えっ、今? 1960年『ガス人間第一号』が小栗旬×蒼井優ら豪華キャストでNetflixドラマ化 東宝が仕掛けたリブートの“狙い”

Netflixドラマシリーズ『ガス人間』(全8話)が、7月2日より配信されている。本作はネトフリが東宝と組み、特撮映画『ガス人間第一号』(東宝/1960、以下『第一号』)を完全オリジナルストーリーでリブート。本作で演技初挑戦、俳優デビューとなるUTA(28)が「ガス人間」役に起用され、「ガス人間」を追う刑事×記者には小栗旬(43)と蒼井優(40)、そして動画配信兄妹を広瀬すず(27)&林遣都(35)と、豪華俳優陣が競演する。
日韓の鬼才がタッグ 『新感染』ヨン・サンホ×『ガンニバル』片山慎三
映画界は、とにかくグローバル展開が至上命題。日韓タッグを試みる東宝が「変身人間シリーズ」の再映像化を持ちかけたのは、映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016)やNetflix『寄生獣-ザ・グレイ-』(2024)などを手掛けたヨン・サンホ氏である。同シリーズの中からヨン氏が『第一号』を選び、自身が脚本と製作総指揮を務める傍ら、監督として片山慎三氏を指名したところから、制作が動き出した。
片山監督といえば、仕事を失った兄が自閉症の妹に売春させて生計を立てる『岬の兄妹』(2019)や、貧困生活のなか、懸賞金付の指名手配犯を捕まえようと失踪した父を探す娘の物語『さがす』(2022)、限界集落に赴任した警官が、カニバリズムの風習が残る村の謎を追う配信ドラマ『ガンニバル』(2022〜2023、ディズニープラス)など。社会問題をえぐりながら、人間の本質と狂気を浮かび上がらせるテーマ性が国内外で高い評価を受ける。
日本が誇る特撮名作を、国境を越えた鬼才たちが新たに生まれ変わらせるプロジェクトには否が応でも注目度が高まるが、そもそも『第一号』は何が評価された作品で、なぜ今、リブートされることになったのか。作品の魅力と東宝の“狙い”を、映画評論家・前田有一氏に聞いた。

ヨン・サンホと『ガス人間』の親和性
まず『第一号』は、東宝が1958年〜1960年に製作した特撮映画「変身人間シリーズ」の第3作だ。『第一号』の監督を務めたのは、『ゴジラ』(1954)や『地球防衛軍』(1957)などで世界的に知られる特撮界の名コンビ、本多猪四郎(本編)と円谷英二(特撮)。人体実験により体を“ガス化”できるようになった男・水野(土屋嘉男)と、力を悪用する水野を追う警察との攻防というSFスリラーでありながら、水野と藤千代(八千草薫)の悲恋が絡むヒューマンドラマ要素も備え、同シリーズ最高傑作との呼び声が高い。
リブート版の制作決定が発表されたのは、2024年8月のことだ。前田氏は、当初「なんで今?」と驚いたものの、ヨン氏が企画担当だと知り、納得感があったという。
「サンホさんの作品には、どれも社会的に弱い立場の人や、報われない人への優しい視点があるんですよね。たとえば『新感染』も、その前日譚にあたるアニメ映画『ソウル・ステーション/パンデミック』(2016)も共にホームレスが活躍します。単純に面白いだけで終わらず、社会に潜む矛盾や闇に対する問題意識、弱者の視点が必ず含まれている」(前田氏、以下同)
前田氏は『新感染』公開時、ヨン氏に「なぜ、あなたの映画ではホームレスが活躍するのか」と尋ねたことがあるという。
「サンホさんは昔から、街なかの人びとが、路上にいるホームレスには目も向けずに行き交うさまを見る度、不思議な気持ちになっていたそうです。『誰だって、いつだって帰る家がなくなる可能性があるのに』と。明日は我が身なのに、その“明日”は、自分にだけは来ないと信じている。
そのうちサンホさんは、路上にしか生活の場がない人たちはある種、格差社会の犠牲者なんだと考えるようになったと。そうした原体験のもと、自分の映画には必ず社会的なテーマを取り入れるようにしているという話でした。そして『第一号』はまさに、ただ面白いだけではなく、社会的な不条理や人間の弱い部分に光をあてた映画ですから」

特撮界で、『第一号』が際立っていたドラマ性
1960年前後は、『ゴジラ』が空前のヒットを記録し、特撮ブームを牽引していた頃だ。『ゴジラ』公開時、1954年の総人口が 約8824万人なのに対し観客動員数は961万人。約10人に1人が鑑賞した計算で、怪獣が主役の映画としては異例の数字だった。さらに2年後に海外版が50か国以上で公開されると、海の向こうのクリエイターにも大きな影響を与えた。
そうしたなかで続々と制作された特撮は、怪獣や宇宙人などの侵略に、自衛隊や科学者が立ち向かう構成が王道だったが、前田氏は、『第一号』の特異な点として、「単なる見せ物を超える特撮を目指したメロドラマ」と、そのドラマ性を挙げる。
『第一号』に登場するガス人間・水野は、高校卒業後に貧乏で大学へ行けず、航空自衛隊を志願するも体格が理由で不合格。パイロットの夢を諦め、図書館の事務員として働いていたところ、航空医学の研究者・佐野博士の「肉体を変質させたらパイロットになれる」という口車に乗せられ、ガス人間化する人体実験を受ける。結果として水野は望まぬ力を得、“普通”に生きる道すら失ってしまう。
そんな水野の恋人・藤千代も、時代の波で没落した日本舞踊の家元と、自力ではどうしようもない境遇に呑まれるヒロインだ。彼女の力になろうと水野が「ガス人間」の力を暴走させる姿は、社会を脅かすテロリストでありながら、同時に社会の犠牲者としても描写される。
「『第一号』の本質は、人間社会の矛盾や悲劇を描いたこと。人間に優しい視線を持っているサンホさんの映画制作の信念そのままの作品なんです。そして片山監督も、世の中のタークサイドや人間のドロドロした部分をバイオレンスと共に描く方。だからこそサンホさんも片山監督に託したんじゃないかなと思います」

