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ドジャース・山本由伸は「日本人史上最高」になれるのか──すでにMLBトップ級!? それでも問われる“エースの条件”

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今年のワールドシリーズでも活躍が期待される山本由伸。(写真:Getty Imagesより)

 世界一を決めるマウンドで示した勝負強さと、シーズンを通じて先発陣を支える安定感。山本由伸の投球は、「日本人史上最高」という問いを、期待から実績を比べる議論へと変えつつある。

 ただし、歴史的な評価を築くには、大舞台での快投に加え、相手の研究を上回りながら、質の高い投球を何年も続ける必要がある。

 名投手が歴史を刻んできたドジャースで、山本は自らの時代をつくれるのか。投球の質と量、短期決戦での貢献、そして進化を続ける修正力から、その条件を読み解く。

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防御率2.53、185回──適応の先にある仕事

 2026年の山本の成績は、28試合に先発して14勝9敗、防御率2.53、182奪三振、185回。昨年は30先発で173回3分の2、防御率2.49だった。勝利数、奪三振数、防御率はチーム内トップを記録。昨年と比較すると失点を抑える水準をほぼ維持したまま、登板数が二つ少ない段階で投球回を11回3分の1増やしている。

 1回の先発当たりの投球回を計算すると、昨年の約5.79回から約6.61回へ伸びた。この差は、単なる個人成績の改善ではない。先発が7回に近づけば、監督は救援陣の投入を遅らせられる。勝ちパターンの連投を減らし、翌日以降の継投にも余裕を残せる。長い回を高い質で担うことは、投手陣全体への貢献になる。

 昨年のサイ・ヤング賞投票では3位に入り、今年も現地の専門メディアで受賞争いの候補として論じられている。ただし、候補であることと最有力であることは別だ。賞の行方には他投手の成績も関わる。重要なのは、山本が単発の好成績ではなく、複数年にわたって比較の対象に入る投手になっている点である。もはや「MLBに慣れてきた」という説明では足りない。適応は、その後も細部で続く。しかし評価の基準は、環境に対応できたかではなく、対応したうえでリーグを代表する成績を維持できるかへ移っている。

 投球内容を見れば、すべての数字が一方向に伸びているわけではない。奪三振は昨年の201から今季は182。投球回から算出した奪三振率は約10.42から約8.85へ下がった。一方、1回当たりに許す安打と四球を示すWHIPは0.99から0.87へ改善している。ここから直ちに、意図的に三振を減らして省エネルギー化した、と結論づけることはできない。相手打線や守備、打球の結果にも左右されるからだ。

 それでも、三振の減少だけを捉えて支配力の低下と評価するのは適切ではない。走者を抑え、失点を防ぎ、長い回を投げるという成果を併せて見る必要がある。

 エースの仕事は、調子がいい日に圧倒することだけではない。決め球が見送られる日にもストライクを先行させ、連打を浴びた後にも試合を壊さず、次の登板でも役割を果たすことだ。最高の投球と最低限の投球の差を小さくできれば、チームは山本を中心に一週間の戦い方を組み立てられる。

 今季の山本はスプリットを最も多く使い、直球やカーブ、カットボール、シンカーなどを組み合わせている。しかし、豊富な球種を持つことと、相手の対策を上回ることは同義ではない。大舞台で結果を残した投手ほど、その球種構成やカウント別の選択は研究の対象になる。

 たとえば、相手が低めのスプリットを見送り、ストライクを取りにくる直球に狙いを絞る場合を考えたい。必要になるのは、さらに鋭く落とすことだけではない。変化球で先にストライクを奪う、直球を使うカウントを変える、打者が待つ高さから外す。球そのものの質に加え、見せる順番で相手の判断を変える必要がある。

 これは相手球団が実際に採用する作戦を断定したものではない。山本が今年のポストシーズンで問われる、修正力の一例である。同じ打者との二度目、三度目の対戦で、最初の打席の反応を次の配球に反映できるか。捕手との共同作業を含めた判断の精度が、一球の威力を生かす。

 また、9月23日のパドレス戦では6回4失点、自責点は2だったが、自身の悪送球も失点に絡んだ。短期決戦では、防御率に表れないプレーも勝敗を動かす。投球だけでなく、打球処理や送球まで含めて一つのアウトを確実に取ることが、エースの完成度を左右する。

伝説の再演ではなくシリーズを勝たせる投球

 昨年のワールドシリーズで、山本は3勝を挙げてMVPに選ばれた。17回3分の2を投げ、防御率1.02。第6戦で6回を投げた翌日に、第7戦でも救援として2回3分の2を無失点に抑えた投球は、優勝を決定づける仕事だった。NPB時代を振り返ると、この大舞台での存在感が、最初から勝ち星に結びついていたわけではない。クライマックスシリーズでは勝利を挙げていた一方、日本シリーズでは初登板から4試合、白星がなかった。

