ロッチ中岡が『イッテQ!』ロケで負傷…識者が指摘する、芸人の事故多発の原因と「体張った笑い」の是非

日本テレビは7日、人気バラエティ『世界の果てまでイッテQ!』の海外ロケ中に、ロッチの中岡創一が骨折の疑いのあるケガをしたことを公表した。これに限らず、近年はバラエティの収録で芸人がケガを負う事故が続発しており、制作側の安全管理の甘さを指摘する声が上がっている。
なぜ芸人のケガが続発しているのか。事故のリスクをはらんだ「体を張った笑い」は今のご時世にふさわしくないのか。お笑い事情に詳しい芸能ライターの田辺ユウキ氏が分析する。
バラエティで多発する芸人のケガ
日本テレビの発表によると、中岡は4日に人気企画「ロッチ中岡のQtube」のロケでベトナムを訪れ、モーターボートを使用した人気動画の再現に挑戦したところお尻を強打。現地の病院で、第2腰椎圧迫骨折の疑いと診断された。「全治数カ月」の見込みで、帰国後に日本の病院で精密検査を行い、診断が確定する予定。同局は「怪我をされた中岡さんをはじめ、関係者の方々、ご迷惑をおかけした皆様に、心よりお詫び申し上げます」と謝罪した。
この件については、中岡は「ベトナムで尻もちついて怪我してしまいました。強い阪神のおかげで心は癒やされております。ご心配なく。年齢も年齢ですので、身体の張り方も少し考えなければならないのか、、と思いつつも、沢山の方々に、バカだなぁと笑ってもらいたい!という気持ちを変わらず持ち続け頑張っていきますので、よろしくお願いします」とのコメントを発表。
続けて「私、ロッチ中岡にとって、本気になって我も忘れて夢中で挑める番組があることは、本当に何にも代え難い幸せな事です。そんな番組で怪我した事に、何の後悔もございません」と、番組を擁護するような言葉をつづった。
しかし、同番組では2022年3月にも中岡が同じ企画のロケ中に右足関節外踝(くるぶし)を骨折する事故があったため、ネット上では「安全管理に問題があるのでは」「一歩間違えば後遺症が残る大ケガになっていたかもしれないんだから重く受け止めるべき」などと制作側への批判の声が集まっている。
これに限らず、近年はバラエティ番組などの収録中に芸人がケガをする事故が後を絶たない。
昨年11月には、タイムマシーン3号の山本浩司がフジテレビ系『芸能人が本気で考えた!ドッキリGP』の大きなクマのぬいぐるみに液体をかけられるドッキリ企画で転倒し、肋骨を折るケガを負った、同年4月には、TBS系『水曜日のダウンタウン』の「タッグ相撲」企画でトム・ブラウンの布川ひろきが左足人さし指を骨折している。
2020年には、トレンディエンジェルの斎藤司がフジテレビ系『でんじろうのTHE実験』で尻の下にエアバッグを敷いて爆発させ、体が宙に浮くかどうかを実験したところ、背骨を圧迫骨折するなど全治3カ月の大ケガを負った。2019年には『イッテQ!』のインドでのロケで、みやぞんが「木の板をジャンプ台にして火の輪をくぐる」というチャレンジで左足首を骨折した。過去には、ずんのやすがスキー場のゲレンデをゴムボートで疾走してタイムを競う企画で腰を骨折し、一時は一生歩けなくなる可能性があったことが明かされている。
限界を超える芸人のがんばり、体張る系芸人の高齢化…事故多発の原因は
こうした事故が多発している理由について、ネット上では「体を張る系芸人の高齢化」「昔と違って事故を公表するようになったから」などの説が挙げられている。お笑い事情に詳しい芸能ライターの田辺ユウキ氏はこのような見方を示す。
「たしかに今は、たとえ軽度なケガやハプニングについても『公表した方がいい』とされていますよね。公表しなかったことがバレると、すぐにバッシングを食らいますから。そうやって小さいトラブルも公表するようになり、『事故が続発している』というイメージにつながっていると思います。そう考えると、バラエティで大量の火薬を使った爆破演出などをしていたような時代は、出演者やスタッフらの目立たないケガや事故は公表されなかったのかもしれません。今とは比べ物にならないほど危険なことをやっていて、なにもなかったわけはありませんから。
