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桐蔭横浜大学・石河 睦生の「都市伝説になるかもしれない人たち」#2

世界一明るい視覚障がい者・成澤俊輔「AIには答えられない、感覚のバグらせ方」

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成澤さんと石河先生の決して怪しくない対談風景

「制御システム」「電子機能システム」の分野において、特に超音波工学と圧電材料学などを専門にしている桐蔭横浜大学専任講師の石河睦生が持つ、なぜか不思議に幅広いネットワークの中から 「都市伝説になるかもしれない事業家やアーティスト、科学者」を紹介していく新連載。

 前回に引き続き、難病・網膜色素変性症という視覚障害を持ちながらも、就労困難者の支援と雇用創出をするNPO法人を設立し、現在は60社以上の企業のコンサルティングを手掛けるなど、多彩なキャリアをお持ちの成澤俊輔さんをゲストにお迎えしています。

 前回は「経営者の伴走者」の異名の理由や、視覚障害者として先が見えない中から現在の仕事に至るきっかけとなった原体験を伺いました。今回は、さらに踏み込んで「名言だらけ」の成澤式・社会の捉え方を聞いてみました。

#1はこちらから

AIでは答えが出せないことを伝えていく

石河 成澤さんは現在、「1ジャンル1コンサル」というような形で、経営コンサルのお仕事をされてますよね。ということは、相当なジャンルの特殊な企業、特殊な社長さんたちとお仕事で繋がっていると思います。実際にはどんな人がいるんですか?

成澤 65業界の経営者やそれに付随する人で、企業の跡継ぎが6割ぐらいですかね。100年以上続くギターの塗装屋さん、90年以上続くゴム屋さん、80年以上続くリサイクル屋さん、70年以上続く靴屋さん、60年以上続く防災屋さん…みたいな。スタートアップ企業では、お坊さんが作ってる電力会社とか、火災予防の会社とか、人工衛星の会社とか。あと、ちょろっと大企業もありますけど。

石河 縛りを作りつつも、65業界って結構な数だと思うんですが、みなさんにはどんなことを伝えていて、どうやって継続してもらえるような話をしているんですか?

成澤 僕は今、人と話をするときに心がけてることがあって、「わかるようでわかんない話」を意識してするようにしてるんですよね。わかるようでわかる話はググったら出てくるんで。僕の話はふと、明日役に立つかもしんないし、5年後かもしんないしというのが大事だと思っています。

 検索してすぐ役に立つみたいなクイックな世の中に対して、逆張りをするというのが1つ。もうひとつはあえて「胡散臭い話」をしようと。

 例えばコンサルを受けたときに、パッと聞いたらすごく理想的なんだけど、相手の中にある経験値やロジックでは説明がつかないようなことをいっぱい喋ると「なんか胡散臭いな」って感じますよね。この胡散臭さは多分デジタルにはないから、次の時代の常識や標準になると思っています。みんなの中にある、経験とロジックをバグらせていきたいと思ってますね。

石河 あとね、胡散臭いだけじゃなくて、成澤さんの振る舞いを見ていると、本当に目が見えてないの? 実は見えているんじゃないか? って思えちゃいます。

成澤 僕の今のベースの仕事は「社長の調律師」と表現をしています。経営者って会社や仕事に飼われちゃうし、サラリーマンだってみんな、会社とか社会とか資本主義とかに飼われちゃって、彼らの人生の音程が崩れちゃうんですよね。だから経営者を個人に戻してあげようとして、そう表現しているんです。

石河 いいですね(笑)、またわかるようでわからない話です。それってどんなアドバイスをしてるんですか?

成澤 これは全世界に向けて言いたいんですが、「みなさん、得意なことじゃなくて、好きなことをやんなさい」って話をしてあげるんですよ。得意なことって、本当にあてにならないから気をつけてねっていう。

石河  それも“AIの逆張り”ですか?

成澤 そうそう、自分で得意だと認識してることがあったとして、それはたいてい人から言われてそう思ってることで、自分で見つけてないんですよ。まず自分で探してないっていうのがひとつ。

 で、またその得意なことっていうのは、誰かと比べたものなんですよ。人に見つけるきっかけをもらい、人と比較をし、結果が出て、というアンコントローラブルな3つの変数がないと、人は自分がこれが得意って思えない。でもそれを指標にしちゃうと、めちゃくちゃ危ういと思ってるんですよね。

得意は集中してやること、好きは夢中になってやること

石河 なるほど。では一方で好きなことをやれというのは?

