良妻賢母型はFラン化の危機… 「理系再編」はなぜ女子大が生き残る道なのか

前々回の記事が掲載された翌日(3月18日)に、「広島女学院大学が経営譲渡」との新聞報道が出て、驚いた。
学校法人広島女学院によると「2026年4月に学校法人広島女学院から、学校法人YIC学院(京都)に管理主体を移管する計画(設置者変更)の認可申請手続き(https://www.hju.ac.jp/information/detail/N50NE-1323.php)」をしたとのこと。そして、その理由を「少子化、グローバル化をはじめとする社会の多様化」「女子大離れや共学・キャリア志向の高まり」、つまり「高等教育へのニーズが多様化」による募集困難としている。今後は「高度な教養教育と学術研究、ゆたかな人格教育を、YICグループの実践教育と融合」を目指すとのことで、2025年8月の文部科学省の認可のあとに将来構想を公表するようだ。
募集改善には、女子大として「最後の切り札」である共学化も選択肢にあったのだろうが、ここは戦後すぐに女子大を立ち上げたという伝統が許さなかったのではないだろうか。それに、学部構成が人文系と家政系といった旧来の女子大の典型である「良妻賢母」型の構成で、キャリア志向ではない。この旧来型の学部構成を改組して社会科学系や理工系を増設するには、かなりの資金が必要となる。それに教員確保もいまや簡単ではない。近年では広島国際学院大学が募集停止となっており、広島地区は過当競争が激しい。他大学の募集状況に鑑みても学部増設は勇気のいるチャレンジだ。
広島女学院は、キリスト教主義による女子教育を140年近く続けてきた伝統校である。その歴史と伝統は、今後、中学高校で維持されることになる。
法人としては、少子化の中で、定員割れをすれば学費が中高より高く赤字幅が大きくなる大学を切り離し、順調な中高を存続させて歴史と伝統を守り続けるとの判断なのだろう。賢明だ。
さて、ここで触れておかないといけないことがある。前々回、女子大の生き残りには、社会科学系、データサイエンス系、理工系がカギになると書いた。「あれ?」と思った人は少なくないだろう。
社会科学系は女性の「キャリア志向」があるので納得がいくだろうが、共学の大学に数多くある。特に私立大学の多くは社会科学系だ。データサイエンス系や理工系は、いわゆる「理系」だ。「理系」女子の進学者が少なく、理工系の大学で「女子枠」を設けるところがある。
しかしそうした中でなぜ、「理系」学部が女子大の生き残り策なのか。
難関国立大学では、大学入学共通テストで数学や情報、理科を含めた7教科を課されている。東大でも、一橋大学でも2次試験では数学が必須である。
早稲田大学では政治経済学部の入試で数学を課すようになったが、商学部ではデータサイエンス系の必須履修の講座が増えた。いまや学問分野を問わず「データサイエンス」を学ぶことは必須である。こうした状況を受けて、共学校であるが系属の早稲田大阪高校(早稲田摂陵高校から名称変更)の早稲田コースでは文理選択を高3になってから行うようになった。
研究大学を目指すのであれば、男女、文理を問わず、数学をはじめ理数科目をしっかりと学ぶことが重要になる。
この春の大学入試で、志願者を最も集めた私立大学は千葉工業大学であり、次いで近畿大学だ。近畿大学は理系の入学定員も多いが、昨年度(2024年度)、すべての選抜方式を合わせると情報学部が医学部に次ぐ高倍率となった。理工系人気は徐々に高まっている。
こうした潮流は大学だけを見ていてはわからない。大学の志望学部が上位層のみならず中堅クラスでも理系にシフトを始めていることはもちろんだが、女子大であれば女子校の変化に大いに注目するべきだろう。
東京大学をはじめとする難関国立大学への進学実績が高い女子校は、実は文系クラスよりも理系クラスが多い。今回、東大合格者を大きく増やして注目される洗足学園女子中学高校も理系クラスが増えた。
一方、昭和女子大学の附属昭和小学校では世界最大規模のロボティクス競技会に女子チームが日本代表となった。附属中高でもSTEAM教育に力を入れており、高校では文系クラスと理系クラスが同数になっている。さらに医学部や薬学部がある昭和大学との高大連携を深めていくことが計画されており、さらに理系進学者が増えると期待をよせている。
東大大学院総合文化研究科の四本裕子教授は、「男子脳、女子脳といった脳に性差はない。男性が数学を得意とするわけではなく、社会や教育の影響が大きい」と論文で指摘している。女子校で理系クラスが増えているにもかかわらず共学校で女子の理系が少ないのは、教員の問題なのだろう。
キュリー夫人をはじめ女性の自然科学系の研究者は少ないわけではない。女性だからと言って理系科目が苦手だとは言えないはずである。
大学が理工系に「女子枠」を設けるのは、理工系における女性学生の比率が低く、女性にとって居心地の悪さを感じる環境になりやすいためだ。奈良女子大学の工学部のように女子大ならばそうした問題はないから、女子受験生を集めやすい。
だから、これから女子受験生が増えると考えられる理系を女子大が設ければ志願者を集めやすくなり、女子大としての将来に道が開ける可能性が高い。
少なくとも「良妻賢母型」の学部構成では、この先の募集が厳しいことは、そうした女子大ではわかっていることだろうが。
(文=後藤健夫/教育ジャーナリスト)