個人的に思う原因としては、次から次へとトレンドが移り変わり、出演するタレントも入れ替わりが激しい時代なので、芸人たちが生き残りをかけて『限界を超えてもがんばろうとする』ということが増え、ケガが起きているように思います。数字が稼げなければすぐに企画は打ち切られますし、タレント個人も次の仕事につながりません。そうならないためにも、自分の限界を超えるまでがんばる。過度な表現はそもそもおもしろく見えますし、話題にもなりやすいため、芸人たちは自分のポテンシャル以上のことをやろうとしてしまうのだと思います」
今回ケガした中岡が「年齢も年齢ですので」と記していたように、体を張って笑いを取る芸人の高齢化も原因と指摘されている。実際、中岡は47歳、同番組で「お祭り男」として体を張っている宮川大輔は52歳と、本来なら身体を張る芸を続けるべきではないような年齢になっている。前出の田辺氏は言う。
「今の若手芸人は賞レースが中心で、ネタ至上主義。若手芸人の間では、体を張るという泥臭い芸風を避ける傾向が強まっている気がします。実際、令和ロマンとか、エバースとか、そのあたりのコンビが体を張ってなにかをやっている姿ってイメージが湧きませんよね。そうなると、体を張る笑いの第一人者である出川哲朗さんらを間近で見ていて、『芸人は体を張って当たり前』という意識が染みついているベテラン芸人や中堅芸人にその役割が回ってくる。
今回のロッチの中岡さんなんかはまさにそう。でも、年齢的には体にガタがくる時期。若いころにできていた動きができなくなることもあります。ちょっとハードな動きをしただけで負傷することが増えます。ネット上では『体を張る芸人の高齢化が原因の一つではないか」との声がありますが、その意見は一理あるのではないでしょうか」
「体張る笑い」への見下しが批判の強さに影響?
バラエティでの事故が続発し、世間からの批判が強まってくると、テレビの世界では芸人の伝統ともいえる「体を張った笑い」の存続が危うくなってくる恐れもありそうだ。田辺氏はこのように指摘する。
「なにごともすぐに批判される時代なので、たしかに難しさはあると思います。ただ、スタッフのみなさんも企画を行う前に安全確認やシミュレーションをしっかりやっているでしょうし、それであっても、芸人たちが本番でどれくらい限界を超えてがんばってくるかなんて分からないもの。ですので、こればかりはどうしようもないと思います。よほどの不手際がない限り、それぞれががんばった結果、起きてしまったケガや事故。そこを厳しく取り締まってしまうと、それこそバラエティ番組は座りのトークしかできなくなります。
それに、たとえばプロスポーツだってどれだけ気をつけていても、ケガや事故が起きるときは起きます。それもまた、良い成績を残そうとがんばった結果。より高みを目指すため、ギリギリのところでがんばっているのです。そういう部分にスポーツの感動があったりもします。だからなのか『危ないからこのスポーツは終わらせろ』というふうには、それほどなりませんよね」
「体を張った芸」への風当たりが厳しくなる現状について、田辺氏はこのように警鐘を鳴らす。
「私たちの普段の仕事でも、少し見誤れば、ケガ、体調不良、トラブルは起きます。エンターテインメントの仕事においても、映画や舞台などのアクロバティックで危険のあるシーンを、専門ではない俳優がやったりもします。なんにしても、そこにはケガやトラブルのリスクはありますが、それについて批判は起きない。しかしバラエティに関しては、少しでも体を張ればなにかしら批判の声が上がります。
結局、バラエティはその性質から、一部の層から極度に『ナメられている』のでしょう。そういう方たちにとって、『笑いのために体を張ってがんばる』というのは、見下すべき対象なのかもしれません。同じエンタメでも、舞台や映画のような『体を張って泣かせる、感動させる』というジャンルの方が彼らにとっては上なのでしょう。モラルを逸した企画は良くないですが、しかし『体を張った笑い』のすべてに対して非難の声を浴びせることで、仕事を失ってより苦しい思いをする人がいることを忘れてはなりません」
(文=佐藤勇馬)
協力=田辺ユウキ
大阪を拠点に芸能ライターとして活動。映画、アイドル、テレビ、お笑いなど地上から地下まで幅広く考察。