【塀の中の正月秘話その3】LB級刑務所で終わりなき時間を生きる受刑者たち
前回のコラムで触れた通り、B級刑務所とは、再犯者向けの刑務所で現役のヤクザの受刑者もこの施設に行くことになる。さらにその上にはLB級刑務所というものがあり、「L」はロングを意味し、刑期が10年以上(2010年までは8年)の重い犯罪を犯した受刑者が務めることになる。もっとも過酷な刑務所というわけだ。そんなLB級に務める、出所が果てしなく先にある受刑者たちは、どんな年末年始を迎えるのか。
今回は、罪名などには絶対に触れないという約束のもと、LB級刑務所を経験したC氏に話を聞くことができた。血気盛んな受刑者がトラブルを起こし、一度血の雨が降れば最期、当事者が事件送致されるまで終わらないと言われる刑務所の実態に迫ってみたい。
ーーまず長期を服役される受刑者も、正月休みは嬉しいものなのかを聞きたい。
C氏 まあ、私の場合は刑期も15年と、比較的しょんべん刑(用を足すくらいの短時間で終える刑の例え)でしたので、もちろん嬉しかったですが、無期の懲役(受刑者)らも、1年で一番嬉しいのが正月休みだと思います。彼らはもうシャバに帰れない可能性がある中、1年のうち腹一杯の感覚を味わえるのは、正月休みくらいですね。ただ、厳しい規則に雁字搦めな生活に変わりはない。事故落ち(規律違反やトラブルで懲罰を受けること)する人間もいて、「お前、また事故落ちしてんのか!」なんていう会話があっても、その「また」が平気で5年くらい前の話だったりするんです。
異次元といっていいだろう。5年前の不祥事を指して「またか」と言ってしまうほど、LB刑務所内での時間感覚は独特のようだ。これまで紹介してきたA級やB級の刑務所に収容されることがいわば体験入学と思えるくらいに、ここでは受刑者すべてが長い時間を共有するのだ。特に無期懲役の受刑者にいたっては、2度と社会で年を越すことなんてできないと思いながら、長い刑務所生活を送っているということなのだろうか。
C氏 それはないと思います。「執念で生きてシャバに出るんだ!」と自分に言い聞かせながら、運動時間はだいたい身体を鍛えています。ただ、有期刑の上限が20年から30年に上がったんで、無期では最低でも30年は務めないと出られません。それも無事故(刑期中に規律違反をしないこと)でです。それだけじゃないんです。無期の場合は、まあ無理ですが、万が一にシャバに帰れてもずっと仮釈放中ですので、身元引受人が必要になってくるんです。5年や6年後ならばまだしも、30年や40年後に身元引受人になってくれる人が生きているかわからないし、身内からしても突然そんな厄介者が帰ってきたら嫌じゃないですか。実際、今の無期というのは終身刑みたいなもんですよ。
C氏は、無期懲役の受刑者が再び社会へ戻れる可能性が高くないことを理論的に説明してみせた。確かにC氏の言う通りだろう。刑の満期がない以上、自分だけが真面目に務めていれば良いわけではない。身元引受人になってくれる人にも、心変わりせず、社会で元気でいてもらわなければならないのだ。
では、やはり10年未満の受刑者を収容している刑務所同様にLB刑務所でも正月になると、飲食物のやりとりなどで、事故落ちするケースが多いのだろうか。C氏の答えはにべもなかった。
C氏 いくら、食べ物、特に甘い物に飢えているとはいっても、命懸けでそんなバカなことをしてまで、他人のお菓子を食べたいと思う懲役なんていないですよ。それはガチャガチャと騒がしい短期刑の刑務所なんかでよくあることでしょう。仮釈が飛んでも、(延びる延期日は)たかだか数カ月でしょう。だけど長期は違います。一度の懲罰で仮釈が何年も飛ぶんです。それに看守だって短期の刑務所とは訳が違い、めちゃくちゃ締まっている(厳しい)んです。多少いや吉(嫌がらせ)しても、長期の場合は、最低でも10年以上はまだシャバに帰れないんですから、怖くもなんともないじゃないですか。ただ、その反動と言うか、いったんケンカになるとだいたい事件送致になるくらい徹底的にやりますね。今さら、殺人未遂で(刑期が)20年が25年に延びたところで関係ないと自暴自棄になるんです。実際は関係あるんですけどね。
同じ刑務所でも、刑期10年以上の受刑者を収容している刑務所と10年未満を収容している刑務所とでは、受刑者の心構えからして異なるようだ。
ある殺人犯は、社会では誰しもが顔を顰める事件を起こし、無期懲役になったが、LB級刑務所内の工場でいじめられて独居で自ら首を括って命を絶った。ある抗争事件の実行犯2人も中で酷い仕打ちを受け、今でもそれが業界関係者の間では語り草となっているという。
ーーでは最後に聞きたいが、長期刑を務める正月休みは何をしている?
C氏 十何年も社会から遠ざかると強迫観念に迫られるんです。シャバに帰って本当にやっていけるのかという恐怖です。そのため、ある者は読書に没頭したり、ある者は教養を深めようと勉学に励んだりしています。正月休みという大型連休では、そうした時間を普段以上に確保することができる。意外かもしれませんが、ほとんどの懲役がテレビを観て、寝て、「極楽、極楽」なんて言うような、堕落した正月なんて過ごしていないですよ。
それが本当であれば、恐れ入る話である……言っては悪いが、それらは極悪犯ばかりである。LB刑務所に収容されているほとんどが、人の命に関わる事件を起こし、世間を震撼させてきたはずだ。しかし、中での務め方という点においては、修行者のような暮らしを送っている長期受刑者たちも少なくないというのだ。
彼らがその勤勉さを社会にいる間にもつことができていれば、もっと違った人生になっていたのではないかと思わずにいられなかった。
(文=佐々木拓朗)