昭和にさかのぼって「特撮」をリブートする、東宝の狙いとは
とはいえ、いくら傑作といっても66年前の作品だ。それをわざわざネトフリと共にリブートするからには、東宝に大きな狙いがあると見るのが自然だろう。「IP展開」と「海外進出」である。
東宝グループは2022年、創立100周年を迎える2032年に向けて「企画&IP価値の最大化」や「海外進出」などを掲げた長期ビジョンを発表した。同年までにIP・アニメ事業の営業利益200%、海外売上高比率を2025年時点の10%から30%まで引き上げることを目指すと掲げる内容に前田氏は、「東宝の“焦り”」を指摘する。
東宝は昨年、『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』や『国宝』、『名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック)』、『劇場版「チェンソーマン レゼ篇」』と興収100億円超えのメガヒットを4作品も叩き出し、年間興行収入は東宝単体で1438億円と歴代最高記録を更新。映画界における国内年間興収は2744億5200万円だったことから、実に全体の50%以上を東宝が占めるのだ。かつ、共同配給を含めると、興収TOP10のうち9作品に東宝が関わる。まさにノリにノッているように見えるが、一体何を焦るのか。
「東宝は、出版社やアニメ関係など、いろんなところから強いコンテンツを流通させることで稼ぐ、“手数料ビジネス”を先駆けてやってきた会社。人気IPをかき集め、東宝が持つ最強の流通網に乗せることで、大成功しています。
一方で松竹や東映を見てみると、同じやり方では東宝に太刀打ちできないので、『男はつらいよ』(松竹)や『仮面ライダー』(東映)など、息の長いコンテンツを作り育ててきた。もちろん東宝にも『ゴジラ』があり、ハリウッド版や『ゴジラ-1.0』(2023)を海外でヒットさせてきましたが、逆にいえばそれ(『ゴジラ』)がほぼ唯一の、国際的に通用するIPだともいえる。海外展開に力を入れなくてはいけなくなったところで、『ゴジラ』以外にないぞ、さてどうしよう、と。自社IPの少なさは、東宝があまり大々的に言いたくない“弱点”でしょう」
そこで東宝が絞り出したのが、「変身人間シリーズ」というわけだ。
「1960年ぐらいまで遡らないと、国内外でウケる自社IPが無いのでしょう。しかも、『変身人間シリーズ』の中でも、リブートに耐えうるのは『ガス人間』ぐらいです。『美女と液体人間』(1958、シリーズ第1作)の“人間が液体になる”設定はホラーにしかならないし、『電送人間』(1960、シリーズ第2作)に至っては、『電送』というシステムが古すぎる。『マタンゴ』(1963、シリーズ番外編)は人間がキノコ怪人になる話なんですけど、めちゃくちゃ気持ち悪い(笑)。そういう意味で『第一号』はちょうどよく、続編がアメリカの映画会社で企画され、海外でヒットした前例もある」

ぜひ注目したい、1960年版の「見どころ」は
ネトフリ版『ガス人間』を見る前に、あるいは見た後で、その“元”となった『第一号』を見る人は多いだろう。前田氏が思う『第一号』の見どころは?
「特撮としての見どころは『①ビルの爆発シーン』と『②ガス人間の演出』です。
①は、もちろん実際のビルを爆発させているわけではなく、ミニチュアですが、今見ても本物に見えるぐらいまったく違和感がない。円谷さんが東宝の特撮マンとして、アナログで突き詰め、積み上げた技術の集大成ともいえる爆発シーンです。
②に関しては、当然CGがない時代。なので、ガス人間が変身する時の、青く光り輝く独特な演出は『光学エフェクト』という技術が駆使されています。さらに、ガス人間が銀行の鉄格子をすり抜ける場面では、洋服をうまく使って人間が気化するように見せている。のちに『ターミネーター2』(1991)でも、液体金属のターミネーターが鉄格子をすり抜けるシーンが登場しますが、実は『第一号』が先なんですよ。業界人が唸る場面の数々は必見です」
Netflixシリーズ『ガス人間』では、「世界最高峰のVFX技術」と「破格のスケール感」が融合し、新次元の映像体験を叶えるという。これがヒットした暁には、「特撮の“リブートブーム”が起きるかも」(前田氏)。昭和の特撮と令和の特撮、どちらもじっくりと味わいたい。

Netflixシリーズ『ガス人間』
エグゼクティブプロデューサー:ヨン・サンホ
監督:片山慎三
脚本:ヨン・サンホ、リュ・ヨンジェ
出演:小栗旬、蒼井優ほか
企画・製作:東宝
共同企画・制作:WOW POINT 制作プロダクション TOHOスタジオ
2026年7月2日(木)世界独占配信

(取材・文=町田シブヤ)