開始することから、旧シリーズの集大成としてファンは期待を膨らませたが、総監督・脚本を福田雄一氏が務めることがわかると、一部で不安の声もあがっていた。
福田作品の特徴は、パロディやメタ的な笑いを織り交ぜる構成だ。低予算で再現されたRPG風の世界を、だらしない勇者ヨシヒコと仲間たちが冒険するコメディドラマ『勇者ヨシヒコ』シリーズ(2011〜2016、テレビ東京系)が評判を呼ぶと、『スーパーサラリーマン左江内氏』(2017、日本テレビ系)や『今日から俺は!!』(2018、2020、日本テレビ系)といった漫画実写化で支持を集めた。
一方で、作品によってその評価は大きく分かれる。たとえばパロディやオマージュを持ち味とする漫画『銀魂』の実写映画(2017、2018)は概ね好評だったが、映画『ヲタクに恋は難しい』(2020)は、『ラ・ラ・ランド』(2016)を彷彿とさせる突拍子のないミュージカル演出が盛り込まれ、「原作の雰囲気に合わない」と猛批判を浴びた。
そして徐々に、「福田組」といえば独特の“内輪ノリ”が前提となってきた。たとえば前述の映画『銀魂』では、佐藤二朗(57)のアドリブに共演者が笑うシーンがそのまま使われている。いつしか福田組の現場では、監督を笑わせることこそが“正解”となった――かどうかは定かでないが、少なくとも賀来賢人(37)は現場の空気感について、エンタメ情報サイト『SPICE』のインタビューで「僕ら俳優は、毎日必死になって絞り出しながら福田さんが笑い、喜んでくれるようなことをやり続ける」と語っていた。
失礼にもほどがある小栗旬「しぶしぶやった」、進撃「意向に反する」
さて『ケロロ軍曹』も、ファンの“予感”は的中してしまった。公開当日、劇中に福田監督の過去作『勇者ヨシヒコ』や『銀魂』、『HK 変態仮面』(2013、2016)からのキャラクター登場がサプライズ告知されると、ネットは〈作品を私物化するな〉と荒れに荒れた。
なかでも『銀魂』主演・小栗旬のコメント「ただ、出ろ、やれ、皆集まったんだから。って言われたんでしぶしぶやりました。なので、なんの思い入れもありません」は、役になりきった毒舌だと推察されても、ケロロ軍曹愛の無さに批判の声が殺到。結果、公式サイトからはしれっと削除された。何の説明もなく。
本来、公開日はおめでたい日のはずである。ファンは見たい欲を刺激してもらいたいのに、不穏な空気が蔓延した。それでも「見てみないとわからない」と堪えたファンの前に、さらなる不穏が投下された。『進撃の巨人』パロディ部分に関して、先方の納得が得られていないことが発覚したのだ。以下、制作会社からの謝罪文を引用する。
「『新劇場版☆ケロロ軍曹 復活して速攻地球滅亡の危機であります!』(6月26日(金)より公開)において、他作品を想起させる演出・表現を行うにあたり、一部作品の権利者様のご意向に反するものとなっており、『進撃の巨人』については事前に権利者様から明確な意思表示があったにもかかわらず、弊社内の深刻な伝達不備により制作を進行していたことが判明いたしました。
関係する権利者の皆様ならびに作品を愛するすべての皆様に、多大なるご迷惑とご心配をおかけしましたことを、深くお詫び申し上げます。」
失礼にもほどがある。もはや不祥事であり、『進撃』側の寛大な心で劇場での上映は続行されるようだが、配信やテレビ放送、DVD化はもしかすると危ういかもしれない。
原作への敬意がなく、自分の人間関係をズブズブにぶっ込みつつ、他作品にもぞんざいな扱いをするという行為の数々にファンの不信感は増大したが、そもそもなぜ、こんな企画が通るのか。なぜ、誰も止めないのか。実際に作品を鑑賞したゲーム・アニメ誌の元編集者で、アニメに関する著書もあるライターの多根清史氏に話を聞いた。
「ねえ、なんでこんな企画が通るの?」止まらない怒り
──映画を見て、どうでしたか。
多根清史氏(以下、多根) 「また、いつものパターンをやりやがった」という。悪い予感を確認する気持ちで行って、それでも「俺達のケロロで何してくれてるんだ」という怒りの感情を抑えられない。しまいには、「こういう暴挙を周囲のスタッフが止めないのはおかしいだろ」という気持ちに……。
――福田監督は、いつ頃からその“内輪受け”スタイルが批判されるようになったのか。
