リスがネズミを捕食する衝撃映像を見ておびえる米国人 2022年には人間も…

リスがネズミを捕食する映像が世界に衝撃を与えている。カリフォルニア大学デービス校などの研究グループが公表したもので、リスは捕らえたネズミをその場で食べている。米国では、リスは都市部の公園や住宅の庭先に当たり前のように生息し、イヌやネコに次いで人間生活に近い動物だ。しばしば人間を襲うケースもあることから、リスの肉食行動に恐怖感を抱く米国市民は少なくない。
飛びついて首にかじりつき、頭を切断し肉を引き裂く
映像は今年6~7月にかけて、カリフォルニア州のブリオーンズ・リージョナル・パークで撮影された。米大リーグ、アスレチックスの本拠地があるオークランドから車で20~30分ほどの地域にある公園で、町の喧騒からさほど遠くない。
カリフォルニア大学デービス校などは2013年から、サンフランシスコ湾地域に生息するカリフォルニアジリスの生態を研究しているが、研究に参加する大学院生らが、カリフォルニアジリスがハタネズミを捕まえて、食べている映像をカメラにとらえた。リスとネズミが交わる観察映像72本のうち、42%が狩りをする映像だった。
カリフォルニアジリスはハタネズミを追いかけ、時には後ろから忍び寄るような動きで飛びつき、前足で拘束し、首にかじりつく。頭部を切断して毛皮をはぎ、胴体から肉を引き裂いて食べる姿が確認できた。アフリカのサバンナで狩りをするライオンのようだが、狩りは集団ではなく、いずれも単独で行われている。
観察記録によると、カリフォルニアジリスは年齢や性別に関係なく狩りをしている。野生の草食系動物の場合、メスは出産のため体内に多くの栄養を蓄える必要がある際に、一時的に肉を食べることがあるといわれるが、今回のケースはこうした特殊な条件下でのことではなく、この地域に生息するカリフォルニアジリスの間で捕食が常態化していると解釈できるという。
研究を続けているカリフォルニア大学デービス校環境科学政策学科のソーニャ・ワイルド博士研究員は、映像を初めて見た時「自分の目が信じられなかった」と話している。
カリフォルニアジリスによるハタネズミの捕食を確認したのは、一連の研究でも今回が初めてで、「その後、捕食の行動を探し始めたら毎日のように観察することができた」と述べている。
「草食でなく雑食、そういう意味で何食べてもおかしくない」
日本のリスの専門家数人にも、今回の衝撃映像について質問してみたが、いずれもリスが動物を捕食するということは聞いたことがなく、米国での調査の詳細がわからないので「コメントのしようがない」という答えが返ってきた。
日々、リスと接している動物園関係者に取材したところ、約200匹のリスを飼育している東京・町田市にある小動物専門の動物園「町田リス園」の内藤良平飼育員が取材に応じてくれた。
内藤飼育員も「リスが小動物を食べたということを聞いたことがない」と、驚きを隠せない様子だ。しかし、「リスは草食ではなく雑食性の生き物なので、ある意味で、何を食べてもおかしくはない」と話している。
日本でもリスは、植物のほかに昆虫や鳥の卵を食べることがあるといわれる。町田リス園ではエサとして木の実や果物など植物だけを与えているが、内藤飼育員もこれまで、セミの死骸などを食べるリスの姿を見かけたことがあるという。
雑食性の動物は生息域の条件次第で、食べ物を変えて、環境に順応して生き延びる。カリフォルニア州ではハタネズミの生息数が過去10年で7倍ほど増加したとされており、カリフォルニアジリスが、爆発的に増えたハタネズミを捕食する行動に出たものとの見方が強い。
ワイルド博士研究員ら研究チームは今後、カリフォルニアジリスによるハタネズミ狩りがどれほどの地域で行われ、世代を超えて受け継がれているのかどうかなどを調べる予定だ。カリフォルニア州ではリスの生態は他の動物の生態に大きな影響を与えるといわれている。ハタネズミを捕食することがカリフォルニアジリスの繁殖に影響を与えているとなると、カリフォルニア州の動物の生態系に広く変化が及ぶ可能性もある。
ルイジアナ州で人襲う 警察「男性の腕を食べていた」
米国ではリスが人間を襲うということがしばしば起きる。このため、カリフォルニアジリスの肉食映像は、生物科学としての新発見以上の重みを持つ。
ルイジアナ州スライデルでは2022年4月、78歳の男性が自宅の外側にいたところ、突然リスに襲われた。リスは屋根から男性めがけて飛び降り、腕などにかみついた。男性はリスを払いよけようとしたが、リスは執拗に攻撃を加えてきて格闘になった。
通報で警察官が駆けつけた時も、リスと男性の格闘は続いていた。警察官は「リスが男性の腕を食べていた」と報告している。男性は命に別状はなかったものの、重傷を負った。
リスが人間の肉を食べるというのは極めてまれなケースだが、リスが人間をかむことは頻繁に起きている。地球温暖化など環境の悪化で生息地が荒れれば、追いつめられたリスがどのように変化するかは予想もつかない。
環境の変化でカリフォルニアジリスがハタネズミを捕食し始めたとすると、条件次第ではリスが人間に牙をむくこともあり得るのではないかとの一抹の不安が、米国市民の頭をよぎる。