 初勝利は、NPB最後の登板となった2023年第6戦。9回1失点、シリーズ新記録の14奪三振という完投で、後がないオリックスを第7戦へつないだ。日本シリーズでは、最後の最後にエースとしての投球を自身の白星へ結びつけたのである。

 MLB移籍後は、その勝負強さが勝利数にも明確に表れている。ポストシーズンでは2024年に2勝、2025年に5勝を挙げ、2年間で計7勝。2024年の地区シリーズ第5戦でも、負ければ敗退という状況でパドレスを5回無失点に抑えた。日本シリーズで白星をつかむまで時間を要した投手が、海を渡ってからは、勝ち上がりを左右する登板で繰り返し結果を残している。

 もちろん、勝ち星には打線の援護や救援陣の働きも関わるため、NPB時代は大舞台に弱かったと断定することはできない。それでも、敗退の危機をしのぐ好投や優勝を決める登板を重ねてきた事実は重い。山本の評価を押し上げているのは、シーズンの数字だけでなく、勝利が最も必要な場面で、その能力を発揮してきた実績である。

 すでに山本は、ドジャースの球団史に残る一場面をつくっている。今後の課題は、そこに一度登場した英雄で終わらず、数年単位でチームの中心を担うことだ。だからこそ、今年の評価基準を「昨年と同じ連投ができるか」に置くべきではない。特別な局面で実現した起用を、毎年の義務にすることには無理がある。先発として長い回を抑え、次の登板に必要な状態を整え、シリーズ全体で勝つ確率を高める。その積み重ねでも、十分に大きな価値を生み出せる。

 一試合の完投より、複数の登板で安定して相手の得点を抑えるほうが、チームにとって重要な場合もある。英雄的な瞬間への期待と、優勝に必要な投手運用は分けて考えたい。昨年の伝説を守る方法は、同じ場面を再現することだけではない。

 大谷翔平との比較では、二刀流としての総合的な価値と、投手としての実績を分ける必要がある。大谷は2022年に166回、防御率2.33、219奪三振を記録した。投手に限定しても、一つのシーズンとして見ると非常に高い到達点を持っている。

 山本が投手専任であることだけを理由に上位へ置くことも、大谷の打撃成績を投手の比較に持ち込むことも適切ではない。同じシーズンの失点抑止力、投球回、登板の継続性、そして複数年の実績を、共通の基準で評価すべきだろう。

 そのうえで山本が築ける独自の強みは、先発ローテーションの中心を長期にわたって担い続けることである。大谷との優劣を急いで決めるより、自身の優れた一年を何度繰り返せるか。その蓄積が、最終的には比較の説得力になる。

 昨年の優勝報告会では、山本が登場するとドジャースタジアムで大きな歓声が上がった。もちろん、一つの場面をファン全体の総意とすることはできない。それでも、優勝をもたらした投手として、強い記憶を共有される存在になったことは読み取れる。

 その評価が高まるほど、期待も変わる。好投すれば驚かれる選手から、大事な試合を任せられる選手へ。さらに、その信頼に何年も応えることで、コーファックスやカーショーらが築いた球団史のなかに、自身の時代を刻んでいく。

 サイ・ヤング賞は、その道のりを象徴する大きな勲章になる。しかし、一度の受賞だけで歴史的な評価が完成するわけではない。年間を通じた質と量、相手の研究を上回る修正力、そしてポストシーズンでの貢献。それらを複数年にわたって重ねることが、本当の意味でのエースの証明になる。

 山本は、これからMLBのトップ投手になろうとしているのではない。すでにその一角にいる。問われているのは、その場所にどれだけ長く立ち続けられるかだ。日本人史上最高という称号は、その先に結果としてついてくる。

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(文=ゴジキ)

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ゴジキ

野球評論家・著作家。著書に『巨人軍解体新書』(光文社新書)、(集英社新書)、『システムで読む甲子園』(カンゼン)などがある。『データで読む甲子園の怪物たち』(集英社新書)と『マネジメント術で読むプロ野球監督論』(光文社新書)は発売前重版を記録。連載実績として「ゴジキの巨人軍解体新書」「データで読む高校野球2022」「ゴジキの新・野球論」などを担当し、現在はサイゾーオンラインにて「ゴジキの野球戦術ちゃんねる」を連載中。週刊プレイボーイ、スポーツ報知、女性セブン、日刊SPA!、集英社オンライン、現代ビジネスなど各種メディアでの寄稿・取材も多数。Yahoo!ニュース エキスパートにも選出されている。
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ゴジキ
最終更新:2026/10/01 22:00