成澤 例えば僕は、キックボクシングを3年やってますけど、試合は1回もやったことがないですよ。結果が1回も出てないです。

 でも、なんかすごく好きなんですね。結果も出てなくて好きな理由を説明できないのにのめり込んでるって、やっぱり直感的な選び心地があるなと思っていて。得意なことってのは集中してやることで、好きなことってのは夢中になってやってることですよね。集中してやってる時と、夢中になってる時と、どっちの方がパワーがでるかっていったら、夢中になってる時だと思うんです。

 そのうえで、企業の経営者たちに「好きなことやりやー」なんて誰も言えないじゃないですか。投資家も、銀行も、自社のナンバー2からも、弁護士からも。だから僕が「”好き”をど真ん中に置いた生き方、経営をしてくださいね」ってメンテナンスしてあげている。それを僕は調律という表現をしているんです。

石河  ではコンサルと言いながらも、カウンセリングみたいなところでもありますね。

成澤 あ、そうっすね。コンサルティングとコーチングとカウンセリングとメンタリングの混ぜ合わせみたいな感覚のものです。

石河 そんな成澤さんが、コンサルをしたい会社ってどんなものなんですか?

成澤  僕の伴走を受けるには、6個の条件があります。僕はハードルを高く、門戸を広くしてますが、それを理解してくれたら、もうどんな人でも大丈夫です。それは、①僕にとって初体験の仕事なこと、②結果にコミットしません、③継続性にコミットしません、④1業界1社しかお客さんを持ちません、⑤レポートなど一切の提出書類は作りません、⑥社長とは、なるべくスムーズにいつでもコミュニケーションが取れる状態でいてほしいです、というもの。

 これは世の中のコンサルタントとは真逆なはずです。やっぱこの時代、当てずっぽみたいな意見が求められてると思うんですよね。相手の経営者が考えてることは、ググったら大体出てくるから、その周辺のことはもうみんな考えてるんですよね。それよりも遠くから問いを立てて、かつ非連続性があったほうがいい。このとっ散らかってる感じが多分デジタルと逆張りでいいなと思います。自分が嫌だなって思うことを最初に提示して、それがわかってもらえると「得意から好き」に変化して、めっちゃパワーがでますね。

やりたいことが見つからない人は「やってることが少ない人」

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次々出てくる成澤論に身を乗り出す石河氏

石河 なるほど。そうなると、僕自身は、結構好きなことやって生きてきてるわけですが、一方で大学の教員だから、学生や友人から「そうなりたいけど、好きなことが見つからない」って人がいるんですよ。成澤さんみたいに「好きなことやればいいじゃん」って言うんですけど「いや、好きなことがないから、わかんないんですよ」って返されると「うん、好きなことがわかんないのは、僕はわかんない」んですよ。でも、そういう好きなことが見つけられない状態の人に明確な答えを用意できなかったなって。

成澤  あ、それは明確な答えがあります。「やりたいことない」って言ってる人は、「やってることが少ない人」なんですよね。やりたいことって検索しても見つかんないんですよ。

 僕がキックボクシングが好きなのは、いろんなスポーツをやってきたからです。元々はJリーグ世代でサッカーが大好きで、でも「僕、そんなにチームスポーツ好きじゃないかも」。だって、「パス出して」って言わないとパスが来ないじゃないのとかね。それで、サーフィンとかスケボーとかパラグライダーとかフェンシングとかの「個人種目の方が好きだな」と。これはいろんなスポーツをやったから、これが好きっていうことが見つかってるんで、やりたいことがない人はやってることが少ないから、やることを増やさなきゃいけないんです。

 それでも戸惑ってる人には、「あなたの好きな人に、好きに連れ回してもらいなさい」って言うんですよ。そうすると自分がアウェイに飛んでいって、自分のホームってどこかなって気づけると思うから。

石河 実際にやってみたら、思ってたのと違ったっていうことがあってもいいですね。

成澤 そうそうそうそうそうそうそうそうそうそう。基本的に人生ってabテストだから、ガーって繰り返していくと、好きのストライクゾーンに近づいていくんです。単にファッションが好きでも、人にこんな服似合うかなって考えるとか、この素材で洋服作ったら面白いんじゃないかなとか、来年はこの色が来るってトレンドを予測するとか、「好き」という感覚を深掘りしていくと、自分に合った道が見えてくるはずです。

 ちなみにそういった意味だと、僕の好きは、やったことがないことをやってみることが好きなんですよ。これが言語化できた時にかなり腑に落ちた感があって。元々就労支援の会社を経営した時、働いたことがない人に「働くっておもろいよ」って紹介してていたのが、僕の中で面白かったんだなって。

 この好きっていうのは、2種類あるんですよ。僕は「エンジンとガソリン理論」って言ってるんですけど、まず僕の”好きのエンジン”はやったことがないことをやってみることで、この好きをよりよく生かしてる人がもう一方を大事にできる。大事にする必要があるのは、このガソリンだと思うんですよね。このエンジンは何で動いているかというと、僕の場合は移動・出張なんですよね。移動すると出会いと経験と対話っていう3つの変数が動いて、やったことがないことをやれる機会に出くわす可能性が高まる、という理論です。

