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『あんぱん』第75回 待望の戸田恵子! 初登場、即キャラクター崩壊という悲哀

今田美桜(写真:サイゾー)
今田美桜(写真:サイゾー)

 NHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』第15週、「いざ!東京」が終わりました。何が「いざ!」なのかと思ったら、主人公であるのぶさん(今田美桜)の長年の夢が東京に行くことだったんだって。それを強く願い続けてきたから、夢が叶ったんだって。今日、メイコ(原菜乃華)と蘭子(河合優実)が丁寧に念押ししていました。

『あんぱん』どいつもこいつも薄情すぎ

 すっかり忘れてたけど、のぶが山と海を越えて東京の銀座に行きたいと、今は亡き父・結太郎(加瀬亮)に語っていたシーンが確かにありました。まだ子どもでしたね。今田美桜ではなく永瀬ゆずなさんだった時代です。

 あのころから、のぶは東京に行きたいと強く願い続けていたのだと、今さらになってドラマは言います。しかし実際に描かれたところでは、のぶの東京行きへの夢を補強するようなエピソードは何ひとつありません。幼なじみの嵩(北村匠海)が東京のデザイン学校に進んだときも、その東京から電話をかけてきたときも、つい最近メイコが「東京に行ってのど自慢に出たい」と言い出したときでさえ、のぶの口から「うちも東京へ行きたい」などというセリフを一度も聞いたことがない。それどころか、東京でチャラついた生活をしている嵩を口汚く罵り、非国民扱いしたのも記憶に新しいところです。

 それでも、このドラマを見続ける限り、私たちは言うことを聞くしかないのです。ドラマが「東京行きがのぶの長年の夢だった」と主張するとき、「それは違う!」と反論する権利は、残念ながら私たちにはありません。ドラマの世界はあくまで作り物であって、その世界の創造主は製作者スタッフ一同。主よ、我々を赦したもれ。

 どうにかこうにか視聴継続の赦しを得るため、一度はその夢を飲み込んでみます。のぶにとっての初めての東京行脚、しかしそれは、彼女の想像とはかけ離れたものだったはずです。

 生まれ育った高知から2日間をかけてやってきた東京は、高知と同じ焼け野原でした。たぶんセットも同じで、背景のカキワリ(?)に国会議事堂が描かれていることでようやくここが東京であると判別できる程度の、みすぼらしい風景です。ガード下には高知の何百倍も多くの空襲で焼け出された人たちが転がっていて、食うや食わずの状況でなんとか生きている。

 そんな東京を見て、のぶは一切の曇りのない笑顔を浮かべるのです。

「胸がいっぱいで。ここが東京やと思うと、それだけで」

 怖えぇーよ。サイコパスかよ。そこでおまえが目の当たりにしたのは、おびただしい数の立ち上がれない被災者だぜ。東京ドーム約3,000個分のガレキの山だぜ。おまえの大好きな子どもたちも飢えてるぜ。人の不幸を食って腹を膨らます鬼か、おまえは。

 第75回、振り返りましょう。

女王も信用できない

 さて創造主様は本日、その世界に女王をお造りになりました。ガード下の女王・薪鉄子を演じるのは誰あろう『アンパンマン』声優の戸田恵子さんですから、これはもう明らかにキーパーソンということでしょう。この人がしばらく物語を牽引していくことになるのは火を見るより明らかです。

 その鉄子、腹を下したお気楽ツーリスト4人衆を見かけると「部屋に運ぶよ」と言い出して、部屋に運びます。

 部屋とは? ここは鉄子の自宅ではないですよね。4人衆は一度、鉄子の自宅を訪れて空振りしているはずだから、ここが自宅なら言及があるよね。嵩がトイレの場所を知らないということは、宿でもないよね。どこなの、ここ。部屋とは?

 鉄子いわく、腹を下した3人は薬を飲ませる必要もないし、嫌でもすぐ治るのだそうです。じゃあ仕事に戻ればいいのに、何を世間話をしているのだろう。ヒマなのかな。やることないのかな。何をして、どこに向かう途中で4人衆と出会ったのかな。

 街角で偶然キーパーソンに出会うのはいいよ。それくらいはドラマのアヤとして受け入れられるんです。精力的に活動している女性代議士という役柄を登場させるとき、「ヒマなのかな」と思わせてしまうところにガックリきちゃうのよ。こんなの、鉄子に「単なる食あたりだから寝かせときゃ治るよ、あたしはやることあるから」ってすぐに立ち去らせれば、それだけで「ああ、忙しく動き回ってる人物なんだな」と感じられるじゃない。なんで治るまで居座ってんだよ。もうキャラ崩壊してんじゃんかよ。

 もう何回も言ってる気がするけど、人を描くことはまず日常を描くことなんですよ。普段こういう人だから、あるいはこういう人なのに、こういうことをする。だからドラマになるんですよ。こんなこと中園ミホの作品に言いたくないよ、どうなってんの。

 麻雀勝負のくだりも変です。鉄子は麻雀に勝ったら子どもたちのために場所を明け渡せという。そこを臨時の孤児院にするつもりなのでしょうけれども、大人3人寝かせても余裕しゃくしゃくなスペースがさっきありましたよ、まずあの部屋とやらを有効活用したらどうなのかね。

「くじら」編集部についてはもう信用する気もない

 片道2日、取材3日、帰路で2日。月刊誌の校了を控えた編集部が全員、1週間にわたって出払っているという異常事態。なんすか、東京のネカフェからPDFをGigaFile便で送ってデジタル入稿っすか。リモートワークっすか。もうこの時点で雑誌作りのスキームを真面目に描くつもりがないことは明らかなのでどうでもいいんですが、やっぱり嵩が「告る、告らん」でウジウジしてんのがノイズなんだよな。

 その日に食うものもない人たちがあちこちで苦しんで倒れている街角で、どうにか2人きりになろうとする嵩の言動はキモいを通り越して超グロいし、「ボクが高知新報に入れたのはのぶちゃんのおかげなんだよね、ホントにありがとう」と言われたときの、のぶの顔は一体なんなのよ。

「うちは落ちた記事を埋めるのに必死だっただけ、採用を勝ち取ったのは嵩の実力よ」と、どうして言えないの? なんで言わせないの?

 これ、昨日琴子(鳴海唯)が嵩たちに「のぶの女心がわかってない」みたいなことをしゃべっていて、まるでのぶが嵩を新聞社に引き入れたのは嵩のことが好きだからみたいな的外れなことを言っていたけれど、ここでのぶがニッコリするということは、あの琴子の言葉が本当だってことなのだろうか。のぶが、嵩のことが好きという女心を発揮して入社させるために手を回した、ということにするつもりなのだろうか。

 だとしたら、カメラを「次郎さん」と呼んで東京に連れてきたのはどういうつもりなのか。

「くじら」でのお仕事描写をズタボロにしてまで、のぶと嵩の出会いから恋をさせるための段取りを作ったのに、その2人の恋ですらマトモに描けなくなってる。人が人を好きであるという、もっとも原始的なドラマすら整合を取る作業に食われて歪み切っている。自分たちで作った過去回をチャラにすることでしか、もう前に進めなくなっている。

 なんかこう、朝ドラを作るという仕事の闇といいますか、悲哀すら感じる回でしたね。嵩は帰ったらキラキラ銀座美人の表紙を描くのかな。それもグロいな。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/07/11 14:00