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さや香の「ガチ不仲」のおもしろさ、新山のキャッチーなセンスが光った「石井やったでー発言」

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イメージ画像(写真:Getty Imagesより)

 ピン芸のナンバーワンを決めるお笑いの賞レース『R-1グランプリ2025』(カンテレ・フジテレビ系)が3月8日に開催される。2月2日にはファイナリスト記者会見が行われたが、本職のピン芸人たちを差し置いて話題を集めたのが、さや香の新山のコメントだったのではないか。

 さや香といえば『M-1グランプリ』決勝に3度進出を果たし、2022年大会は2位、2023年大会は3位となった超実力派コンビ。2022年大会のファーストステージで披露した「免許返納」は『M-1』史上でも指折りの傑作ネタとして評価が高く、さらに2023年大会ではファーストステージ1位の結果から「このままいけば優勝間違いなし」となっていたところ、最終決戦で「見せ算」を持ってきて歴史的な大コケ。結果としてそのネタチョイスが、2023年、2024年の令和ロマンの連覇を許したとも言える。しかし2024年春に東京へ進出した際、その「見せ算」での大コケを“いじられ材料”に生かし、東京での活動時の名刺がわりとした。

 ほかにも新山は「令和の視聴率男になりたい」と宣言したり、2024年の『M-1』に出場しなかったり、その言葉や行動がどれもキャッチーに映った。これらの点で、さや香は抜群のポップセンスを誇るコンビと言えるだろう。

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不仲で知られるさや香

 そんなさや香の新山が『R-1』のファイナリスト記者会見で口にしたのが、「石井やったでー」「今すぐ石井に電話したい」だった。石井とはもちろん新山の相方のこと。ただ二人は以前から不仲で知られており、その険悪な関係性が度々クローズアップにもなる。

 2024年12月10日放送の『証言者バラエティ アンタウォッチマン!』(テレビ朝日系)にコンビで出演したときには、サンドウィッチマンの伊達みきおから「(不仲は)致命的なの。仕事がこれ以上増えない」と忠告され、「直せることだから」「(不仲で)絶対に売らない方がいい。絶対、いらない情報だし」とコンビ仲の改善をすすめられた。同放送回を取り上げた記事のコメント欄でも、「伊達さんの言うとおり」「不仲だと分かって番組観るとそれがノイズのように普通の場面でも違和感を感じる事もある」など、伊達の意見を支持するものが目立った。

不仲を逆手にとったコメントの注目度

 『R-1』でのファイナリスト記者会見での新山による「石井やったでー発言」は、そういった経緯を受けてのもの。ファイナリスト記者会見の模様を掲載するネットニュースの中でもっともよく見かけたのも、不仲を逆手にとったこのコメントだった。つまり、記者たちの心をちゃんとくすぐったのだ。まさに新山の思惑通りだったのではないだろうか。

 一方、筆者は、不仲もネタとしてキャッチーに仕上げてくる新山の……、いや、さや香のバラエティセンスに常に震撼している。不仲コンビの特徴は、周囲が気を遣ってその関係性についてあまり触れられないところである。『水曜日のダウンタウン』(TBS系)が密着し続けたおぼん・こぼんや、竹内ズなどは、番組として大々的に取り上げたからこそ、オープンな場で触れられるようになった。しかし同番組が言及しなければ、そうそう気やすく触ることができるものにならなかっただろう。ただ、さや香は自分たちから「不仲」というワードを大々的に売り出した。そして「さあ、おもしろくいじってくださいよ」という動きを作った。「不仲」の事実を、誰でも触ってOKという風にポップ化したのだ。これはなかなかできるものではない。

インタビュー時のふたりは…

 あと良い部分として、前述したように「不仲」を公言してくれることで周囲も余計な気を遣わなくて済むところ。筆者も2024年、上京前のさや香をインタビューした。インタビュー自体は実に内容が濃く、石井は東京進出後の自分の方向性について、そして新山は「見せ算」をはじめとするさや香の漫才の構造について、じっくり話してくれた(ちなみに筆者は「見せ算」を高く評価していて、なによりさや香の大ファンでもある)。ただ、話の内容は濃かったが、二人が目を合わせたり、会話をラリーさせたりする場面は一度もなかった。さや香はいわゆる「ビジネス不仲」ではなく、「ガチ不仲」だったのだ。

 もしこれが「不仲」を公言していないコンビや、表向きは仲が良いとされているコンビであれば、インタビュアーとして「どうしたんだろう」「大丈夫かな」となる。気を遣うのはもちろんのこと、なんなら強引に二人の話をラリーさせることもあるかもしれない。しかしさや香の場合は「不仲」であることは周知だったので、こちらもその雰囲気に動じることは一切なかった。だからこそ、インタビューもスムーズに進行した。

もっとも仕事がやりやすい関係性

 なによりさや香は「不仲」でもネタは抜群におもしろく、実績も残し、バラエティ番組でも平場が強いなど、仕事としてきっちり成立させている。つまりさや香にとって、現在のその関係性がもっとも仕事がやりやすい形なのだと思う。それはお笑い芸人に限らず、会社などの職場でも同じではないか。仕事がうまくいき、しっかりお金も稼げるのであれば、同僚と無理に仲良くする必要はない。それが仕事というものだ。

 さや香は2024年、『M-1』に関しては“充電期間”としたものの、2年ぶりに『キングオブコント2024』に挑戦(準々決勝敗退)するなどした。そして今回は、新山が『R-1』で決勝進出という結果をきっちり出した。コンビ仲がどうであれ、仕事は結果がすべて。それで文句のつけようがない実績を残しているのだから、周囲も「もっと仲良く」や「不仲は良くない」なんて言えるものではないだろう。

 なにより「不仲」を公言した上でそれを笑いに昇華しているからこそ、さや香は解散という最悪の道をたどらずに済んでいるのかもしれない。
(文=田辺ユウキ)

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田辺ユウキ

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。映画、アイドル、テレビ、お笑いなど地上から地下まで幅広く考察。

X:@tanabe_yuuki

最終更新:2025/02/22 09:00