 で、自分の好きに対するガソリンを言語化していないと、給油できないじゃないですか。例えば僕にとって移動が大事なんだって言うと、みんなは僕を移動に呼んでくれるんですよね。

 これからの会社は、多分”ガソリンスタンド”になると思っていて、みんな社員のエンジンは無意識的に見つけられるから、ガソリンを言語化してあげて給油してあげるみたいに、お金だけじゃなくていろんなインセンティブの設計するのが大事なんです。

石河  なるほどね。成澤さんがどういったところに着眼点を持ってるかとか、根底にあるものがすごくわかりました。そこでもうひとつ、成澤さんと話していると、心の中を詮索してくる感じが全くないんですよ。それがなぜなのかが今日よくわかった。成澤さんご自身が自分が何が好きかをよく理解して、人の心を詮索する必要がないから。周りにいると面白いし、信用できる繋がりが生まれるっていう期待感が出るんですね。

成澤  やっぱり得意をベースにした出会いや紹介って自分だとピンとこなくて、でも好きをベースにした出会いや紹介はワクワクするという経験ってあると思うんですよ。

 僕はこの時代、対話より会話が大事だと思ってるんですよ。世の中、対話をしすぎてると思っていて。1on1とか、ダイアログみたいなのがバズワードになって、マネジメント領域ではそれを大事にやってますけども。対話がキャッチボールなら、会話はドッジボールです。みんな、キャッチボールに疲れてるんですよ。なぜならちゃんとキャッチして返さなきゃいけないから。こうやって話をしている時に「あれ、石河先生の質問に僕、ちゃんと答えられてるかな。次はどういう質問しようかな」ってなってる。そうなると話の中身に集中できないですよね。

 一方で、ドッジボールは、ボールを避けてもいいんですよ。僕、あんまり人の話を聞いてないんですよね。喋った内容の中で、僕にとって都合のいい単語だけピックアップして喋り出すみたいな、感覚的にはそのラップバトル感があって、質問をよけてもいいんですよ。結局、人間って、キャッチボールをちゃんとするようにお上品にできてないはずなんです。

 多分AIは対話がもっとも得意だから、そっちにお任せした方がいいなと思っていて。

 要は、対話って中身でできるんですが、会話はリズムでできてるから。「いい時間だったな」って人が思う時って大体、話の内容じゃなくてリズムというか、今風に言うとバイブスだと思うんです。だから僕はその伴走先と喋る時に、先方も僕に「アドバイスしてください」とかももちろん言わないし、好きなことをお互いに喋ってて「こんなに何も気にしなくて喋れる時間やっぱないっすわ」っていうふうに、僕の調律は会話感があるというか、これが多分、人間の動物性を取り戻してる感じがあるんでしょうね。

石河 なんか見えましたね、今日のインタビューの落とし所が。うん。成澤さんみたいな考えかたが、次世代のリーダーのあるべき姿なんじゃないかな。

大学に入学したら「年寄りばかり」!?
経営難大学の生き残り方

 

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■成澤 俊輔(なりさわ しゅんすけ)
1985年佐賀県生まれ。徐々に視力を失う難病・網膜色素変性症を持つ。視覚障害による孤独感や挫折感から大学在学中に2年間引きこもる。その後復学し、経営コンサルティング会社でのインターン経験などを重ね、2009年に独立。2011年12月、就労困難者の就労支援と雇用創造をするNPO法人FDA事務局長に就任。就労困難者の「強み」に焦点をあてた、相互に働きやすい環境づくりに取り組む。キャッチコピーは「世界一明るい視覚障がい者」。2016年8月より同法人の理事長に就任。2018年第8回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞・実行委員会特別賞を受賞。2020年4月に事業承継をし、現在は約60社の経営者の伴走を行う。

石河睦生

1976年1月、山梨県生まれ。博士(工学)。桐蔭横浜大学講師。自由を勘違いしていた19歳の時、祖父が亡くなる前に私に言った。「睦生、人生は短い、やりたいことをやれ」と。そうかと心に決めて、憧れていたサイエンスの世界へ飛び込もうとしたけれど、義務教育と特に中等教育で遊び過ぎてしまった時間は、それを取り返すのに相当の時間がかかった。いや、いまだに影響は残っている。しかし、遊びにより人間関係の構築や“さまざまなこと”を企画するのことは出来るようになっていたため、まさに都市伝説の本流、フリーメイソンのグランドマスターや、有名作家、経営者、富豪たちまで幅広い方々との交流を楽しめてきた。それと同時に超音波の理解と活用というライフワークテーマを基に、世に喜んで頂けるであろう新しい“こと”作りとその提案も終盤に差し掛かるところまで来た。なんだか色々なことが共鳴していて、今は残響の中にいる。

石河睦生
最終更新:2025/03/10 10:52