多根 福田組特有のノリは、ヒットメーカーと呼ばれるようになってから、より顕著ですよね。『HK 変態仮面』(2013)の頃はまだ自制が効いていた感じだけどできたけど、その後誰もやり過ぎを止めないまま、どんどん悪化したというか。
──福田ワールドには拒否反応を示す人も多いのに、実際にはオファーが途切れない。
多根 なんだかんだお客を呼べる知名度はあるし、結果は出してきたんですよね。
(※編注)
『今日から俺は!!劇場版』(2020)が興収53.7億円で、同年の邦画興収2位。
『新解釈・三国志』(2020)は興収40.3億円で、2021年度7位。
賛否両論だった『ヲタクに恋は難しい』も興収13.4億円で13位。
言ってみたら、ある意味“予想”したものは絶対出てくる。仲の良い俳優たちをぞろぞろ出した内輪受けのコントとか、ボソボソ、ダラダラ雑談して「いつ終わんねん!」ってやつとか。テレビのサムいバラエティをそのままスクリーンに持ってくる感じなんだけど、そういうノリが好きな人が確実に、かつサイレントにいる(いた)ということですよね。
福田組の“同窓会”に漂う、「バンバンやっちゃえ!」という悪ノリ
──新作『ケロロ軍曹』に、福田組の出演が明かされたのは劇場公開日。素でファンを喜ばそうとして伏せたのか、炎上がわかっているから伏せていたのか。
多根 先に言ってくれたら腹をくくるなりチケットを買わないという選択肢もあるのに、騙し打ちですよね(笑)。普通この手のサプライズ情報は嬉しいものだけど、「ハ?」でしかなく、これまで以上に残念な形だった。
ただし『ケロロ軍曹』は歴史があるIP。福田監督はあくまでもオファーを受けた形で、最初からオレ流を振りかざしていたたわけではなさそうなんですよね。パンフレットを読む限りでも、「福田組アベンジャーズ、やっちゃっていいんですか?」とおうかがいを立てていて、少しは遠慮があったことが感じられる。まあ、そんなことやろうと考える時点でギルティなんだけど、ともかく一応様子をうかがった。そこでプロデューサーが「やっちゃえ! バンバンやっちゃって!」とGOサインを出したということ。そこでブレーキ壊れてますよね。
本来、『ケロロ軍曹』というIPを使った作品はどういうお客が観に来て、その人達にどう届けるかって、ちゃんと考えて設計しなきゃいけないわけじゃないですか。それなのに、結果として福田監督過去作の同窓会の場として『ケロロ軍曹』が使われたようにしか見えない。ヒットメーカーだったら、『ケロロ軍曹』のファンに喜んでもらう方法こそ考えろよって話ですよ。
――周囲が福田監督に、けしかけたと。でも福田監督はアニメを手掛けるのは初ですよね。ものすごい冒険にも見えますが。
多根 マイナーな原作の実写化なら、多少福田カラーが織り交ぜられても、「俺たちの好きな〇〇を世の中に知らしめてくれてありがとう」という一定の感謝と評価が得られる場合はあった。
でも、『ケロロ軍曹』はファン層がすでに確立している。しかも待ちに待った新作で、オリジナル声優さんたちは今回が最後です。そんな大切な作品に、なぜわざわざ福田監督を起用したのかというと、ある意味制作陣の自信のなさでしょう。16年ぶりで見てもらえるか心配だったのと、周年企画の“お祭り感”を盛り上げるため、ネームバリューのある福田監督にお願いして「勝ち確」を狙った。それがまったくズレていたということでしかないですよね。
薄ら寒いナレーションを入れざるを得なかった「事情」
――ファンが置き去りに……。
多根 まさに。でもね、福田さんは言われたことをやる「職業監督」なだけなんじゃないかと思うんですよ。あくまで注文通りの品をお出しして、原作の特性に合わせたカスタマイズはしない。これまでのウケた要素をお願いしますと注文されて、手垢の付いた使い古しのパターンをお出しする、以上ってことじゃないですか。それでも『ケロロ軍曹』を立てる配慮をしない福田監督に非がないとは流石に言えないけど、半分ぐらいは制作側も悪いんじゃないかなあ。
――それでやりたい放題に。
多根 たとえば実写版『銀魂』は原作にパロディが多く、福田監督の作風と合っていた部分もあった。『ケロロ軍曹』原作にもパロディは多いけど、原作のそれは凝りまくっていてセンスが良いんですよた。ヒネリもない「元ネタそのまま」を出しまくっているうえに、流れをぶった切って、そこだけに何分も使う。しかもケロロたちはドラマに絡めず蚊帳の外。原作はケロロ自身がパロディやるから面白いんですよ!
