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『あんぱん』第21回 主人公同士が「夫婦になる」という前提に寄りかかりすぎているのです

今田美桜(写真:サイゾー)
今田美桜(写真:サイゾー)

 NHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』も第5週、「人生は喜ばせごっこ」が始まりました。先生になることにしたのぶちゃん(今田美桜)は親友のうさ子(志田彩良)と一緒に全寮制の師範学校へ。受験に落ちた嵩くん(北村匠海)はとりあえず浪人するようです。

『あんぱん』作劇のアラが一気に出た

 師範学校に旅立つのぶを、嵩は物陰から見守っています。その後ろではヤムおじ(阿部サダヲ)が「惨めだなぁ」などと言っておりますが、嵩は「さよなら……」とセンチメンタルに浸っています。こいつ、いつも浸ってんな。

 この旅立ちの場面、嵩ののぶに対する思いは想像できるんですが、のぶが嵩をどう思ってるのかが全然わかんないんだよな。受験に落ちた嵩にのぶがやったことといえば、「うちでは悲しいときもあんぱん」とか言いながらあんぱんを10個も持って行って、登美子(松嶋菜々子)に痛烈な八つ当たりを受けただけ。その後のフォローがないので、のぶがこの不躾な「あんぱん10個事件」を結果としてどう解釈したかがわからない。

 これビンタ事件でも同じことが起きていて、のぶの衝動的な行動が衝動的なまま「なかったこと」のように処理されているので、ドラマがのぶをどんな人物として描こうとしているのかが見えないし、2人の関係性も前に進みようがないんですよね。

 ビンタもあんぱん10個もシーンとして印象的ではあるけれど、のぶの人生におけるこの出来事の位置づけがわからない。嵩も嵩で、殴られたりあんぱん持ってこられたりして何を思ったか、のぶに対する好きの気持ちに変化があったのかなかったのか、そのへんもよくわからない。作劇が「後に夫婦になる」という展開に寄り掛かっているというか、「どうせ結婚するんだから細かいことはいいんだよ」と言われている感じがして、どうにも気持ちが乗らないんです。

 そのほか、今日も気持ちが乗らない場面ばかりだった第21回、振り返りましょう。

リアリティは別にいいとしても

 のぶが入学することになった師範学校。担任は門番兼面接官だった迫力美人(瀧内公美)でした。入学早々覚悟を問われてタジタジののぶ。うさ子は横で震え上がっています。

 そして寮に入ると、同室には2人のパイセン。担任はこの学校を「2年制」だと説明していましたが、どうやらパイセン2人の間にも上下関係があるようです。室長と呼ばれる生徒が夜中にトイレに行くときには、下級生であるのぶも一緒に起きて洗面器を持って待機しなければいけない。朝は6時起床だけど5時には起きなきゃいけないし、廊下では私語禁止。とっても厳しい寮生活の様子が次々に描かれます。

 そのリアリティは別にいいとしても、のぶとうさ子の「先生になりたい」という夢に説得力がないから、単なる理不尽の羅列になってしまっている。2人に共通のロールモデルというか、憧れの女性教師という存在があれば「○○先生もこんな厳しい寮生活を送ってたのがや」「うちらもがんばるがや」という動機づけになるわけですが、のぶはラジオ体操をしてたらただ漠然と「先生になりたい」とか言い出したし、うさ子においては「のぶに感化された」というだけで「先生になりたい」なんてひと言も言ったことがない。そういう2人が厳しい環境に放り込まれてあたふたしている。

 のぶは師範学校、嵩は浪人、2人の対比を描いて、嵩に「なんで生きてるのかわからないんだ俺は!」などと絶叫させるのであれば、のぶは「なんで生きるのか」が明確に定まっているキャラクターであるべきなんだけど、どう見ても夢に突き動かされて師範学校に飛び込んだのではなく、作り手によって文字通り「放り込まれた」ようにしか見えないので、対比にもなってない。

 だから、展開として弱いと感じる。見ていて気持ちが乗らない。

柳井嵩先生の作品が読めるのは『あんぱん』だけ!

 浪人することになった嵩に対して「何がやりたいんだ、吐き出せ、吐き出せ兄貴」と迫る千尋。こいつ誰やねん。メンター気取りか?

 ここでは、嵩が登美子が去ったことについてどう心の整理を付けたのかが語られていないので、やっぱり嵩に共感を抱くことができないのです。

 それに千代子(戸田菜穂)にまたぞろ「医者になってよ」と言われて、「自分が医者になったら」という意味(たぶん)の4コマを描く嵩の、その4コマがちょっとよくわからない。

 いまのところ柳井嵩先生の作品が読めるのは『あんぱん』だけですし、これまでの2作品を見る限りシュール系と言いますか、ナンセンスギャグ方面の作風のようです。「なんで生きてるのかわからないんだ俺は!」とか絶叫しながら変なギャグマンガを描くというのも、どうにもしっくりこない。どうしても絵を描きたいんだ、という決意を固めるシーンで、嵩がどうしても描きたい作品を描いている感じが伝わってこない。

 加えて「絵を描きたい」と「マンガを描きたい」がまったく同列で語られるのも嵩の決意が伝わりづらい原因になっているように思います。マンガって「絵を描く」より「お話を作る」ことの比重のほうが大きいだろうし、伝えたいことがないと単に苦しいだけの創作になりそうな気がするんだよな。「なんで生きてるのかわからないんだ俺は!」という思いをぶつけたマンガ、とりあえずそれを読んでみたいんだけど、何あのつまんない医者マンガは。

 という感じで、第5週も食えない『あんぱん』になりそうです。相変わらず、さほど不快ではないんだけどな。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/04/28 14:00