自動運転タクシーの導入が加速する米国 意外にも立ち遅れているのはニューヨーク

一都市としては世界最大級のタクシー需要があるニューヨークが、タクシーの最新技術で「蚊帳の外」に置かれている。米国で導入の動きが加速している自動運転タクシーのことだ。カリフォルニア州やアリゾナ州、テキサス州では一般向けのサービスが始まっているが、ニューヨークにはその気配すらない。自動運転をめぐるニューヨーク州と市の規制が厳しいためで、ライドシェア大手のUberも5月8日、当のニューヨークで開いた新サービス発表会の席で担当役員が「ニューヨークでの自動運転は当面計画していない」と語り、ニューヨークの「後進性」が改めて浮き彫りとなった。
サンフランシスコでは当たり前の風景に
自動運転タクシーのことを英語では「Robotaxi(ロボタクシー)」と記すことが多い。無人のロボットがタクシーを運転するという意味だが、「ロボットタクシー」だと「t」が重なるため、「t」を1文字削った表現だ。
その「ロボタクシー」が実用化されているのは、世界で米国と中国だけだといわれる。米国でロボタクシーが本格的に運行されているのはカリフォルニア州のサンフランシスコとロサンゼルス、アリゾナ州フェニックス、テキサス州オースティンだ。
サンフランシスコでは、街を歩けば自動運転タクシーの分野で先頭を走るグーグルの親会社アルファベットの傘下にあるウェイモの車両をよく目にする。屋根にサイレンのような形の機械が取り付けてあるので目立つ。走っている車両の運転席に誰もいないのを見て「ギョッ」としてしまうようでは、時代に取り残されている証拠だ。サンフランシスコで驚くそぶりを見せる人はもはや少ない。
自動運転の研究を進めてきたテクノロジー企業や自動車メーカーは、試験走行をするために、アリゾナ州やテキサス州など規制が緩い州で主に研究を進めてきた。また、カリフォルニア州など自らの本社へのアクセスが良い場所も絶好の研究地で、自動運転車がこれらの地区に集まる傾向があった。このため、この4都市で「ロボタクシー」が早くスタートした。
逆を言えば、ニューヨークは規制が緩くなく、テクノロジー企業の本社とのアクセスが良いというわけでもなかったことから「蚊帳の外」状態を招いたともいえる。人間が存在しないため、私情を交えないはずの「ロボタクシー」の開発の背景には、人間臭さがぷんぷんしている。
試験走行の条件は「人が乗ることを」 テクノロジー業界ついて行けず
そのニューヨークの規制だが、市内で自動運転車両の走行試験をする場合は、運転席で常時、安全を管理する人間がハンドルを握っていなければならない。
ニューヨークのエリック・アダムズ市長は2024年3月、テクノロジー企業に試験走行を認めるという形でこの「厳格な」規制を発表した。それ以前の規制を踏襲し、開発を認めるような体裁で「実は認めない」ことを改めて強調した。
安全運転管理者については、企業側が管理者の採用と訓練方法の詳細などを当局に説明する必要がある。
ニューヨークの道路事情は世界でも最も過酷な部類に属するといわれる。市内の渋滞は常態化し、渋滞地域も広い。一般車のほかにバスやタクシー、トラックが入り乱れ、歩道には人があふれている。道幅が広いカリフォルニア州や道路に歩行者の姿がまばらなアリゾナ州などとは別世界である。
歩行者をはねるなど、自動運転の車が開発中に起こした事故がニューヨーク市内で起きれば大惨事になるということは、ニューヨーク市内を歩けば誰もがわかることだ。そういう意味では、当局の規制は当然のことだと大方の市民は納得している。
また、ニューヨークの規制では、他の都市で自動運転テストを経験していない企業の試験走行を認めないこととしている。申請企業は過去の実験結果や、衝突など発生した事故の詳細、安全運転者が車両の制御を引き継ぐ頻度などを当局に提出する必要がある。
「このままではゴーストタウンに」
そして、自動運転走行テストをニューヨーク市内で実施した場合は、そのデータを市のオープンデータポータルで一般に公開することになっている。
企業側から機密保持の要請があった場合は、そのたびに審査することになっているが、こんなことでは、とてもニューヨークで自動運転の試験走行などできない、というのがテクノロジー企業の本音だろう。
2017年にはゼネラル・モーターズ(GM)の子会社のクルーズがマンハッタン南部で走行実験をすると発表したが、後に理由がはっきりしないまま中止となった。
ボストンに拠点を置くオプティマス・ライドは、ニューヨークのブルックリンで自動運転シャトルの走行試験を行ったが、私道のみでの走行だった。
「このままだとニューヨークは自動運転のゴーストタウンになる」というのが、テクノロジー企業の共通の認識だ。
(文=言問通)