――あと、福田組を含め、パロディ元の作品を『ケロロ軍曹』ファンが全部知っているとも限らないですよね。
多根 実写の『HK 変態仮面』や『銀魂』って、別に国民的ムービーじゃないですよね。自分はなぜかほとんど鑑賞済みだったけど、もうちょっと使い方あるだろうとは思ったね。だって、「パロディを元にした騒動が起こる」「福田組が勝手に解決する」「ケロロ達は見てるだけ」ばかりで、それってケロロの話じゃないでしょう。次から次へと、しょうもないコントを繋ぐだけで、話が盛り上がっていくわけでもない。福田監督、『ケロロ軍曹』のこと絶対あんまり知らないでしょ。福田監督過去作のファンだって、ヨシヒコにヘイトを買わせてどうする! と泥水ぶっかけられたような気分だと思いますよ。
元ネタを知らない人を多少救おうとしてか、いちいちナレーション(シソンヌ長谷川)が入るんだけど、これも本当に酷かった。薄ら寒いツッコミ風のセリフや解説がいちいち挟まり、しかも棒読み。副音声が流れているのかと疑うレベルです。もちろん、呼ばれた俳優や芸人に全く罪はなく、完全な設計ミス。全方位的に失礼で、特に『ケロロ軍曹』ファンは16年ぶりの映画、しかも旧キャスト最後の作品がコレって、やりきれないでしょ。
小劇場や深夜ドラマならいいのに…「映画」になると散漫に
──福田監督って劇団の人で、深夜ドラマで評価されてきましたよね。
犯人が明らかな事件を、トンチンカンな迷推理を炸裂させながら33分間奔走する『33分探偵』(2008、2009、フジテレビ系)や、漫画家・島本和彦氏の自伝的作品『アオイホノオ』(2014、テレビ東京系)など、深夜ドラマとの相性は良い。
多根 深夜ドラマで許されていたゆるい内輪受けを映画にも持ち込んで、『銀魂』なんかは福田さんの作風とも合って、良かったと思います。でも一度成功して味をしめ、それを“正解”としてフォーマット化しちゃった。その後注文が来る度に、同じコース料理をお出しする。
小劇場や深夜だったら、内輪受けも違和感はないんですよ。結局、福田監督は限られた尺と少ないリソースしかなかったら、工夫を凝らした作品作りを努力するんですよ。『勇者ヨシヒコ』や『アオイホノオ』なんて傑作でした。しかし映画になると、とたんに作りが散漫になり、福田組が出てくるところはバラエティ風味でお茶を濁す。「物語」になっていない。
──とはいえ「福田組」は、今回の『ケロロ軍曹』を含め、小栗旬(43)とか橋本環奈(27)、山田孝之(42)のような、ギャラが高くて忙しそうな俳優を呼べるのもすごくないですか。
多根 そうなんですよね。きっと福田監督の制作現場はすごく雰囲気がいいんですよ。そして予算をもらえるんだったら、福田組を集めるだけ集めて、ツギハギして一丁上がり。一度映画から足を洗ってもらって、予算の少ない深夜ドラマに戻ってくれれば、また面白いものを作ってくれるかもしれないですよね。俳優人気に頼ることもできないし。
「福田組」パートを全部カットしたらまだマシ。次回作に期待!
――では、気を取り直して。映画『ケロロ軍曹』の良いところを見つけるとしたら?
多根 一応瞬間、瞬間で“『ケロロ軍曹』っぽさ”はあるんですよ。特に、クライマックスシーンでは殴り合いだけじゃなくて、ちゃんとコミュニケーションで解決するという、いつも通りの良さがある。
主に前半部分に集中する「福田組」部分を全部カットして、パロディも今の半分から3分の1にしたら、やっと「普通」に近くはなる。ようやく我慢できる範囲に収まる、というレベルでしかないけどね。これから見に行くファンには、「福田組が出てきた時やパロディパートは、目を閉じて耳を塞ぐとかしてやり過ごして!」と言いたい。
──我々は今後、福田監督作品とどう向き合っていけばいいんでしょうか。
多根 向き合わなきゃいけないのかなあ(笑)。こんなこと言ってる自分も、最初のうちは好意的だったんですよ。でも作品を重ねるごとに、徐々に警戒心が育まれてきた(笑)。
あの人、どう考えても頼まれたものを作るだけで、そこに熱はない。爆死してちゃんと反省してほしいし、これだけ炎上したらさすがに次はないのでは……と思うけど、そういう意味では、福田さんの次回作に乞うご期待! というところかもね。
(取材・文=町田シブヤ)